なんにでも優先順位があります
本日二話目です
間違えて投稿したんですが、気付くの遅かったんでそのままにしておきます
小学生の頃の話。
珍しく、私がクラスメイトと会話を出来ていたことがあった。
内容は特に覚えていない。
ただ、たあいもない話だったことを覚えている。
私はそんな、ちょっとした話を出来るのが嬉しくて――。
――でも、その会話は唐突に終わった。
話していたクラスメイトの友達がやってきたからだ。
だから、彼は私との話をあっさりと切り上げてそちらに行った。
あ、あいつが来た、じゃーな!という感じだ。
彼はあっさりと去って行った。
取り残される僕は、一人でそこを去るしかなくて。
それがどうしようもないくらい寂しかった。
一人で帰るのなんて慣れっこなのに。
大したことを話していたわけでもないのに。
私は、知らず目じりに浮いていた涙をぬぐいながら、一つ、当たり前のことを改めて認識した。
私は、後から来た彼よりも下だった。
ただ、それだけの話。
◆
「……す!……ていないんです!」
「……ない。僕……なにも……きない」
看板娘さんに髪を整えてもらった後、食堂でご飯を食べようと一階に降りると、そこには少し変わった光景が広がっていた。
二人の男がホテルのフロントで話をしている。
一人はルートで、もう一人は知らない人だった。
「……」
まだルートに気づかれていないみたいなので、足音を立てないように柱の陰に隠れる。話の邪魔したら悪い気がするし。
「……ませんか」
「……ない。…………がない……には」
小さな声で話しているので内容は聞こえない。
でも、真剣に話してることは声のトーンでわかった。
「……」
しかし、珍しいな、と思う。
ルートがこうして誰かと話し込んでいるところなんて初めて見た。
でも、考えてみれば、ルートも一月前までは奴隷じゃなかったし、交友関係があるのも当然だ。コミュ力が高いルートのことだ、この宿の中にも知り合いは沢山いるだろう。
むしろこれまでこんなところを見なかったのが不思議なくらい。
……まさか、ルートがそういうところを見せないようにしていた?
これまでは、私が近づいたらすぐにルートが気付いていた気がするし。
もしかしたら、私が近づく前は他の人と話したりしていたのかもしれない。
「……ああ、それ……ん?
ユース様?」
「……あ」
そんなことを考えつつ、柱の陰からちらりと顔を出すと、ルートと目が合った。
「……僕はこれで」
ルートが話していた相手に頭を下げる。
そして、すぐにこちらに向かってきた。
話は終わりみたいだ。
話していた相手も、仕方ない、みたいな顔をしている。
……よかったんだろうか?
雰囲気からして、結構大事そうな話をしていたように見えたんだけど。
「ユース様、気付くのが遅れて申し訳ありません。
朝食でしょうか?」
「う、うん、そうだけど……」
横目で話していた相手の方を見ると、その男性は私に軽く頭を下げ、宿屋から出ていった。
……本当によかったんだろうか?
「……」
彼は肩を落として、とぼとぼと去っていった
その後ろ姿を見ていると、どこか昔のことを思い出す。あの日の帰り道。
いつもと同じで、でもいつもより辛かったあの日。
一人で歩く私の前を、彼らは二人で歩いていた。
「……」
あの日とは違って、今度は逆の立場にいる。
私の方が優先されて、彼は一人で去っていく。私が上で、彼が下だ。
……でも、思っていたよりも優越感とかはないんだな、と思った。
もっと嬉しくなるものだと思ってたんだけど。
むしろ罪悪感のほうが強い。
落ち込んでいる姿を見ると、なんだか悪いことをした気になってくる。
「では、食堂へ行きましょう」
「あ、うん」
……まあ、ルートが私を優先してくれたこと自体は嬉しいけど。
大切にされないより、大切にされた方が嬉しい。
当然のことだった。
「……おや?」
と、ルートの声に彼の方を見ると、ルートが私のほうを見て驚いた顔をしていた。
そして、すぐに優しい顔をして笑う。
「髪、整えられたんですね。
……とても可愛らしいと思います。」
「へ……あ、えっと……うん」
……そうだった。
色々あって、つい頭から抜けていたけど、看板娘さんに髪の手入れをしてもらったんだった。
可愛らしいという評価は、いい年した大人として微妙ではあるけど、褒められるのは素直に嬉しい。背中がむずむずして、頬も少し熱くなってくる。
「……ありがとう」
気恥ずかしくなってきて、三角帽を深く被った。
頬が緩みそうなのが自分でもわかったからだ。
◆
その日の晩。
何事もない、普段の休日の終わり。
食事をとり、風呂から上がって、本を読みながらゆっくりくつろいでいたときの事。
突然、部屋に音が響いた。
コンコンというノックの音。
……?
誰だろうと首を傾げる。
私の部屋を訪ねる人はいるけれど、こんな時間に訪ねてくるのは初めてだ。
「ユース様、ルートです。
少し時間をいただいてもよろしいでしょうか?」
「……ルート?……いいよ」
本を閉じ、返事をする。
すぐにルートが部屋に入って来た。
そして私の前に立ち――
「……え?」
――その場で跪いた。
次いで、頭を深く下げる。
「……な、なに?どうしたの?」
初めての状況で何が起こってるのか理解できない。
「今日は、ユース様に一つお願い事がありまして、こうしてお邪魔させていただきました」
訳が分からず慌てる私に、ルートはそう言った。




