三人で買い物
三人集まって三人組になるのは、実は結構難しいことなんじゃないかと思う。
みんな仲が良くて、みんなが友達――というのは理想ではあるけれど、実際に出来るかと言われると難しいからだ。
だって、全員が同じくらい仲良くないと、簡単に二人と一人になる。
みんなが平等なんてできない。意識してなくても自然と順番が出来てしまう。
体育の時間、二人組を作ってーと言われてハブられる一人がいる。
道を歩いていて、一人だけ後ろを歩かされる人がいる。
会話の頻度や出した意見の重みは、人によって明らかに異なっていて、駄目な奴は何を言っても駄目だ。
いつも頷き、後ろを歩いているだけの一人。
……人間関係と言うのはそういうものだ。
それを、私は知っていた。
◆
あれやこれやと言ううちに日程が決まり、気が付いたら出かける日が来た。
行先は例のスカーフをもらった店。
ルート曰く、腕がいいので評判の店らしい。
昼過ぎ位に休憩中の看板娘さんと合流して、三人で行くのだと聞いた。
予定に関してはルートと看板娘さんが決めてたので私はよく知らない。
「……」
……しかし、三人か……。
ふと、日本にいた時のことを思い出す。
友達がいなかった私だけど、ボッチにはボッチなりの最低限の集まりがあるもので、私も一応その中に属していた。
普段ほとんど会話しない三人組。体育の時間だけ無言で集まる三人組。
そしてあぶれるのは大体いつも私だった。
正直、あまり思い出したくない類の思い出だ。
「……」
で、思う。
今回も普通に残された一人になってしまうのでは、と。
「あ、ユースさん、ルートさん。お待たせしました」
「いえいえ、まだ待ち合わせの時間になってませんから」
「……うん」
そんなことを考えていたら、待ち合わせの時間が来てしまった。
仕事着ではなく、余所行きの服を着た看板娘さんが新鮮だった。
「では、行きましょうか」
ルートの言葉で歩きだす。
私の右側にルートが立ち、左側に看板娘さんが立った。
私はちょうど真ん中で、右を見ても左を見ても人がいる。
……あれ?
なんだか思ってたのと違う。
「ユース様は、どんな服が好きですか?」
「……え、特に好きとかは……」
「ユースさんには可愛い服が似合うと思うんです」
「……そ、それは抵抗が……」
両側から話しかけられて、どちらに顔を向けていいかわからない。
こんなの初めてで混乱してくる。
きっとルートと看板娘さんが話している後ろを歩くことになると思ったのに。
どういうわけか私が中心にいた。
「……不思議……」
「……?ユース様?どうかされましたか?」
「……え、いや……大丈夫」
覗き込んでくるルートから顔をそらし、前を見る。
視線の先には、小さな子供がいた。両手を両親とつなぎ、ぶら下がるようにして歩いている。
少し、今の自分と似ているな、と思った。
「……っ!」
慌てて頭を振る。
何を考えているんだろう。
……自分の考えが恥ずかしかった。
「……?ほら、行きましょう?」
「……あ」
思わず立ち止まっていた。
でも、手が柔らかいものに包まれて軽く引っ張られる。
看板娘さんの手が私の手を引いていた。
……温かい。
◆
すこしして、店に着いた。
中に入ると店中に陳列された服に囲まれる。
「これなんてどうでしょう?」
「いやいや、こっちのほうが」
「……ま、待って……」
そして、看板娘さんと店長さんが私に服を押し付けてくる。
どうすればいいんだろう、これ。
今日はいつもと違うことが多すぎて困る。
一旦、少し待ってほしい。私が落ち着きたいし、二人にも落ち着いてもらいたい。
「……ル、ルート」
「はい、ユース様」
助けを求めてルートを呼ぶ。
彼はいつもの笑顔を浮かべ、頷いてくれた。
「僕は、店の外で待ってますね。着替え終わったら見せてください」
違う、そうじゃない!
誤解を解こうと、背中を向けるルートに声を掛けようとする。
しかし、二人に押されるように私は試着室へと運ばれていった。
◆
「ありがとうございましたー」
日が傾いてきたころ、ようやく解放された。
店長さんの声を背中に受けながら店を出る。
「いやーいい買い物が出来ましたね!」
「……そう……」
楽しそうな顔をした看板娘さんとは対照的に私は疲れ切っている。
女性の買い物は長いと聞いてはいたが、まさかここまでだとは思わなかった。
何度も着替えたせいで腕は棒みたいだ。
服を着るのが辛くなることがあると、初めて知った。
「……ふぅ」
思わずため息をつく。
「……ごめんなさい。少しはしゃぎすぎたみたいです」
と、両手を合わせたポーズで、看板娘さんが言う。
眉がしょんぼりと下がっているのが印象的だった。
「……えっと、それは……いいよ」
「ユースさん?」
疲れたのは確かだけど、そうやって謝られると少し困る。
大変だったし、へとへとだけど……でも――。
「――その、嬉しかったから」
こんな風に買い物に来るなんて初めてで、新鮮だった。
大変だったけど、嫌だったわけじゃない。
楽しかった、と言う感じではないけれど。
後で思い出すと、少し頬が緩んでしまうような……そんな感じ。
「……ユースさん……」
「……え」
看板娘さんがなぜか目を輝かせている。
服を選んでいた時と同じ感じだ。
……まさか、またなにかあるの?
それはさすがに勘弁してもらいたい。
「……」
看板娘さんの視線から逃げるように隣をちらりと見ると、ルートが苦笑しながら歩いていた。
その手には大きな荷物が吊るされていて、それから伸びる紐が手のひらに食い込んでいる。……少し痛そうだ。
「……ルートは大丈夫?」
「はい」
今回買った服は結構な量になった。
私が着せられた服は主に二種類。私が抵抗なく着れる中性的なデザインのものと、看板娘さんが勧めてきた可愛らしいデザインの物。
そんなの着ないからと断ろうとしたものの、きっと必要になるからと押し切られてしまった。
でも、試着はしたものの、あんなのもう二度と着ないと思う。
特に膝上位の短いスカート。あれは絶対に着ない。
日本にいたころは膝上位のスカートなんて珍しくもなかったけど、実際に穿いてみると……なんかもう凄かった。
心もとないというか……スースーするというか……他と全然違う感じ。
ルートは笑顔で似合ってると言ってくれたし、それは嬉しかったけど……。
それとこれとは別だ。
……恥ずかしい。
女性らしい恰好をしたことで、逆に元は男だったということを強く思い出した。
正直、帰り道を歩いている今も恥ずかしい。
元は男だったのに、あんなに短いスカートを穿いてしまった。
「……~~っ」
なんだか、ルートの視線が恥ずかしくて恥ずかしくてたまらなかった。




