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side by side world(スバイス)  作者: 風見緑哉
仲間との出会い
20/32

【並世】Day6 浮遊機工

「ウワアアアアアアアアアアアアアア」

「落ちるううううううううううううう」

「ハンバーガアアアアアアアアアアア」

「なんでっ!?」


 コックピット内から見える地上の景色はゆっくりと近づいてくるように見えるが、高度メーターはものすごいスピードでクァバルデが降下していることを示している。降下というよりも落下だ。


「もう1回浮遊機工セットし直して! 早く!!」

「で、でも、また上昇が抑えられなければ同じことの繰り返しになるのでは?」

「それでもこのままクルッティコラの街中に墜落するよりまだマシよ! 天球にぶつかるにせよ墜落するにせよ大破することに変わりないわ!」

 リャホリィは焦りながら叫んだ。


 ニジーは浮遊機工を台座に押し込み、リャホリィが再接続する。


 ファファファファファファファファ


 また浮遊機工はターコイズ色の光を放ちはじめた。


「落下止まりませんよ!?」


 クァバルデの落下が止まる気配はない。


「全身に浮遊機工のエネルギーが行き渡るまで少し時間がかかるの!」

「このあとどうすれば……っ!」

「落下と上昇を繰り返しテ、緊急制御用ドローンが届く位置まで戻れれば大破させずに着地できるかもしれマセン……! タイミングがシビアすぎマスガ……」


 スウウウン


 エネルギーが行き渡って来たのかようやくクァバルデは止まった。だが、今度はまた上昇を始める。


「なんとか止まったけどやっぱり上昇はするわね……」

「コノ上昇の原因が分かれば色々解決するんですけどネエ。どうデショウ天才リャホリィサン?」

「分かってたら初めからこんなことになってないわよ! 顔コワなくせにいやな言い方するわね!」

「呼び方……ッ」




 パキッ……パキキッ……



 嫌な音が聞こえたような気がした。


「い、今、変な音しませんでした……?」


 ニジーは辺りを見渡すが特に変わったことはない。

「イエ、何も聞こえませんデシタヨ」

「塵か何かがクァバルデの外装に当たった音じゃない?」

「ならいいんですが……」


 気のせいかとニジーはほっと胸を撫で下ろした。


「さっきの落下高度と速度を計算して……地上までの距離と浮遊にかかるまでの時間は……」

 リャホリィはブツブツと呟きながら画面に計算式を書き殴る。話しながらも現状把握に務めていたようだ。


「よし、これなら! もう一度浮遊機工を外してあたしの合図ではめ込んで。ドローンが届く位置までなんとか降ろすわ」

「了解!」

「信じマスヨ!」


 3人はまた浮遊機工を台座から引き抜こうと手をかける。



 パキッ……




 ピシィッ




 浮遊機工からガラスが割れるような音が響いた。


「なっ……!? 浮遊機工にヒビが!!」

「ワアアアア! ヤヤヤやっぱり強度が足りなかったんですネエエエ!!」


 ルーがガクガクと震え出す。


「どういうことですか!?」

「浮遊機工は強度が強いほどブルーに近く、透き通っているほど軽いんデス!! この浮遊機工を見た時、浮遊実験を失敗した時の色に似てるナァと思いマシテ」


 リャホリィの浮遊機工は緑に近いターコイズ色だ。完全な透明ではなく中にモヤが入っている。

 そういえばルーは地上でリャホリィの造った浮遊機工を見ていた時に、色が気になると言っていた気がする。


「う、うるさいわね! それでもこの色にするのが精一杯だったのよ!」

「……ちなみに浮遊機工が割れると?」

「浮力が失われて、ただのガラス玉になりマスウウウ」

「えええええ!!?」


 その言葉に3人は手を止めた。

 重い沈黙がコックピット内に広がる。


「……どうします?」

「引き抜いた衝撃で割れない保証はないわ……でもこのまま上昇し続けても結局天球にぶつかるんだから、割れないことを祈って抜くしかないわよね……」

「こここの際、思いっきり引き抜いちゃいマショウ!」


「せーの!」

 3人は浮遊機工を引き抜いた。


 パキッ……

 ヒビが少し広がったがまだ割れる気配はない。そしてまたクァバルデが落下し始めた。


「割れなくてよかった……でもここからが本番!」

 リャホリィは手袋をグッとはめ直し、気合いを入れた。


「ザザッ…………こえるか…………応答……ザザッ……きこえ……聞こえたら応答しろ!」

 その時、ニジーの持っている緊急通信端末から声が聞こえてきた。


「こ、これはスミスサンの声デスネ!」


 ルーはニジーから通信端末を受け取ると、ピッと背を伸ばして応答した。

「こちらルー。浮遊機工による上昇が止まらないタメ、現在強制的に浮遊機工のリンクを解除してイマス」


 通信端末からようやく繋がったぞ! という声と周りの歓声が聞こえてくる。


