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呼吸

作者:

昔から、周りの人よりは少しだけ頭がいい。

周りの人よりは少しだけいい子。

周りの人よりは少しだけ大人に好かれる。

この少しだけを特別と勘違いした馬鹿な少年は、膨らんでいく自意識をそのまま放ったらかしにしてしまった。


実は特別ではないのだと気づいた時には、ぱんぱんに膨れ上がった自意識が、僕を薄く薄く引き伸ばして身動きが取れなくなっていた。


これ以上膨らまないように。かといって萎んでしまってもいけない。


というわけで、僕は文字通り、身動きがとれなくなっているのである。


冬。大学受験一色のクラス。

学年1位を争う僕のライバルは、今も勉強に励んでいるのだろうか?それとも、趣味のピアノに熱中しているのだろうか?

なんにせよ、その有り余る才能を垂れ流しているに違いない。


僕にこれといった才能がないことは、少し前に気づいていた。それでも、努力だけは誰にも負けないと、努力の才能だけは持っているものだと信じてこれまで頑張ってきた。


勝てない。努力が足りない。もっと勉強しなくちゃ。


その頃はまだ平気だった。頑張れば勝てると思っていたから。

でも、僕のたった1人の才能溢れるライバルも、努力が得意だったなんて。

努力家の天才は第一志望の大学で今も好きなことを好きなだけ学んでいるらしい。


僕は?

第一志望にも第二志望にも落ちた。浪人する元気もない。それほどの強い意欲はなかった。全く行く気がなかった大学に通い、それなりに楽しい日々を送る。


新しいことをたくさん始め、居場所をたくさん見つけ、


そして、全てを中途半端にこなしていった。


大学に入って見つけたアイデンティティ、

好奇心と行動力とコミュニケーション能力。

全てが中途半端に繋がった。


楽しいだけではダメになった時、無意味だとわかっていて保ち続けた自意識が息をし始めた。

その度に、僕は破けてしまいそうになったり、形が崩れてしまいそうになったりした。

吸うと足りない。吐くと余る。


息をしないでほしかった。

でも、呼吸を止める勇気もなかった。


僕は息を潜めじっと動かないようにして、ただ待っていた。


いつか呼吸が止まる日を。


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