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季節感は場所によって違う


 ダンジョンに行った次の日、朝。

 体を起こすと冷たい空気が肌を撫で――思わず体が震える。


「……さむい」


 もう一度布団の中に潜りながら、もう秋も終わりだなあ……なんて思う。

 この世界に来たのがちょうど一年前の今くらいだったので、これからどんどん寒くなることは分かっているし。


「……まほうまほう」


 指をふって魔法を使い、軽く空気を温めて暖房代わりにする。

 こういう時、魔法は本当に便利だ。機械と違って時間がかからず、ついでにお金もかからない。


「……ん」


 再度布団から起き上がり、軽く伸びをする。

 魔法の力は偉大で、先ほどまで感じていた冷気は全く感じない。


 水差しから水を飲み、顔を洗う。いつものルーチンワーク。

 そしてそれが一通り終わった後――鏡の前に座った。


「……今日は自分でしないと」


 いつもはミーネさんが髪の手入れを手伝ってくれるけれど……今日はそういうわけにはいかない。


 宿屋というものは季節の変わり目は特に忙しいらしい。

 なので、その看板娘であるミーネさんもまた、しばらく忙しくなると聞いていた。


「……」 


 こうしている今も、少し耳をすませば、忙しそうに動き回る人の気配がする。

 パタパタと走り回る音や、大きな声で何かを言っているのが聞こえてきた。


「……うん」


 少し寂しいし、ミーネさんも申し訳なさそうな顔をしていたが、無理をして手伝ってもらうのも心苦しい。

 

 それに、髪の手入れをするようになってそろそろ半年だ。

 いつまでも手伝ってもらう訳にもいかないと思う。


「……」


 櫛を手に取り、髪に通す。

 ミーネさんと比べると拙いけれど、さすがにやり方は分かっている。


「……でも、慣れたなあ」


 角をよけながら櫛を通しつつ、思う。

 もうすっかり慣れた。髪を整えるのも――ひいてはこの体自体にも。


 一年前の同じころは、何もかもが分からなくて、どうしようもなくて。

 ……あの頃と比べると何もかもが大違いだ。


「……よし」


 今ある幸福を実感しつつ、一通り整え終わった。

 軽く鏡の前で回り、確認する。ふわりと服の裾が広がった。


 ……うん、大丈夫。

 

 きちんとできたことに満足し、一度頷く。

 そしてそのまま、立ち上がった勢いで部屋を出た。ちゃんとできたところをミーネさんに見てもらわないと。



 ◆



 ミーネさんに見てもらった後、食堂へと向かう。

 ……なんというか、すごく褒められてしまった。


 よくできました!

 ……なんて言われたの、本当に久しぶりで――嬉しいけれどすごく照れくさい。


 髪を整えるくらい、練習すればだれにでもできると思うけど……いや、それくらい前の私が酷かったのか。そういえば半年ボサボサ頭だった。

 

「ユース様、おはようございます」

「……ルート、おはよう」


 食堂に着くと、ルートが声をかけてくれる。

 通路の横に転がっている“それ”をよけつつ、ルートの横の席に座った。


「どうぞ。今朝は少し冷えましたが、大丈夫でしたか?」

「……うん、魔法があるから」


 ルートがお茶が入ったカップを渡してくれる。

 少し冷えた手に、心地よい温度が伝わってきた。


「もうすっかり冬ですね。昨日取りに行ったそれも大活躍しているようです」

「……うん、よかった」


 ルートが指を指しているもの――それはさきほど通路でよけたのと同じものだ。

 茶色の球状の物体。十センチくらいの大きさで、食堂でも一定間隔で床に置かれている。


 この街では毛玉、と呼ばれているそれ。

 それは、季節の変わり目で抜け落ちた獣人の毛を自動で集めてくれる魔道具だった。


「……」


 毛玉がコロコロとこちらへ転がってくる。

 一定範囲内で落ちた毛を感知して転がり、自動で取り込んでくれるらしい。


 ……去年の冬と、今年の春にも見たけど結構シュールだな、と思う。


「……でも獣人の人も大変だね。こんなものが必要になるくらい毛が抜けるなんて」


 昨日突然、占いで今朝の気温が大きく下がるのが分かったらしい。

 そんな日は多く毛が抜け落ちるそうで、その準備のために昨日は慌ててダンジョンで材料を集めていた。


「宿屋によってはこの季節、部屋から追い出される獣人もいるようですね。

 まあその代わり、厚着しなくても寒さに耐えられるので一長一短ではありますが」


 ……ああ、春にダンジョン内でテントを張ってる獣人がいると思ったけど、もしかしてそれだったんだろうか。

 楽しそうに酒盛りしてるからキャンプなのかな……と思ってたんだけど。

 

「……しかし毛玉を見ると、もう冬だなという気がしますね」


 ルートがしみじみ……といった感じで言った。

 ……そんな、風物詩みたいに……と思ったけれど、ふと考えなおす。

 

 いや、もしかして実際にそうなんだろうか。

 日本でも吐く息が白くなると、そろそろ冬だな……みたいに思っていたし、国や文化によって、当然その辺りの感覚も違うのだろう。


「……」


 やっぱり異世界なんだなあ……なんて、少し離れたところで怒られている獣人の人を見て思う。

 そこでは小さくなった獣人の人がミーネさんに『食堂で毛づくろいするなって言いましたよね?』と怒られていた。


 ……あの獣人の人、普段はいかにも歴戦の戦士、て感じなのに……。

 

 

 

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