確かめないといけない
間違いは確かめないといけない。
そうしないといつまでも気になって仕方ないからだ。
◆
ミーネさんが言っていたように、ルートと一緒に行動して見ることにした。
確かめるためだ。
私がルートに抱いている気持ちが恋ではないということを。
そのために、早速聞いてみることにする。
「……あの、ルートちょっといい?」
「なんでしょう、ユース様」
……しかし。
考えてみると私はルートが休日に何をしているのか、ほとんど知らない。
私が知っているのは錬金術をしているのだろうと言うことだけだ。
「……その」
正直に言うと、これまでも気にはなっていた。
でも、これまでそこに触れなかったのは……日本にいたとき、それで痛い目に遭ったからで。
かつての部下の記憶が蘇る。
休日何したの?と聞いたときに帰って来た、『……それ、先輩に関係あります?』、との一言。
……そういう記憶は私の中に沢山あって……。
気が付いたときには身動きが取れなくなっていた。
「……」
……だからこれまでルートにも聞いてこなかった。
でも、今回はルートについて行きたいと思っていて。
「ユース様?」
あんなこと、ルートは言わない、と思う。
そうは思うものの、いざ聞くことになると躊躇してしまう。
かつてはだいぶ落ち込んで、しばらく立ち直れなかったから。
「その……」
最初の一言を出せない。
どうしようかとまごまごする。
「ユース様」
ルートの声。
顔をあげると、ルートは優しい顔で私を見ていた。
「僕に出来ることがあれば、何でも言って下さい。
僕はあなたの力になりたいんです」
「……え……あ、う」
一瞬、意味が理解できず頭が固まる。
でも、次の瞬間には理解できて――顔にすごい勢いで血が集まって来た。
「……うぅ」
心臓がバクバク言ってるし、顔は熱くて火が出そう。
目が泳いでルートの顔を見ていられない。
……困る。
そんなに優しいことを言われたら、どうしていいかわからない。
無性に恥ずかしくなってきた。
着ていたローブのフードで視界を隠す。
……でも、そんな混乱の中、頭の隅の冷静な部分が不思議そうに首を傾げた。
私、なんでこんなに混乱してるんだろう?
前にもこんな感じのこと、言われたけれど、その時はこんなにならなかったのに。
「……その、今日ね」
「はい」
混乱を誤魔化すように口を開く。
不安はいつの間にか消えて、それ以上によく分からないものが私の中にあった。
「……今日、ルートについて行っていい?」
「僕に、ですか?」
「……うん、ルートが何をしているのか知りたい」
用意していた言葉を言う。
すると、ルートは一瞬驚いた顔をし――そしてすぐに笑顔になった。
「ええ、もちろんいいですよ」
「……うん」
胸の辺りが熱い。
なんだか、笑いかけてくれるルートの顔を見ていられなくて。
「……えへ」
……私はフードをさらに深く被った。
◆
デートですか?と笑顔で聞いてくるミーネさんを背に宿を出る。
隣を歩くルートは苦笑いをしていた。
……まったく。ミーネさんは何を言っているのやら。
違うといっているだろうに。
「今日、僕は錬金工房に行く予定だったんですけど、それでもいいですか?」
「……うん」
気を取り直し、ルートに手を引かれながら道を歩く。
錬金工房。これまで行ったことが無い場所だった。
「ユース様は行ったことはありますか?」
「……ううん」
首を横に振る。ルートに会うまで錬金術に興味はなかった。
そんな場所にあえて近づく理由もなかったし。
「では、今日は色々説明させてもらいますね。
僕の専門分野なので、詳しい話もできると思います」
なんだか、ルートの目が輝いてる気がする。
楽しそうな、嬉しそうな、プラスの要素しかない笑顔だ。
……なんだかその笑顔を見ていると、胸の辺りがむずむずして――
――でも私にはそれがなんだかよく分からなかった。
◆
歩くことしばし。足を進めていくと、段々周囲の景色が変わって来た。
それまでと違うというか……少し薄汚れているというか。
これまでいた表通りとは違う感じ。
道にゴミが落ちていて、路地には人が座り込んだりしている。
「この辺りは少し治安が悪いので気を付けてください」
……もしかして、スラムというやつなんだろうか?
それまでとは違う雰囲気があった。
嫌な感じがする。言葉に出来ないけど、近づかないほうがいいような、そんな感じ。
「……」
……見られてる?
なんとなくそう感じて、ちょっと怖くなってきた。
繋いだ方とは逆の手でルートの服を掴む。
「大丈夫です。道を外れない限り、彼らが手を出してくることはありません」
だから安心してほしいと、ルートが笑った。
……でもそれ、路地裏に入ったら大変なことになるってことだよね?
恐る恐る辺りを見回すと、路地裏にいる一人の少年と目が合った。
薄汚れた格好、やせこけた体。目は虚ろで、こちらを感情のない目で見ている。
首元には大きくて重そうな首輪がかかっていて……多分、奴隷なんだろう。
「……う」
見ていられなくて、目をそらす。
これまで歩いていたところには彼みたいな人はいなかった。
……きっと表通りだったからだ。
私はこれまで、そんな、日の当たる場所だけを歩いていた。
「……」
この世界は、奴隷制がある国で、人権なんて考えは存在しない。
だから一歩陰のあるところに入るとこんな光景が広がっていて――
それは知ってはいたけれど、実感はしていなかったかもしれない。
もう一度顔をあげて周囲を見ると、彼のような奴隷は至る所にいた。
ボロボロで、当たり前のように虐げられている彼ら。
「……」
怖い。
身の危険ではなく、理解できないものに対する恐怖を感じる。
「ユース様、着きました」
「……え?」
――と、ルートの服を握る手に力を入れたとき、ルートが突然立ち止まった。
ルートの背中に突っ込みそうになった顔を慌てて止める。
「ここが、錬金工房です」
ルートの手が指し示す先。
そこには至る所から煙突が突き出た不思議な形の建物が立っていた。




