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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

勇者として召喚されましたが、失敗作として放逐されました

作者: 白虹

 いつから私は“こう”なってしまったのか。最初は、そこら辺にいれば埋没するような、人間だった筈だ。なのに、何故……

 「××の仇だ!」

 「このアマ!死ねや!」

 煩い。思考の邪魔だ。

纏わりつく“羽虫共”を愛刀で切り払う。羽虫共の生温かい体液が全身に付着し、非常に不快になる。此奴ら、生きてても死んでても不愉快だな。いくら切り払おうとも切り捨てようとも湧いてくる。私の周囲は生暖かい鉄錆のような臭いが充満し、一歩踏み出す毎に液体と羽虫だった物体を踏むような状態。

羽虫共は仲間だった筈の物体を踏みつけながら私に襲いかかり続けていた。とうとう脂で切れ味が有名な筈の愛刀が切れなくなり、羽虫の体の途中で止まった。

 「ちっ」

 思わず舌打ちをしてしまう。羽虫共は好機とばかりに押し寄せてくる。愚かな……

私は右手を前にかざし、羽虫共の先頭を睨め付けた。私は魔法が苦手なんだ。特に細かい事が駄目だ。

 「ヒ、ヒィッ!お、俺が悪かった!だから助けてくれ!!」

 先頭にいた羽虫は僅かに浮かされた状態となり、顔は涙やら鼻水やら色々な体液で濡れていた。……汚い。

そう、細かい調整が本当に苦手なんだ。……力が強すぎて。

つい、別の事を考えてしまい、パンッ!っと音を立てて羽虫が破裂してしまった。羽虫を構成していたモノが全身に降りかかる。……谷間に何かが滑り落ちる感覚があった。不快感に更に機嫌が悪くなった気がする。

羽虫共は、やっと“何”と戦っていたのか自覚したらしい。目には明らかに怯えの色があった。遅い。

 一人が背を向け走り出すと、釣られるように“自分たちの根城”の出口へ逃げ出した。私の受けた依頼内容は、

 盗賊の殲滅

 賞金首の殺害

なので、逃がす訳にはいかない。右手を逃げる背中に向け、水で出来た薄い刃を複数出現させ、やや低空で発射した。

 狙い通り太股を分離させ、羽虫が逃げないようにする。叫ばれても煩いので、刃を球体に変え口に突っ込ませた。多少刃が当たる位置を失敗したものもあるが、問題はないだろうと判断した。私はそのまま奥へと進んだ。

 気配をなるべく薄くしながら、寝てるだろう羽虫に向けて水の刃を発射し順調に依頼をこなしながら、奥を目指した。その際、“多少”壁や扉を切り裂いたが問題はないだろう。

 今回の盗賊の根城は、豪商の別荘だった廃屋。2階の床が綺麗に抜けており、1階だけなので気配を読みやすくて助かった。そのおかげで、賞金首共がどこにいるのか手に取るように分かる。

 その賞金首共がいる部屋に近づくにつれて、悲鳴が聞こえるようになった。女の悲鳴なので、どういう状況か分かってしまう。いくら自分を勝手に誘拐して、失敗だと樹海に放り出した憎い“世界の住人”とはいえ同性として、見捨てられなかった。

殲滅作業のスピードを上げ、悲鳴の聞こえる部屋へと急ぐ。少なくとも1人は大丈夫なのだから。

 最奥の部屋に入ると、想定通りの状況だった。

賞金首を含めた盗賊の幹部達は、集団暴行に夢中であり侵入した私に気づかない。女“たち”は1人正気で弱々しくとも抵抗していたが、それ以外は焦点の合わない壊れた状態だった。

 幹部達分の水の刃を作り発射させ、次々と首を物理的に飛ばす。一斉にできた赤黒い汚い噴水は邪魔なので、刃を水球にし吸わせる。みるみるうちに水球がデカくなるが気にしない事にする。

 「もう、大丈夫ですよ」

 そう、正気の女に声をかけたが、引きつるような悲鳴をあげて失神してしまった。とりあえず死体を蹴飛ばし、女たちを一カ所に集めそこら辺にあった布で覆う。後で自警団に保護させる事にする。賞金首の文字通り首を持って、その場を後にした。

 自警団に首を提出したら、なぜか諦めた目で処理された。その際、“召喚された”勇者サマが無事魔王を倒しパーティーメンバーの姫と結婚する事になったと告げられた。

 彼女は、なかなか覚醒しない私にも優しく根気強く接してくれていた。彼女が幸せであるよう願うばかりだ。

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