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魔人族の角について


 普通の会話とは、難しいものだと思う。


 正解なんてなくて、時と場合によってすべてが違う。

 教科書もないし、学校ではそういうことは教えてくれなかった。


「……でも、種族の違いっていうのはやっぱり大きいんだね」

「ええ、僕も色々な種族の人と話したことがありますが、思いもよらない違いがあって驚くことがあります」


 自分の言葉が人にどんな風に聞こえているのかわからないし、目の前でニコニコしている人が、実は裏では腹を立てているかもしれない。


 普通に会話できている気がしても、もしかしたら嫌々私と会話してるんじゃないか、本当はすぐにでも携帯を見たいんじゃないか。

 

 ……なんて、そうやって不安になる。


「例えば……この町に住んでいる種族ですと、鱗人族が変わっていますね」

「……鱗人族?」


 ……でも、不思議なことに……いつの間にか、ルートに対してはそういう不安を感じなくなっていた。

 それは、これまでルートがいつも優しく笑っていてくれたからかもしれない。


「ユース様も見たことがあるはずですよ。迷宮にある湖で店を開いていた彼の事です」

「……えっと」


 少し脇に逸れていた思考を戻す。

 目の前ではルートが部屋の椅子に座りながら私にゆったりとした口調で話しかけてくれていた。


 時刻は少し日が昇り始めたころ。

 朝食の後、特に用事もないので部屋に戻ってのんびりと会話をしていた。


「……ああ、あの」


 ルートの言葉に以前のことを思い出す。

 一緒に行った湖……そういえば、店に大きなリザードマンみたいな人がいたような気がする。小さめの店の中で丸まるように座っていて……可愛らしいエプロンが印象的だった。


「彼らは湖や川の傍にしかいない種族なのですが……その理由が変わっていまして」

「……渇きに弱いとか?」


 小説とかだったら、そんな感じの理由が多かった気がする。

 鱗が乾くとだめだ……みたいな。

 

「ほとんど正解ですが、それだけでは足りません。

 実はですね……彼らは身長が三メートルくらいあるのでわかりにくいんですが、鱗人族の頭の上には白い皿のようなものが乗っているんです」

「……皿?」

「ええ、そしてその皿が乾いてしまったら、彼らは気を失ってしまうそうです。だから、彼らは常に水を補充できるところにしか住めないのです」


 ……河童かな?


「……そ、そうなんだ……不思議だね……」

「ええ、異種族というのは、不思議が多いです。

 未だに解明されていない謎だらけで……錬金術師としてはとても興味深いですね」


 少し遠くを見るルートの目が輝いている。

 楽しくて仕方が無いという顔で……やはり彼は研究者なのだろう。


「そういえば、ユース様のような魔人族も謎が多い種族だと言われていますね」

「……私?」


 その言葉に少し驚き……納得する。

 確かに、我ながら不思議な種族だと思う。


「……シールドとか、ほんとによく分からないもんね……」

「ええ、魔法使いや防御系魔道具の職人が、数千年も頭を悩ませている謎です」


 普段は影も形もないのに、攻撃されたときだけ展開される謎の障壁。

 手を握られても展開しないし、頭を撫でられても展開しない。でも。毒のついた手で触られると自動的に展開される。


 ……どうやって判別してるんだろう?


「頭の角に秘密が隠されていると言われていますが……どうなんでしょう?」

「……うーん」


 そう言われてもわからない。

 意識して使っているのでもないし……手や足の動かし方を説明できないのと一緒だと思う。


「……」


 ただ、角が重要な場所だ、というのは間違いないことでもある。

 なぜって、ここだけは攻撃されたとか関係なく、常に障壁が展開されているからだ。 


「魔人族の角は神秘の塊です。生きている魔人族は当然触らせてはくれませんし、死ぬと角は霧散してしまいます。だから魔人族の角に触れるというのは、錬金術師にとっては一種の憧れでもありまして――」

「……?触りたいの?」

「――え?……え、ええまあ。……しかし、魔人族の角というのはよほど特別でないと」


 何故かルートが慌てている。

 でも――。

 

「――いいよ?」

「……え?」


 別に、角に触りたいというのなら構わない。

 他の人は駄目だけど、ミーネさんでも抵抗があるけれど……ルートなら全く問題はなかった。


「……これで、大丈夫だと思う」

「……えっ」


 角の障壁を解除する。

 常に覆われているとは言っても、意識して解除するくらいはできた。


「……どうぞ?」

「い、いいんですか?」


 近づいてくる手が震えていて、なんだか大げさだなあ……なんて思った。


「あ、暖かいんですね」

「……うん」


 ゆっくりとルートの指が私の角を撫でる。

 触れるか触れないかのところを通っていって……なんだか背中の辺りがぞくぞくした。

 

「……ふふ。そんな風にされるとくすぐったいよ」

「あ、ああ、すいません……その、恐れ多くて……」

「……えー?」


 角にルートの手を感じながら、そんな話をする。

 雰囲気が心地よくて、なんだかすごく照れくさい。


「……もっとしっかり触ってもいいよ?」

「で、では」


 真剣な顔をしたルートの顔が近づく。

 それが、私を見て真剣になってくれていることが、とても嬉しかった。


 そして――。


「ありがとうございました」

「……うん」


 しばらくして、ルートの手が離れる。

 彼の満足そうな顔が嬉しい。


「……しかし、これは僕も覚悟を決めなければいけませんね……」

「……え?」

「いえ、何でもありません」


 そして、立ち上がりながら、ルートはそんなことを呟いて……それが少し不思議だった。


 


 魔人族の角

 魔人族の魔力の中枢にして、最大の急所。

 その特性から、触れることが出来るのは最愛の伴侶だけだと知られている。

 

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― 新着の感想 ―
[一言] はあかわいい尊い… トロトロに蕩けそう…
[良い点] はぁ・・・今回もユースが可愛い、ずっと読んでたい。
[気になる点] ところで以前の羊っ娘みたいにブラシゴシゴシはまだですかね?(ニチャア…
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