「ザザッ……こちらからクァバルデが降下してくるのが補足できた。位置的に……に流れているようだ。このまま降下すると……に激突する。移動し……ザザッ」


 あまり通信端末の性能が良くないのか音声が乱れる。

「何に激突するッテ? スミスサーン! オーイ!!」


 音声はまた聞こえなくなってしまった。

「なんて言ってたか聞き取れマシタ? ニジーサン」

「いや……このまま降下すると激突するとしか」

「このまま降下すると何かに激突するらしいデス!!」

「降下中は移動できないわ! 浮遊機工を戻さなきゃ!」


 ニジーは持っている浮遊機工をもういちど台座に慎重に置く。心なしかヒビが浮遊機工の内部まで広がってきている気がする。


 地上が近付いてきた。


 ファファファファファファ


 浮遊機工が作動し、また上昇し始める。


「これで移動デキマスネ! リャホリィサン、クァバルデを至急東広場の方まで移動させてクダサイ!」

「……。……無理」

「今ナント?」


 リャホリィは操縦桿を握りながら青ざめた様子で2人の方を見た。


「……操縦が完全にきかないわ」

「操縦が、きかない!?」

「エエエエエ!!? チョ、ちょっと操縦代わりマス!」


 リャホリィの代わりにルーが操縦席に着く。陶器のような白い肌を真っ赤にしながら、目にも止まらぬ速度で機器を操作する。


「操縦できそうですか!?」

 ニジーはルーの顔を覗き込むが白目をむいている。

「……ダメデス。浮遊機工に入ったヒビのせいかもしれマセン。ギリギリ浮いている状態デスネ」


 3人はうなだれた。


「このまま待ち続けてもいずれは天球にぶつかり、移動しないまま落下したら何かに激突して墜落する……八方塞がりだわ……。ああ、もうどうすればいいの!」

「もうこのタイミングで脱出するしかないかもしれマセン」

「脱出……」


 ニジーは脱出に使うためのホバーボードをみた。ホバーボードの中央には青く透き通った浮遊機工が光っている。


「あの、ルーさん。一応聞いてみますけどホバーボードの浮遊機工ってクァバルデに付け替えられないんですか?」


 ルーとリャホリィは信じられないと言った様子で、あんぐり口を開けてニジーを見た。


「う、クァバルデへの浮遊機工の接続は綿密な機体のセットアップが必要デス! 10年前と仕様も変わっているデショウ。作動するかどうかすらもワカリマセン」


 リャホリィは口に手を当てながら考え込むような仕草をすると、ルーの浮遊機工を見た。

「でも言われてみればこの初期型浮遊機工は一度クァバルデを飛ばしたこと、あるんでしょ? セットアップができればもしかしたら……」

「脱出方法がなくなりマスヨ!?」


 パキパキッ……ピキッ……

 話している間にもクァバルデに接続された浮遊機工にはヒビが広がっていく。


 リャホリィはコックピットの先端から地上を見渡し、画面越しに見える地上に目をこらした。


「もしかしたらスミスが伝えようとしてたのって『レールレイン』かもしれない……」

「激突するって、よりにもよって『レールレイン』にデスカ!? ソソソソンナ、とんでもない被害が出マスヨ!?」

「レールレイン?」

 あまりにも狼狽する2人の様子を見てニジーは首をかしげる。


「……クルッティコラの街で細長い電車みたいなのがあちこち走ってるのをみなかった? それが街全体を繋ぐ『レールレイン』。線路が街の上空にもあるんだけど、このまま降下するとちょうどその線路に衝突しそうなの」

「『レールレイン』はスバイス初心者たちの大事な足デス。線路を壊したら修復までどのくらい時間とお金がかかるカ!」

「しかもクァバルデも大破するっていう最悪のおまけ付きね!! 満了前に引退レベルの事件になるわ」


 先ほどまで自信満々そうだったリャホリィも震えている。さすがにただの飛行テストがこんな大ごとになるとは思っていなかったのだろう。


「そもそもなんでこんな不安定な浮遊機工を使用したんデスカ?初期型浮遊機工完成までの実験結果はクァバルデ工房に残しておいたはずデスガ」

 リャホリィはムッとした表情でルーを睨む。

「今までこの浮遊機工を使った実験で失敗したことなんてなかったから今回も大丈夫だと思ったの!」

 ルーはやれやれと首を大きく振る。

「全ク自分の力を過信しすぎるナンテ機工作士として失格デスヨ。機工作士の実験は失敗が当たり前の世界デス。素直に最初のドローンが届く時点で助けてって言えばよかったんデスヨ」

「誰もあんたに助けてなんて頼んでないわよ!! 勝手にここまで来たんでしょ! 助っ人に来たって自信満々に言ってた割には役に立たないわね!!」

「……グッ!! そこまで言うならワタシだってネエ……」

「今ここでケンカしてる場合ですか!? それよりもなんとかする方法を……」


 ニジーが2人の仲裁に入ったその時だった。



 パキパキパキパキッ……ピキッ……



 ピシッ



 ……パキィン!



 ガラスが割れるような音と共に、ぱあっとターコイズ色の光が弾けた。


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