2話 異世界だったらみんな勇者になれると思ってた。
初投稿の作品の2話目です。
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「あ、おふくろ? 元気してる?
うん、オレは元気だよ、
今度の正月は帰ろうと思って」
オレは久しぶりに実家に電話した。
毎年忙しくて、帰れていなかったが、今年は帰れそうだ。
年越しにはソバをくって、正月には雑煮を食うんだ。
ああ、懐かしいおふくろの味。。。
思えば遠くに来たもんだ。
夕焼けの空に城壁に囲まれた欧州の街並みは美しいなあ。
「だあああああああ!
盛大に現実逃避するでない!
スマホの電波など異世界にはない、母君と会話などできておらぬ!
あるのはお前の足元に生首じゃ!
ついでに言うてやるが、元気じゃないから過労死したんじゃ!
異世界だから、正月に帰省はできぬんじゃあああああああ!
たとえ、死んでなくて異世界でなかったとしても、
あの会社じゃ今年も帰省できぬと思うがの!」
見知らぬ幼女がなんだか、わめいていた。
ちょっとマセたお子さんのようだ。
オレは大人として大人の対応をすることにした。
「ん? どうしたの?
こんなところでお母さんとはぐれたのかな?」
「あん?」
「ぎゃあ!」
生首が飛んできた。
ブチ切れたティシーが投げたのだ。
オレはとっさに避けたが、生首が転がったまた地面を転がった。
「うおおおおおおい! ダメだろ、それは!
いくら、幼女だからって、やっていいことと悪いことが……」
「ええい、たかが、生首じゃろ!
さっさと正気にかえらぬがワルイのじゃ!」
「えええ? 生首っすよ、先生!
現代っ子には刺激強すぎっすよ!!!」
「現代の常識なんか妾に通用せんのじゃー、
おおおう? あん?」
凄んだところで幼女だから怖くないけど、
こいつ、
ひたすら、やべえ。
「お、おい、やべえ奴がいるぞ」
「ひとりで何してるのかしら? こわーい」
そんな声が聞こえて、あたりを見回せば群衆に囲まれていた。
どういうことだ?
「ちなみに、妾は復讐にとりつかえれた人間にしかみえぬぞ?」
「マジかよ! ここまでひとりで、オレやべえ奴かよ!」
ティシーが鼻ホジで、オレは頭を抱えてしまう。
どうして、こいつは大事なことを全然教えてくれないのか!
「ついでに言えば、この街では人間という種族は、
極めて評判が悪いと聞いておるな」
「え? ということは……」
果てしなくイヤな予感した。
「おい、そこの怪しい人間! 何をしている!」
駆けつけた兵士たちがこちらをニラんでいた。
白い鉄の鎧を着た屈強な獣人、トカゲっぽい種族だ。
「さっき、処刑された奴の首が浮かんでたぜ」
そこへ、善良な市民が奇怪な出来事を密告する。
「隊長、こいつ、罪人の仲間ではないですか?」
「よーし、ひっとらえろ」
「マジかよ!?」
そして、オレはトントン拍子で捕まりました。
・・・・・・
ぽちゃん。
天井から水滴がたれて、床にたたきつけられる。
地下というのに、どこから水がもれているのかはわからなかった。
ここは牢獄、日の光の届かない地下でロウソクの光だけだった。
薄暗い。
「ふ、どんな暗闇にも希望の光があるもんだ、
そう、どんなブラックにでもゆいたんという女神が現れるように」
オレは髪をかきあげてカッコつけてみた。
牢獄の壁にもたれて、アンニュイなオレ。
身ぐるみはがされて、粗末な奴隷服。足には鉄球。
「いや、そなたに現れたのは、
妾、復讐の女神エリニュスが一つ、このティシーじゃろが」
牢の外であぐらをかいているティシー。
「この状況、お前のせいだろ!
なんで、ろくな取り調べもしないで、裁判もなしに
処刑なんだよ! この世界狂ってるだろ!」
「いや、そなたの元の世界も、
ヤバそうな動物が檻から出たならば、
問答無用で射殺しておったじゃろが」
オレの必死の訴えもティシーは鼻ホジだった。
「それとこれとは違うだろ!」
「同じじゃろ、強きものが弱いものを支配する、
ただここでは人間が弱い、
お主は動物園から逃げ出したトラと変わらんのじゃろ」
「トラ=阪神ファン=やべえ奴ってことか!」
「間にひどい偏見が混ざっておるようじゃぞ?」
混乱した囚人に不適切な発言ありました。
お詫びいたします。
「ところで、なんでここまでついてきたんだ?」
「む? 妾ぬきで、そなたはこの状況で何かできるのかえ?」
「それはできないけど」
「じゃろーに」
それを聞くとティシーはニヤリとしていた。
返す言葉がなかった。
「それに、妾には、そなたしかおらぬからぅ……」
「ティシー……」
そうか、このやべえ幼女もオレしかいないんだ。
誰にも見えないんじゃ、本当はさみしい子なのかもしれない。
が、ティシーはケタケタと笑った。
「そなたのようにやべえ奴、そうそうおらぬからのぅ!」
「オレは、やべくねえ!」
ブラック企業にも、文句を言わない、
人畜無害を絵に描いたようなオレだぞ! by 奴隷服の男
いや、やべえか?
・・・・・・
「くそう、あの幼女め」
オレは自分が張り付けになる十字架を背負わされていた。
牢のあった建物から広場まで運んでいる。
意味は多分ない。
が、その分苦痛は増されている。
だが、ブラック企業に飼いならされたオレはまだ耐えられる。
しかし、ティシーはどこへいってしまったのか?
牢から出る間に見当たらなくなっていた。
何かしてくれるはずじゃなかったのか?
幼女に期待するオレがバカだったのか。
そんなことを思っているうちに広場へと着いてしまった。
ついた途端、獣人の兵士に乱暴に押さえつけられた。
そして、慣れた手際で張り付けられてしまう。
両脇には槍をもった兵士がスタンバイしている。
集まってくる群衆。
妖精、エルフ、ドワーフなどなど。
皆ファンタジーな姿をしていても、蔑んだ目でこちらを見ていた。
それは学生時代のあいつらにも似ていた。
結局、異世界でもこれかよ。
吐き気がした。
「この怪しい人間は、忌みじくも、おどろおどろしい魔術を……」
兵士の一人が何か口上を述べている。
これからオレが処刑される理由でも述べているようだ。
でも、あまりよく聞こえなかった。
「こ、ろ、せ! こ、ろ、せ!」
湧き上がる残酷な大合唱のせいだ。他は聞こえなくなる。
なぜだか、むずむずとしてきた。
そして、どこへ行ってもこういう最低な奴らばかりなのかと怒りが湧いてきた。
それはずっと忘れていた感情。
もう何年ぶりなのかという震えるほどの怒りを。
思わずオレは吠える。
「お前ら、覚えてろよ、また転生する機会があったら
絶対、復讐してやるからなああああああ!」
ぱちばちばちぱち。
その時、空から妙な音が聞こえた。
「ハッピーリバースデー、トゥーユー♪」
見上げれば、ティシーが手拍子しながら歌っていた。
黒い翼を羽ばたかせて。
続く
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