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大きな穴が開いていた

本日二話目です。

「……」


 茫然と目の前の穴を見る。

 大きな穴だ。人一人は入りそうなくらい大きな穴。

 

 何が何だかわからないが、ほんの少し前、眠る前まではこんなものはなかった事はわかる。


「……」


 一度横に目をそらし、もう一度見てみる。

 もしかしたら消えているかもしれないと思って。


「……えぇ」


 しかし残念なことに穴は消えなかった。


 というかむしろ広がっている気がする。

 視界の端で穴の淵から瓦礫が落ちるのが見えた。


 ……なんなんだろう、これ。

 混乱で瓦礫の落ちる音が遠くから聞こえてくる気さえする。


「……えっと」


 でも、いつまでも驚いているわけにはいかない。

 とりあえず、確認してみようと思った。


 ベッドの淵に手をつき、立ち上がろうとし――


「――わっ」


 突然、手をついたところが崩れた。

 バランスを崩し、慌てて姿勢を直す。


「……な、なに?」


 驚いて手元とその周囲を確認する。

 時間が経ち、段々と煙が晴れて少しくらいなら周りが見えるようになっていた。


「……め、めちゃくちゃになってる」


 煙の向こうに見えたのはボロボロになった私の部屋だった。


 机も椅子もタンスも、なぎ倒されたり壊れたりして床に転がっている。

 床には何かの破片が散乱し、足の踏み場もないようだった。


「……あ、杖も」


 ベッドの横に立てかけていた私の杖もバラバラになっていた。

 木の部分は真っ二つに折れ、取り付けられていた赤い水晶は砕けている。


「もしかしてこれ、無事なのは私だけ……?」


 私が無事なのは魔人族――この体の持つ力のおかげだろう。


 魔人族は少し特殊な種族で、色々と特別な力を持っている。

 寝ている間でも常に展開されている障壁は、その力の一つだった。


 とても便利な力で、私がこの世界にいきなり放り出されて今まで無事だったのも、この力のおかげだと思う。


「……でも本当に何が……?」


 状況が分かれば分かるほど疑問は増えていく。

 こんなことになる原因に心当たりがない。


 ……もしかして強盗?


 ……いや、それは無いか。盗むものがなくなりそうな感じだ。

 それに魔人族の部屋に襲撃するとか聞いたことがない。魔人族の力はこの世界で有名なのだ。 


「……うーん」


 首をかしげながらなんとなく壁の穴のほうを見る。

 

 と――。


「……か……せん……」


 ――え?


 穴の向こう、煙の中から声が聞こえた。

 かすれているが、男の声だ。多分若い。


「……あっ」


 気づく。ここは宿屋だ。


 当然隣にも部屋があって、そこに泊まっている人もいるだろう。

 そして、この部屋の惨状から考えると、隣も大変なことになっているんじゃないだろうか。


 私は障壁のおかげで大丈夫だったけど、それがない人なら……?


「……っ」


 慌てて穴に足を掛け、向こう側に移動する。

 魔人族の魔法適性のおかげで回復魔法も使える。怪我をしているのならすぐに治さないと。


「……?

 ……こっちは、それほどでもない?」


 隣の部屋に降り立つと、何故か穴の向こう側はそれほど荒れてなかった。

 椅子なんかは倒れているが、それだけだ。


「……あ」

「ごほっ、あ、あなたは……」


 見つけた、おそらく声の主だろう。部屋の真ん中あたりに男性が倒れている。

 両手を投げだした状態で床で仰向けになっていた。


 辛そうに顔を歪めこちらに顔を向けている。

 そして震える唇を開き、こちらに話しかけてきた。


「ごほっ、だ、大丈夫……ですか?怪我は……ない、ですか?」

「…………は、はあ」


 倒れこみながら、必死にこちらに安否を問いかけてくる男性。

 立場が逆なんじゃないかなと、なんとなく思った。

 

 ぱっと見た感じ怪我をしているようには見えない。

 でも、客観的に両足で立っている私より、倒れこんでいる彼のほうが心配されるべきだろう。


「申し訳……ありません。怪我は、ないですか……」

「…………大丈夫、ですけど」


 しかし、なんだか彼の様子が必死に見えたので、素直に答える。

 怪我はないし、大丈夫だ。


「……よか……った」


 そう言うと、彼の体から糸が切れたように力が抜けた。


「……あ」


 と、そこで思い出した。

 そうだ、治療をしようとしてこちらに来たんだった。

 

 慌てて近づき、彼に魔法をかける。

 外見では問題なくても、頭を打っている可能性はあるからだ。


「……あ、やっぱり」


 魔法で調べてみると、案の定骨がいくつか折れていた。

 特にひどいのは肋骨で、折れた骨が内臓に刺さっている。


「……」


 早速治癒を始める。

 すると彼の体からパキパキという音がし始めた。多分骨が動く音だろう。


 ……しかし彼も運がいい。隣に治癒魔法の使い手がいなかったら、間違いなくそのまま死んでいただろう。


 魔法で治癒をしながら、彼の顔を見る。

 青ざめた顔は、目を閉じていても整っているのが分かった。なんとなく優しそうな感じだ。


「……ふう」


 治療を終え、立ち上がる。

 幸いなことに問題なく治療できた。あとはしばらく体を休めれば問題ないだろう。

 

「……」

 

 ……でも、これからどうしたらいいんだろう。

 根本的な問題に頭を悩ませる。


 結局、何があったのかはわからないままだ。

 誰かに説明してもらいたい。

 

 とりあえず警察は……この世界にはいないから自警団だろうか。

 いや、その前に宿の人を呼んでくるべき?


 私はこの世界の常識には詳しくないので、よくわからない。

 誰かに頼りたいところだ。

 

「――、――」

「……あ」


 そこで気づいた。

 遠くから人の話す声が聞こえる。騒ぎを聞きつけた人が近づいてきたのだろう。少し安心する。


「……はあ」


 ……でも、なんだか大変なことになってるなあ。

 なんだかすごく疲れた。安心すると精神的な疲れが襲ってくる。


「……ふう」


 それを吐き出すように大きくため息をついた。

 

 


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― 新着の感想 ―
[一言] 魔道具保険とかやれば流行りそう。
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