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それでも私はここにいる  作者: 鈴森
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ハルウララカニ

ハルウララカニ


4月、中学から公立への進学を決めた私は、鏡の前で真新しい制服に袖を通していた。小学生の時に着ていたセーラー服よりは幾分装飾の少ない、シンプルな制服だった。


『まるで、私みたい。』


鏡に映る姿は、何も特徴のない、ただ平凡なだけの自分だった。肩まで伸ばした黒い髪。小学生の時から本を読みすぎやゲームをしていたせいか目が悪く、黒ぶちの眼鏡はいつも必須のアイテムとなっていた。顔にかかるこの二つの黒が、自分の地味さを強調するようで嫌になり、それでも自分にはこれでいいと変えようとしない私がいる。

 

そんな何も変えようとしない私が、唯一変えたのがこれから通うであろう中学だった。

私が通っていた小学校は私立にあたり、私が住んでいたところでは、いわゆるお嬢様な人たちが多く通っていたところであった。

そこでは色々なモノで人の格差が決まっていた。筆箱、キーホルダー、親の職業や迎えの時の車。


今思えば馬鹿らしく、でもその時はそれだけが指標でもあり、絶対的なものとなっていた。


私はその制度に合うことはできなかった。私の家は一般家庭で、過度に贅沢をするわけでもなく、かといって過度に節約をすることのない、ごく平均的な家庭だ。ただ、あの小学校では私は平均よりも下にあり、それだけで何かと目をつけられることとなった。


別に水をかけられたり、何か物が無くなったりの激しいものはなかった。ただ時々かけられる何気ない言葉や、一方的なレッテルが悪意を含めたものであっただけだ。


ただ、私にとってはそれだけで十分な理由となっていた。


そのまま中学に通うこともできたが、高校からはもっとランクの上の学校に行きたい旨や女子だけの学校は嫌だだの、もっともらしい理由と、その年らしい理由からか、二返事で公立への進学は親から許可された。

もっとも、私の学費も安くなるから、その分塾などで教育を進められるというのもあるのではと思うほど、塾の日数が増えていたのには苦笑いもした。

 

それでもいい。

今までの自分を知らない人たちの中に今日から行くのだという高揚感に私は満たされたいた。


「いってきます。」


仕事に行く支度をしている母に声をかけ、マンションの私たち家族が住んでいる一室から私はやや足早に駆け出した。今まで履いていた革靴から、履きやすさ重視で買ってもらったスニーカーが軽かったせいかもしれないが、とても軽やかな気持ちになることができた。


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