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失格のエース  作者: 俄 秀一
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再会 その2


現在


「えーと。この辺のはずなんだけど」


弟月はじめらが、居酒屋で同窓会を開いている頃。

同じく同窓会に向かっていた如月かんなは、手元のスマホに表示された地図と周りの景色を見比べていた。


「か〜ん〜な!」

「わぁ!」


背後から聞こえてきた高い声と突然の衝撃に、短い悲鳴を上げるかんな。


振り返ると、自身の腰に抱きつき、笑みを浮かべるスーツ姿の松咲花がいた。


「ちょっとー。街中でやめてよ」

「まあまあ。10年分のかんな成分を補充させてくださいよ!」


10秒ほど抱きつき、「すー」と匂いを嗅ぐように息を吸うと、最後にぎゅっと抱きしめ、名残惜しそうにその身を離した。


「その格好ってことは仕事終わり?」

「はい。社会人は辛いですよね」

「そうだねー」

「かんなも同窓会に向かうところですよね」

「うん。見慣れない場所だから迷っちゃって」

「かんなって実は抜けてますよね」


「そうだね」と、微笑むかんなに合わせて、花もウフフと笑い返す。


しかし、その笑みをすぐに消すと、似合わない真面目な顔でこう告げてきた。


「ちょっと寄り道しませんか?」

「寄り道?只でさえ遅れてるのに・・・」

「すぐに終わりますから」


花の真剣な眼差しに何かを感じ取ったかんなは、迷った末に首を縦に振った。


「じゃあ、あそこの喫茶店にでも行きましょう」


迷いを感じさせない足取りで喫茶店に向かう花の後ろを、黙って素直に付いていく。


その背中に鬼気迫る何かを感じながら。



街中にひっそりと佇む喫茶店 『喫茶 花』。


偶然にも松咲花と同じ名前の喫茶店に、花とかんなは向かい合って座っていた。


「ごゆっくりどうぞ」


注文した品を運んで来てくれた店員さんに軽く会釈を返す2人。


テーブルの上にはコーヒーとショートケーキのセットが2つ。

ショートケーキにフォークでメスを入れるかんなの前で、花はコーヒーに砂糖を入れている。


「ねえ、赤先輩のこと覚えてます?」

「赤会長のこと?」


コーヒーを混ぜながら発せられた花の問いに、かんなも語尾を上げて返す。


「そうです。あの赤先輩、なんと結婚したんですよ!」

「へぇー、そうなんだ」

「しかも、お相手は青先輩のお兄さんですよ!めでたいですよねー」


かんなたちの一学年上にあたる代の生徒会長。

花が所属していたバドミントン部のエースでもあった赤は、10年の時を経て性を変えていた。


しかも、その相手は幼馴染の青りんごの兄であり、現在の名前は青みどり。


今はラブラブな新婚生活を送っており、自らの苗字が、信号で止まれを意味する赤から、進めを意味する青になったことに、本人は運命的なものを感じているそうだ。


「えーと。それで本題なんですけど・・・」


意を決したように切り出した花であったが、どこかバツが悪そうに目をそらす。


そんな親友を急かすことはせず、ブラックのコーヒーに口をつけ、落ち着くよう暗に伝えるかんな。


相変わらずの計算された所作に、花は感服の意を込めた笑みを浮かべる。


それから砂糖入りのコーヒーを飲み干すと大きく息を吸い、吸い込んだ息に感情をブレンドして、言葉をゆっくりと吐き出した。


「私、かんなのことが・・その・・・好き・・だったんですよ」

「・・・」

「私も最近気づいたんですけどね。あの頃の気持ちは、きっと『恋』だったと思うんです」


あの頃の自分を思い出しているのか、それともかんなの方を向くのが照れ臭いのか、遠くを見つめながら語る花。

頰をほのかに朱く染めた彼女の表情から、かんなの脳内ではある記憶の映像が再生されていた。


それは放課後の学校。

本来誰もいないはずの教室で、自分の体操服に身を埋めながら、自分の名前を連呼する親友の姿。


中学2年生という、人生の中で心身ともに不安定な時期に見たその衝撃的な光景は、10年の時を経てもかんなの脳裏にべっとりと焼き付いていた。


「でも、今思い返してみると、かんなの目は私を見ていなかった。これは憶測ですけど、かんなも恋をしてたんじゃないですか?」

「それは・・・」


何も悪いことはしていないはずなのに、なぜか負い目を感じてしまう。

それこそが、恋の方程式に解がないことの証明なのであろう。


言葉に詰まるかんなの様子を見て、花は少し寂しげな表情を浮かべた後、こう続けた。


「やっぱりそうなんですね・・・。それなら、私はどうすればよかったんでしょうか?」

「それって・・」


「どういうこと?」という言葉を飲み込んで、花の様子を観察する。


後悔と困惑が入り混じった顔でなにやら考え込む花。その表情に、かんなはどう声を掛けたものかと思案する。


同窓会の時間も気になるため、「また今度聞こうか?」といった内容を伝えようかとしたその時。


「ごめんなさい!!」


自らの頭を机に打ち付けるかのような勢いで、松咲花は趣旨の見えない謝罪を始めたのだった。

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