4話 うまく異世界チートしたいなって思ってた。
初投稿の作品の4話目です。
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「明治生まれ大正育ち、士族馬道家が長子、冴子、
またの名を首無し美少女剣士、セーラーデュラハン!
今宵、我が一太刀で月を赤く染めてあげてよ」
なぜか名のる。ビシッと。
そして、構えたのは凶悪なアックスだった。
自分の首を落としたギロチンで作ったものだ。
血塗られて禍々しい代物を軽々と扱っている。
首無しセーラー服の自称美少女、馬道冴子。
(ちなみに今は真昼間だ)
「妾はティシーじゃ! 復讐の女神じゃ! 強いのじゃ!
お前ら死ぬのじゃ! 行くぞ!」
なぜか名のる。ブスッと。
めちゃくちゃ下手な名のりだった。
冴子に影響されたようだが、ダメダメな感じだった。
しかも、相手には見えてない復讐の全裸幼女ティシー。
「あ、ども、オレです。
名刺は切らしてます(めんどくさいので渡したくないです)!」
つられてオレも名のる。しれっと。
両手に装備した盾の隙間から。
慎み深く遠慮がちで平和を愛するジャパンの社畜戦士、オレ。
「ガタガタいってんじぇねえ、
命が惜しかったら金だせこらーーー」
気持ちいいほどすうっとどこまでも続く綺麗な道。
そんな道を進んでいくオレらの馬車の前に現れた盗賊。
鶏、ブタ、牛、ガタイの良い家畜系獣人たちだった。
「さっさとしろやー、ぶっ殺すぞ! おらーー」
やたらと凄む盗賊。
が、まもなく首は落ちていた。
冴子の俊速の一刀(?)だった。
ちなみに、冴子の首もいっしょに仲良く落ちていた。
「れっつらふくしゅうー」
続くティシーはそう呟いて、指を盗賊たちに向けた。
すると、炎に包まれた黒蠅が無数に現れて阿鼻叫喚。
「うわーーなんだこりゃーーー!」
「ぐわーーー」
盗賊たちの全身を覆い尽くし身動きを奪う。
倒れて悶え、窒息するようなうめき声をあげている。
どう見ても冒険の初期ステータスで使える魔法じゃないだろう。
「ぴゃあああああ」
さらに馬車を引いていた竜のアニールが火を吹いた。
盗賊はまるっと焼かれてしまった。
あっという間に撃退。
チュートリアルバトルにもならない、オレの出番なし。
LV58 邪神(復讐の女神) ティシー
LV43 幽鬼 馬道冴子
LV36 魔獣(馬車馬) アニール
LV01 社畜(勇者) オレ
どうみても異世界チートだった。
ちょっと、ダークでアホアホで、やべえ奴らだけどな。
「さーて、行くか」
「じゃな、まったく雑魚が邪魔しおって」
そう言いながら、オレたちは馬車に戻る。
ソファで寛ぎながら、お茶をすする。
オレたちの旅は非常に快適だ!
・・・・・・
さて、話は少し戻る。
どうやってオレたちが快適馬車を手に入れたか語ろう。
ティシーが滅ぼした街は「城塞都市ディーテ」という。
その中心部の一角にある雑貨に売ってた観光ガイドっぽい本。
(文字がわからなくても伝わるようなほぼ絵本)
それによれば、
この世界は球体ではない。
9層に分かれていて、ここは上から5番目の層に位置する。
かつては、城壁の外には沼が広がっていた。
しかし、最近では整備されて折り目正しい道になった。
(整備されたといっても、当然アスファルトではない)
なので、馬車での観光がオススメ。
(付属していた絵では馬車と言っても馬ではなく竜に見える)
オレは思った。
果たして異世界生活は、観光気分でやるものだろうか?
大いなる疑問だった。
とはいえ、オレはガイドに従って馬車会社へ向かった。
「何をぐずぐずしておるのじゃ。さっさとゆくぞ」
「まあまあ、ティシー姉様、みなでの逢いびきも楽しくてよ。
マスター、手作りお弁当はいかがでして?」
めんどくそうな顔してるくせについてくるティシー(鼻ホジ)。
不恰好なフランスパン(?)を差し出してくる冴子(ドヤ顔)。
逢いびきじゃねえよ!
とは思ったものの、小腹が空いたので、パンは受け取る。
が、臭いだけで意識が遠くなってしまった。
「私は洋食も得意でしてよ」
でも、冴子のドヤ顔は揺らぐことない。
その自信はなんなんだ?
・・・・・・
中心部から外れて城門付近、兵舎の隣にあった。
石造りの建物が大小2棟あった。
オフィスと馬房といったところだろうか。
庭には、馬なしの馬車本体のみが置いてある。
とりあえず、竜の看板があった大きい建物を覗いてみた。
「すみませーん、どなたかいらっしゃいますかー
馬車かしてもらってもいいっすかー?」
返事はない。
この街は滅んでいるので、オフィスに誰もいないのだ。
「誰もおるわけないじゃろー、
妾がみーんなぶっころしてやったんじゃからな!
あっはははー!」
「さすがはティシー姉様でしてよ!」
「じゃろー」
ない胸をはるティシーは高笑い、目を煌めかせる冴子は太鼓持ち。
やべえな、アホアホシスターズ。
ふたりを無視して、もう一つの小さな建物も覗いてみる。
「きゅうううううう」
すると、狭い馬房(いや竜房)で竜がぐったりと横になっていた。
竜語はわからないが、ひもじそうなのは簡単にわかった。
といっても食物はもってない。
「あ!」
試しに冴子のパン(毒物)を与えてみた。
「ほれ」
「きゅーーーー!」
竜はパンにがっついた。
そして、オレに頬ずりしてきた。
衝撃的なことに簡単に懐いたのだった。
みれば馬房にはアニール号と書いてあった。
アニールは竜というより大きな二足歩行のトカゲだった。
おそらく毒に耐性ももっているだろう。
馬車を引くくらいだから、人慣れしていて、いかにも竜っていう厳しさはない。
これは動物愛護的見地から、放っておくわけにはいかない。
そういうわけで、オレは馬車をゲットした。
それから、ジャパンのもったいない精神を発揮。
内装をDIYしてから、食料をたんまりと馬車に積んだ。
ついでに装備品も揃えた。
お金は払おうとしたのだが、店主はいなかった。
これは決して盗みではない。
人道的見地とエコロジーだ。
結果、たまたま快適になったのだ!
・・・・・・
さて、話は今に戻る。
馬車空間を至高の一時とするのはやはり紅茶。
ティシーが魔力で起こした火でお湯作り、茶葉で淹れたのだ。
「ディーテ産の紅茶もなかなかだな」
「さすがマスター、おみそれいたしましてよ」
「じゃの、おかわりじゃ」
おかわりを淹れるのは、(冴子より)上質を知るオレだ。
壊滅的な料理下手の冴子には任せられない。
ちなみに、ティシーの茶は砂糖とミルク多めだ。
おかわりと用意すると、ティシーはズズズと音を立てて飲む。
お気に召しているようだ。
「で、オレたちはどこに向かってるんだ?」
「さあ?」
首を傾げた冴子の首が肩から床へころころ転がった。
「おい、ティシー」
「うまいのぅ、紅茶というものは!
おかわりじゃ、おかわり!」
「へいへい」
ティシーはやはりご機嫌だったが、やはり何か隠しているようだった。
窓の外ではよく晴れた荒野の景色が流れていく。
続く。
今後の展開に対する要望などございましたら、お寄せくださいませ。
(できるだけ反映したいと思います)