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『入れ替える』

作者: ターバン

 俺は御神(みかみ) (さとる)

 見た目は普通の社会人。何の障害のない人生を歩んでいる。

 たまたまなのか、道路に猫が走り込んで車にひかれそうになるのを見て感情が弾けた。すると途端に猫が人間に替わり血飛沫が舞った。

 ザワザワ騒ぎが大きくなっていくのを眺めながらため息をついた。


「悪徳政治家など死んでも問題なかろう……」


 この能力に気付いたのは三歳頃だった。




「お前なんか産まなきゃ良かった!」


 いわゆる虐待親である。父と母はかなり荒れていてギャンブルやアルコールに依存している碌でもない人間だ。

 俺は父に殴られ、母から暴言を浴びせられ、心が凍てついたまま「あいつらシねばいいのに」と黒い感情を溜め込んでいた。その時だ、父が殺気立った顔で殴り始める所に「ママにやれよっ」って感情が弾けた。

 今までのらりくらり暴力を避けてきた母と位置が入れ替わって、そうと知らずに父はボコボコと殴り続けていた。

 悲鳴を上げて泣き喚く母を見てスッとした。


 今度は母からの暴言を言われようとした時に「パパにいえ!」と位置を入れ替えた。

 いきなりの暴言に父は戸惑い、そして言い争いになった。やがて取っ組み合いのケンカに発展していった。


 何度かこの能力を使って初めて分かったんだが『単に対象を入れ替える』だけじゃない事が分かった。始めっからその人にしかけるみたいに記憶も改竄されているようだった。

 だから父は自分の子供を殴る時に疑問を抱かずに、入れ替わった母を殴り続けていた。母の暴言も同じ。


 ──なにか虐待が起こるたびに父と母に押し付けてやり過ごすようになった。

 あまり食事をさせてくれない時だって、父か母と入れ替えれば済む事だった。トラブルは全部あっちに押し付けてケンカを他人事のように眺める日常だ。


「おれはかみさまになったんだ!」



 小学生になって華やかな学校生活が始まると胸を躍らしていた。

 しかし、みずぼらしい俺だからか心ない同級生が悪口を言いながら殴ろうとしてきたのだ。なんとなく悪意が察し取れていたので能力を発動した。

 突然現れた父が殴られ「ああ!? なんだよォ!? クソガキがァ!!」とイジメっ子が逆にボコボコにされて騒ぎになった。骨折もしたらしくゾクッとした。なんか父が逮捕された。


「あんたのせいなのよ! この……」


 暴言してくる母に父をあてがった。今度は脱獄したとの事で父は再び逮捕された。


 なんかスッキリしないなと思いながら、学校へ通っていた。

 やはりというかイジメっ子というのは湧き出してくるようで、孤立した弱そうな俺をターゲットにしてくるようだ。

 いちいち父と母を召喚しても繰り返すだけだ。ならば!


 俺はイジメっ子と()()()()()()()


 始めっからイジメっ子はそこで育ったかのように母から虐待を受けて、犯罪者の息子として、小学校で孤立していった。

 それでも加虐根性があったのか、周囲への八つ当たりは酷くなっていた。

 裕福な家庭の俺にも殴りかかろうとしていたので能力発動──。


「パパにしかられろ!」


 囚人の()父に殴らせて、返り討ちにあって、再び騒動が起きるが全部向こうの家庭問題。()()()()()()

 強制脱獄させられるたびに()父は罪が重くなっていったが()()()()



 俺には好きなだけ入れ替える事ができる神の能力がある。


「おれは神さまだ!」


 悪い事しても全部他人にかぶせれば済む事。成績だって横取りできる。なんでもできる。

 そういう後暗い考えがよぎっていた。

 だが、俺は長年の虐待を受けて人間の底知れない悪意を嫌というほど思い知らされた。


 それに入れ替えたイジメっ子の()家族はみんな優しくて暖かいものだった。

 なぜイジメっ子が生まれたのか疑わしいほどに……。

 悪い事したら優しく叱ってくれる。尻叩きで済む。殴るとか蹴るとか罵詈雑言吐くとか殺意満々ではない。


「神さまは悪いことしないんだ! えらばれたえらい人だからだ!」


 善と悪両方を思い知って、俺は自分の能力の使用を控えた。

 きっと最限りなく能力を多用すれば、自分は最強最悪の悪人になると予感がしたからだ。

 平凡な学生生活を経て、それなりに友人と楽しんで、大学を卒業して社会人になった。


 そしてニュースを見て時々思う。


「なぜ繁栄していたはずの国の人々はどこへ行ったのでしょう? まるで古代文明のようですね。ただいま調査中です」



 ()()()()()()、と……。


 実は色々やらかして地球上の国はいくつか消失して()()()()が増えていた。

 侵略戦争を起こしかねない悪意ある国をまるごと地球外惑星に移し替え、()()()地球に戻す。それで戦争は簡単に阻止できた。

 その弊害として人口が大幅に減ったが、然したる問題ではあるまい。


「俺は正しい事をしているのだ。なぜなら神様だから」



 これから俺は神様として人間社会を守らねばならない。

 二度と戦争が起きないように、徹底的に人類を管理する必要がある。その義務が俺にある。


「そうだ……! 余は神なり!! 新世界を創造せし者……!」




 まずは永遠の新世界を築くべき、自分より若い悪人と寿命を入れ替えて、実質永遠の命を得る事が立証された。

 できればより若くてより悪人がいい。

 家族も入れ変えれば怪しまれずに済む。そうやってイケメン&資産家を主体に入れ替わり続けながら戦争の目を潰し続けて生きながらえてきた。


 ────数十年!


 ────────数百年!!


 ────────────数千年……!!


 ────────────────数万年…………!!!



 気の遠くなる年月を経て、もはや自分が元々は()()()()()()だったのか忘れてしまった。

 ただ分かるのは自分が()()だという事だけだ。


 完璧すぎる永遠の平和な人間社会を眺めながら、余は穏やかな顔で一言。


「飽  き  た!」



 その瞬間、太陽はブラックホールに入れ替わっ────────────タ!

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