可愛い服は抵抗がある
「ユースさん、昨日のデートはどうでしたか?」
「……でーと?」
ルートと出かけた次の日。
朝起こしに来てくれた看板娘さんが、突然そんなことを言い出した。
「……え?デートだったの?」
「え?なんでそんなに不思議そうなんです?」
……確かに一緒に出掛けはしたけど。
町の中を一緒に歩いて店をのぞいたりしただけだし。
デート……というわけではないと思う。
よくわからないけど……違うんじゃないだろうか。
「……?」
……デート?
正直、私には恋愛とかデートとか、そういうのはよくわからない。
もうずっと長いこと考えてなかったからだ。
人を好きになったのも、覚えてないくらい昔の事。
「……??」
そんな私の認識では、デートっていうのはお互いに好きあってる人で出かけることだ。
……私とルートにそれは当てはまらない。
そう、思う。
だって私は、たまに忘れそうになるけど、元は男なわけで……。
男性を好きになる、なんていうのは想像し辛い。
……え?そうでしょ?
体は少女のものになっているけど、私は精神的には男のはず。
確かに最近、体に引っ張られてるのかな、なんて考えたこともあるけど……。
多分、そこまでは変わってないと思うし……。
もちろんルートのことは好きだ。
優しいし、大切にしてくれる。一緒にいて安心もする。
でも、それは恋愛によるものじゃなくて、きっと親愛によるものだと思う。
「デートじゃないんですか?」
「……うん」
それに、デートっていうのはもっとこう……すごい感じだと思うし。
多分。きっと。よくわからないけど。
……なんだか頭がぐるぐるする。
「じゃあ、その大事そうにしてるスカーフはどうしたんですか?
てっきり、私にルートさんからのプレゼントを自慢していたのかと……」
「……これはお店でもらっただけで……」
自慢って……使い方を教えてもらおうとして出してただけだ。
それ以上でもそれ以下でもない。
「……そうなんですか?
でも昨日手を繋いで帰って来たじゃないですか」
それは……確かにそうだけど。
でもあれは、はぐれないようにするためだし。
「……えー?」
……そんなに疑わしげな顔で見ないでほしい。
私は嘘は言っていないはずだし。
「……」
……そんな訝し気な目で見られると……困る。
「うーん。まあ、いいでしょう。
それはそれとして、スカーフの使い方ですか」
困っていると看板娘さんが話を切り替えてくれた。
そうだ、それが聞きたかった。
「教えるのは構わないんですけど……。
ちょっとユースさんの服には合わないかもしれません」
「……そうなの?」
……言われてみれば、確かに私の服は地味な色のローブだけだ。
色鮮やかなスカーフには合わないかもしれない。
「そうだ、今度一緒に買いに行きませんか?
ユースさんはもっと可愛い恰好をするべきだと思うんです」
「……え」
……か、かわいい恰好?それに一緒に買い物?
何を言ってるんだろう?
「ユースさんって地味な服しか持ってないじゃないですか。
ローブの下はいつもハーフパンツとかロングのワンピースですし。たまには短めのスカートとかどうです?」
「み、短め?」
要するにミニスカートだろうか?
それは……さすがに抵抗がある。
ワンピースとかはこれまでに着たことがあるけど、そこまでいくと話が別だ。
「……?
短いのは駄目な理由があるんですか?」
「……え、それは……その」
理由と言われても。
ハーフパンツとかロングスカートで十分なのに、わざわざミニスカートを買う必要はないわけで。
ミニスカートでなければならない、みたいな決まりがあったら穿いただろうけど、そんなものはないみたいだし。
「理由がないならいいじゃないですか。
ね?今度行きましょう?」
「……え、その……えっと」
そんな風に誘われても困る。突然の展開に頭がついて来てない。
これはどうすればいいんだろう。
ミニスカートとか可愛い服とか……。
私のこれまでの人生には、全く関わってこなかったものだ。
正直、すごく抵抗がある。
私にだって元男としての価値観というものがあって。
「……」
女性的に髪を整える位はいい。
外見に合った髪型にすることは社会人として大事だからだ。
変な目で見られないためにも、見える部分位は取り繕わないといけない。
でも、ミニスカートとかは違う。
短くする必要なんてないし、穿かなくても誰も文句は言わない。
要するに、必要ないのにわざわざそれを穿くのだ。
それには、凄く違和感がある。
もちろん、体的には女性だけど……私が言いたいのは精神的なところであって。
私はこれでも、元男だったのだ。
なんだか、とんでもないことをしてる感じ。
「いいじゃないですか。ルートさんも一緒に三人で行きましょうよ。
ほら、昨日みたいにこうやって手を繋いで」
「……う」
ね?と看板娘さんが私の手を両手で握る。
温かく、そして柔らかい。ルートとは違う女性の手だ。
じんわりと体温が私の手に染み込んでくる。
「……」
その温かさを感じていると、どういうわけか抵抗する気力が抜けていく。
なんだか、いちいち抵抗している自分が子供っぽく感じてきた。
「ね?」
「……うん」
気が付いたら私は頷いていて。
数日後に三人で服を買いに行くことに決まった。




