夏祭り当日
そして、数日後、祭りの日。
ついにこの日が来た。悩んでいるとすぐだったように思う。
具体的にいうと祭りに行くのは楽しみだけど、ミニスカートを穿くのはちょっと……。やっぱりやめようかな……みたいな感じ。
「ユース様、とてもお似合いです。
可愛いですよ」
「…………あ、ありがとう……?」
でも結局、悩んだけど服はミーネさんに言われた通りのものにした。
ついでに髪もミーネさんの手でまとめられている。
……正直、恥ずかしくて褒めてもらったのに褒められた気がしない。むしろどんどん恥ずかしくなってる気がした。
スカートの裾が気になって、左手で押さえる。
「ユース様、行きましょうか」
「……うん」
……でも、いつまでもこうしてはいられない。
もう祭りに行くことは決まっているのだ。
今更恥ずかしいからやめた――なんて言えないし。
「ユースさん、いってらっしゃい。楽しんできてくださいね!」
「……い、いってきます」
なんとかスカートから手を離す。
そしてミーネさんの声を受けながら歩きだした。
◆
宿屋を出て、町を歩く。
祭りの日だけあって、町は人で溢れていた。
どこもかしこも人だらけ。
出店やそこに並ぶ人、道で芸をしておひねりをもらっている人もいる。
「……」
人が多いところに行くと、孤独感を感じるのが常だった。
周りの人は一人じゃないのに、私だけが一人ぼっち。それが普通だったからだ。
……でも、今は違う。
隣にはルートがいて、二人で歩いている。
そのことが嬉しかった。
「……うぅ」
……まあ、それ以上に恥ずかしいんだけど。
いつものローブとは違う女の子らしい恰好。
歩いていたら慣れるかな……なんて思ったけどやっぱり慣れない。
無理だ。顔が熱くなりそう。
なんだか、心なしかすれ違う人に見られている気がする。
やっぱり私にはこんな服は似合わないんじゃないだろうか。
慣れていないスカートが変なのかもしれない。
歩くたびにスカートがめくれ上がる気がして、つい左手で押さえてしまう。
「ユース様、大丈夫です」
「ルート?」
そんなことをしていると、声をかけられた。
顔をあげると、ルートが私を見ている。
「変じゃありません。可愛いですよ」
「……そ、そう?」
「はい。間違いありません」
ゆっくり、はっきりとした口調で、ルートが断言する。
……不思議なことに、そこまで言われると、段々恥ずかしさが収まっていく気がした。
「……うん」
「さあ、祭りを楽しみましょう。
あの店なんかどうです?海で採れた貝が自慢のようです」
ルートが手を引いてくれる。
……そうだ。
最初から、右手はずっとルートの温かい手に包まれていた。
◆
色々なものを見て、色々なものを買う。
出店に並んでいるものは、異世界に来て日の浅い私にとって、不思議なものだらけだった。
あっちの店を冷かし、こっちの店を冷かす。
そんなことをしていると、段々日が傾いてくる。
「……もう終わりかな?」
気が付けば日は落ちて、もう出店も閉まり始めていた。
「いえ、ユース様、最後に劇があるんです。そちらに行ってみませんか?」
「……劇?」
そういえば。
きっとミーネさんが言っていたものだろう。
六代目の王がどうとか言っていたやつ。
ルートに促されるままに、町の中心部に向かって歩く。
いつか見た塔の前、そこには大きな舞台が出来ていて、その周りに人が集まっていた。
すぐに始まったのは、この国の六代目の王と一人の村娘の劇だ。
ある時事故に巻き込まれ、家臣とはぐれた一人の王。
彼の王は遭難した先で一人の村娘に会った。
心優しい村娘は怪我をしていた彼を自らの家に連れて帰り、共に暮らすことになる。
その生活の中で二人は、お互いに惹かれあっていく――。
――なんて、そんな話。
「……」
面白い、と思う。
周りの人はみんな見入っているし、私語を話している人なんて一人もいない。
役者の人の演技も上手い。見ごたえもある。
でも、話の内容は典型的なラブストーリーで、舞台の上で演じる二人を見ていると、なんだか恥ずかしくなってきそうだった。
「――!」
あ、あ、キスした。
そんなことまでやっちゃうのか……。
異世界はその辺りの規制も日本とは違うのかもしれない。
「……うぅ」
落ち着かなくて、身じろぎする。
いたたまれないような、よくわからない感覚。
……ちらりとルートを見る。
無性にルートがどんな顔をしているのか気になって来た。
「……」
恐る恐る顔をあげる。
すると、すぐに気づいたルートがこちらを見た。
「……どうしました?」
小声でルートが聞いてくる。
優しい笑顔、囁くような声。
「……なんでもない」
思わず、そう言って顔を俯けた。
平気な顔をしてるルートに困惑する。
こんなのルートにとっては当然の光景なんだろうか?
毎年やってるって話だし、そうなのかもしれない。
「疲れましたか?」
「え……う、ううん。…………大丈夫、ありがとう」
嬉しい。
ルートに心配してもらえたことが嬉しかった。
……でも、それと同時に困惑する。
たったこれだけのやり取りで、どうしようもないくらい嬉しくなっている自分に。
体がむずむずして、訳もなく叫びたくなるような衝動がある。
別にゴミが入ったわけでもないのに、視界がにじんでくるのが不思議だった。
……どうしてなんだろう。そう思う。
ここ数日、悩んでいたことが顔を出しそうになる。
そうだ、私はあの時、ルートが私以外の人と――。
「……っ」
慌てて頭を振る。
それは考えてはいけないことなのだ。きっとそうだ。
「……」
……でも、頭を振っても、さっきから高鳴っている心臓はなかなか収まってくれない
……もし、さっきキスをしていたのが私と……
「……うー!」
頭を振る。
わからない。
……私は、どうしたらいいんだろう。
思わず少し手に力を入れる。
……ルートは私の手を優しく握り返してくれた。
これで三章は終了です
四章はまだプロットしかできてないのでもう少し後です
八月上旬くらいが目標ですね




