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私はもう知ってしまった

  

 大人と子供の違いは経験の量だと、どこかで聞いたことがある。

 しかしそれなら、初めてのことに対面するとき、大人と子供に違いはないのではないだろうか?


 ◆


 混乱していた。これがどんな状況なのかわからなくて。

 なんでルートは膝なんてついている? 


「……え?……な、なに?……何でそんなことしてるの?」

「……はい。どうしても、ユース様に許可していただきたいことがあるのです」


 ……許可?何の許可だろう?

 心当たりはない。


「……えっと、何?」

「奴隷の身でありながら、主に私的なお願いをすること、誠に申し訳なく思っております。

 ……しかし、もし許されるのなら、探索の際、見つけた薬草の採取をする許可を頂きたいのです」

「……え、薬草?」


 薬草って、あの?

 ダンジョンでたまに生えてるやつ?


 ぼんやりと光っているので、私でもわかる特徴的な植物だ。

 大した値段にならないので今までスルーしてたけど、一日歩いてれば二、三本くらいは見る機会がある。


「……」


 ……そんなもの、好きにすればいいと思うけど。

 私はそこまでルートの行動を制限してないし、探索中に少し離れることくらいこれまでもあった。


 歩いてて、ちょっと採取していいですか? と聞かれれば断ったりはしない。


「……それは、まあ、いいけど」

「ありがとうございます!

 それともう一つ。出来れば、薬草を売る先は私に任せていただきたいのですが……」


 ……ああ、なるほど、と納得する。

 本当の頼み事はこっちか。


 確かに、素材の売却先はこれまで私が決めていた。

 というか冒険者ギルドに一括で売却していた。


 それを一部でも変えたいというのなら、私の許可が必要になるだろう。


「……」


 ……まあ、別にいいんじゃないだろうか。


 どこに売ったからと言って、私に何か被害があるわけでもないだろうし。

 ルートがここまでしているのに断る理由はない。


「……いいよ」

「ありがとうございます!」


 ルートが安心したような顔でお礼を言う。

 そう大したことをしたつもりはないんだけど。


 ……しかし、ひょっとしてこれだろうか?

 ふと気づく。


 あの、朝の男性の件だ。

 真剣そうな顔をして話し込んでいた二人が頭に浮かぶ。


「……もしかして、朝話してたのってこれ?」

「……はい。お気づきでしたか」


 恥じ入るようにルートが目を伏せる。

 そして、一拍置いた後、口を開いた。


「実は、現在薬草が各地で不足しているのです」


 その言葉から始まったのは、地方……迷宮都市や王都から離れた町や村の現状の説明だった。

 

 端的に言うと、今年は暖冬で、魔物が例年より多く発生したことが原因らしい。


 魔物が増え、それの討伐で怪我人が出た。

 しかし、その治療に必要となる薬草は増えず、結果として不足してしまったようだ。


 私は治癒魔法を使えるけど、村などには使える人は少ない。

 普通の人が治療するときには、薬草から作ったポーションを使うのが一般的だと聞く。


 ポーションは魔法より効果は低いが、量産されているので、一般の人でも手に入りやすいそうだ。


「薬草は畑では栽培できません。なので森などに自生しているものを採るしかないのですが……」


 森には魔物が多くいるのでそれも難しい。

 そう言ってルートは沈痛な表情をする。


「私が縁のある地域でも、薬草が全く足りていないそうです。

 今朝の彼も、地域に薬を卸している者でして……薬草をどうにか手に入れられないかと、迷宮都市まで購入しに来ていたのです」

「……買えたの?」

「……いえ、ほとんど買えなかったそうです」


 だろうなあ、と思う。

 さっき各地で、って言ってたし。多分どこも不足してるんだろう。


「なので、そちらに見つけたものを送ることが出来たら……と、今回お願いをさせて頂きました。許可を下さり、ありがとうございます」

「……あ、うん、それはいいけど……」


 一つ、話を聞いているうちに疑問が浮かんだ。


「……足りるの?それで」

「……それは」


 一日に数本。それで何本ポーションができる?


 さっきルートは地域に薬を卸す、と言った。

 それなら数本程度なんて焼け石に水だろう。一瞬で消える程度の量でしかない。


「……正直に言いますと、全く足りません。出来ることなら百本単位で欲しい」

「……だよね」


 予想通りだった。

 まさしく桁が違う量が必要になるのだろう。


「迷宮内に、多く薬草が自生している場所もあります。

 ……しかし、その場所は……イースの森なのです」

「……ああ」


 イースの森。

 それはつい先日、ルートに行かないんですか? と質問された場所だ。


 円形の森の外周に、たくさんの大きな蜘蛛が住んでいて、中心部に、大きな花畑が広がっている場所。

 ……なるほど、あの時からルートは薬草を取りに行きたいと考えていたのか。


 だけど、私が蜘蛛がいるから嫌だ、と言ったから諦めたんだろう。

 

「……」


 ……実際は、蜘蛛なんかじゃなくて、中心にある花畑が嫌なんだけど。

 たくさんの花を見るだけで思い出すから。


「……イースの森に行けば、必要な薬草が手に入るの?」

「……っ! それは、はい。その通りです」


 ……思い出したくないし、辛くなるのも嫌だ。

 出来ることなら行きたくないのが正直なところ。


「……」


 ……でも、それは人の命と天秤にかけることではないのだと思う。


「……あした、行こうか」

「……よろしいのですか?」

「……うん」


 よくはないけど、仕方ないことだ。

 私が少し我慢すれば、人の命が助かるのだから。


「……」


 目の前で死にかけている人がいたとして、私がそれを助けられるとする。

 その人を助けなければ、私が殺したことになるのか? と聞かれればそれは否だ。


 しかし、見殺しにすることで、私が罪悪感を感じるか? と聞かれれば、それはその通りだろう。

 私はそういう人間だった。


 私の知らないところで、誰かが死んでいても私には関係ない。

 でも、もう私の視界に入ってしまった。私は知ってしまったのだ。


「……申し訳ありません。

 ユース様の慈悲に感謝します」

「……いいよ」


 ルートが感謝してくれている。

 憂鬱な中で、それだけがいい点だった




 

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