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エピローグ

本日二話連続投稿で、こちらは二話目です

一話目を読んでいない方はそちらから読んで下さい


 

 ひらり、と雪が空から舞い降りて来た。

 

 たった一粒の変哲もない雪。

 でもこの場所では初めてのそれは、なんとなく伸ばした掌の上に落ちて消えた。


「……つめたい」


 もうダンジョンの中で雪が降るころか、と今朝の寒さに納得する。

 確か、気温の変化の小さいダンジョンでも外の気温が一定以下になると雪が降り始めるらしい。


 ……今日は特別布団から出るのが億劫だったし。


「……はあ」


 吐いた息が当然のように白く染まり、差し出した手を少しだけ温める。

 手袋を嵌めてくればよかったかな……なんて思い――。


「――ユース、これを」


 目の前に大きな手袋が差し出された。

 私が思い描いていたものと二回りは違う、男性用の手袋。


「……う、うん、ありがとう。

 …………あ、でもいいの?」


 差し出されるままにそれを受け取り――そこで気付く。

 私がこれを受け取ってしまったら、当然、彼がつけるものは無くなってしまう。


 私のために彼が寒い思いをするというのは……今の私には、少し抵抗があった。


「大丈夫。僕は採取用の手袋を持ってるから」

「……よかった、なら借りるね」


 安心し、手袋を嵌める。

 手が暖かな感触に包まれ――思わず笑みが漏れた。


「……ふふ」


 暖かいのが優しくて、気を使ってくれたのが嬉しくて――敬語ではない対等な言葉遣いが、まだ少しだけ、こそばゆかった。


「――ん?どうしたんだい?」

「……んーん、なんでもない」


 説明するのが恥ずかしくて、ついはぐらかす。

 きっと顔が少し赤くなってるだろうな……と思った。

 

 ――と。

 

「……あ」

「着いたね」

 

 前方では、長く続いていた木々が途切れていた。

 視界が開け、それまでとは違う色が視界に広がる。


「……ここも久しぶり」

「夏以来だから、半年ぶりになるかな?」


 森を抜けた先、そこにはいつか見た花畑があった。

 イースの森、外延部を抜けた先の、沢山の薬草が生える場所。


 今日はルートの知り合いから頼まれて、夏のあの時のように、薬草を集めに来ていた。


「……んー、良い匂い」


 大きく息を吸って、吐き出す。

 狭く、歩き辛い森を抜けて来たので解放感も大きい。


 隣に立つルートも、大きなバックを下ろして軽く背伸びをしていた。

 

「さて、じゃあユースは休んでて、さっと集めるから」

「……え?……まって」


 ルートが荷物を手に取り、奥に向かって歩き出す。

 そんな彼に手を伸ばし、待ってほしいと引き留めた。


「……私も手伝うよ?」

「いや、ここまで来て疲れてるだろうし、いいよ。

 あの時もそうだっただろう?」


 ルートが申し訳なさそうな顔をして断る。

 確かにそれはその通りだけど、でも……。


「……ルートの、役に立ちたい」

「え?」


 夏のあの時、私は椅子に座ってルートを待っていた。

 でも、それは今思うと、私とルートが対等じゃなかったからでは……なんて思うのだ。


 主人だから椅子に座って当然だし、奴隷だから率先して動いて当然だ。

 あの時の私とルートはそういう一方的な関係だった。


 意識はしてなかったけど、当然のようにルートは私に尽くしてくれていて、私は当然のようにそれを受け取っていた。


 ……でも。


「……私も手伝う……だって」


 今の、主と奴隷じゃない対等な二人なら、きっと違うかたちになると思う。

 まして私たち二人は――

 

「――こ、恋人?……なんだから。助け合わないと」

「ユース」


 あの日、私が告白して、ルートは受け入れてくれた。

 だから私たちは恋人だ。間違いない。


 ……あれから一カ月経ってもまだあんまり実感がないけど。

 ……実は夢だったんじゃないかって、毎日不安になるけど。


「……そうだね、ありがとう。

 じゃあ、彼女さん。僕が薬草を集めるから、十本ずつ束を作ってくれるかな?」

「――う、うん!まかせて!」


 ルートの言葉が嬉しくて、胸が熱くて仕方ない。

 一緒に頑張ろうと思う。一緒に頑張りたいと思う。

 

 日本にいたときとは違って、二人で。

 大切な人と歩いていけるのが、何よりうれしかった。


 ◆


 そして――少し時間が経って。

 日が大きく傾いたころ、私たちは花畑を発った。


 二人とも背中には大きな荷物があって、まるでカタツムリみたいだと思う。

 持って帰る薬草の量は前回より随分多くなった。

 

「……ふふ」

 

 背中には確かな重みがあって、でもそれが少し心地いい。

 ふと隣を見ると、ルートと目が合って、二人して笑いあった。

 

「……ルート」

「なんだい?」


 ――しばらく歩き、町へ出る。外はすでに日が沈みかけていた。

 空を舞う雪の数も段々と増えてきて、急速に気温が下がっていくのを感じる。

 

 時折吹き付けてくる風は驚くほどに冷えていて、勢いも強い。

 一際強く吹いたそれは、地面に積もった雪を巻き上げていった。

 

「……手、繋いでもいい?」

「ああ、もちろん」

 

 ――でも、それなのに……実はそんなに寒く感じなかった。

 何故って、それはきっと二人で寄り添って歩いたからだ。



 

これで『ネガティブで自己肯定力が低くてコミュ力も低いTS少女が異世界迷宮都市で幸せになる話』は完結となります。

約半年の間拙作に付き合っていただきありがとうございました。


次回作の構想もできておりますので、数カ月以内には投稿することになるかと思います。

機会がありましたら、そちらものぞいてやって下さい。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 前のユースさんの話は読んでて心が痛かったです。 ですが丁寧な描写のお陰でハッピーエンド最高でした。 優しい世界ではないけどミーネさんも幸せになってほしいです〜 [気になる点] ルートさんい…
[良い点] ハーメルンで知り、こちらで一気読みさせていただきました。素晴らしい作品をありがとうございました。 何が素晴らしいって、全編を通してユースが「他人に愛され、愛する」ことを知ってゆくところです…
[良い点] ああああああああ!てえてえてえてえてえてえ!!! ハーメルンから一気読みさせていただきました。 もどかしい関係性…ううきくううう!!! むっちゃ楽しんで読ませていただきました。ありがとうご…
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