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いざ、初実戦

「……実戦、だと?」


 俺の顔を、不気味な顔で睨むネーガルに俺は疑問を飛ばす。

 その問いを受けて、ネーガルはその不気味な顔をさらに歪めて笑った。


「ぷっひょっひょっひょっひょ、そんな事も解らないのですか?どうやら、本当にどうしようもない奴なのかもしれません。きっと、誤って教師に選ばれたんでしょうね」


 粘りつくような声でそう言うネーガル。

 その言葉に、少しだけ怒りが膨れ上がったが顔には出さずにネーガルの顔から視線を逸らす。


「なぁ、リーン。その、実戦って言うのはどういう事なんだ?」


 そして、逸らした視線をリーンに向け、問いを飛ばす。

 リーンは、どこを見るでもなく目を瞑ったまま口を開いた。


「言葉通りの意味、と言えば分るだろうが言わば決闘だ。この学園では、第三者の立会の元なら教師だろうが生徒だろうが決闘が許されている。……いや、つい最近許された」


 少しだけ、呆れる様にしながら言うリーン。

その呆れの真意を汲み取った俺は、リーンに顔を向けたまま言葉を続ける。


「……なるほど、あの学校長が決めたんだな?」


「ああ、帽子で測った魔力は卓上の論理でしかない。魔力がいくら強かろうと、使い手としての腕が無ければ剣でも槍でも木偶の棒と言う意見だ」


「……まぁ、その意見は間違っては無いが……」


 ただ、実戦と言うからにはそれなりに危険なのだろう。

 いや、もしかすれば危険なんてレベルではないのかもしれないが……。


「表情から察するに、危険度とかそう言う事を考えているんだろう? 大丈夫だ、今まで死者は出ていない。ただ、ネーガルは見た目通り危険で野蛮で不潔だからな」


「……俺も表情から察するけど、お前もアイツ嫌いだろ」


「人を好きと嫌いだけで判断するのは早計だ。それで、受けるのか? 受けないのか? 早く返事をしろ。貴様の実力を測れるのは変わりないし、僕が第三者を務めてやる」


「そんなもの、決まっている」


 そう言って、俺は視線をネーガルに戻して一歩踏み出す。


「なるほど、良いでしょう。大丈夫です、殺しはしません。ただ、教育者としては再起不能になっていただくだけですよ」


「……うわっ、お前口臭いなぁ」


「ぐぎっ……落ちこぼれの分際で……頭に乗らせておけば!」


 俺の煽りはどうやらネーガルのメンタルにかなりクリーンヒットしたらしく、青筋を浮かべるネーガル。

 やっぱり、万国共通でお前口臭いはイラッとくるんだろうな。

 ただ、まぁこれ以上イラつかせても良いことは無いだろうし、これ以上は口を開かないでおこう。

 そして、俺とネーガルの間に立ったリーンは静かに両者を見て、口を開く。


「……それでは、ルールはファイブウォーク。お互いに反対側に5歩歩き、同時に振り返って魔法を発射、命中させた方が勝利とする。追撃魔法はあり、追尾魔法はなし、防御魔法は」


「ちょっと待った」


「……なんだ、貴様」


 唐突に、大量に出て来た謎の単語に思わず質問を飛ばしてしまった俺。

 リーンに露骨に嫌な顔をされるが、このまま始められては俺が不利というモノだろう。


「えっと、いろいろ聞きたいが追尾魔法と追撃魔法って?」


「……ぷっ……ぷっひょっひょっひょっひょ、コイツは何なんですか? 追撃魔法と追尾魔法など、一階生ですら知っている常識ですよ?」


「貴様、本当にそれを知らないのか?」


 俺の質問に、粘りつくような声で煽りを言うネーガルと明らかに驚いた表情で疑問を言うリーン。

 ネーガルは完全に無視するが、本当に知らないモノは知らない。


「ああ、追尾の方は大体意味は予測できるんだが追撃魔法が全くわからん」


「簡単に説明してやろう、一発目に撃った魔法が両者外れた場合に追撃して撃つ魔法だ。分かったか?」


「おお、感服できる程に単純明快で分かりやすい……」


「こほん……では、腰を折られたが、そう言うルールで行くぞ?」


 そして、そう言って再び場に緊張を戻そうとするリーン。


「ルールはさっき言った通り、付け加えて防御魔法はなしだ。いいな?」


「ああ、大丈夫だ」


「ええ、構いませんよ」


 そう言って、リーンの言葉に両者同時に返事をする。

 そして、振り返り背中合わせの様な状態になり、静止する。

 そして、完全に静止した俺とネーガルを見ながら、リーンは小さく口を開いた。

 

「それでは……始め!」


 リーンの掛け声とともに、俺の背中からネーガルの背中が離れる。

 それを感じ取って、すぐに俺も歩みを進める。

 まず、一歩目……。

 歩を進めながら、俺はサチコに言われた事を心の中で復唱する。

 まず、利き腕をまっすぐ伸ばして掌を前に……

 そして、その腕を支える様に逆の腕を添える。

 思い出しながら、ゆっくりと二歩目を踏み出す。

 そして……詠唱…………詠唱?

 瞬間、俺の中で駆け巡っていた思考が一瞬で止まる。


「あ……やば……」


 無意識の内に、小さくそう呟いていたが最早間に合わない。

 本当に、俺は何をやってるんだ……。

 今の俺に、ここで負けたらどれだけカッコ悪いか分かってるのかと小一時間問いただしてやりたい気分だ。

 だが、隠してもしょうがないので正直に言おう。

 詠唱……なんだっけ……。

 心の底から、飛び出たその発言に俺の思考は即行でパニックに陥っていく。

 あれぇ……えっと、炎が炎がぁみたいな所は覚えてるんだがそれ以上が何にも思い出せない……あれ、そんなの無かったっけ? あれ? あれ? どうだっけ? なんだっけ?

 どんどんパニックになる俺だったが、それでも歩を止めるわけにはいかずに歩を進める。

 耳を傾ければ、既にネーガルは詠唱を始めており、そして全く同じ三歩目に足を出している。

 その光景が、さらに俺のパニックを煽る。

 えっと、あの、その……なんだっけ……めらめら? 踊って……こう、燃えてみたいな……あれぇ……余計にわかんねぇえええ。

 緊張特有の涼しさを感じながら、俺は思考を巡らせる。

 もちろん、パニックになっている思考など既に意味を成していない事は理解していたがそんな事に気を回せる余裕は俺に残されていなかった。

 そして、足を踏み出して四歩……。

 もはや、これ以上パニックになっている暇はない。

結局、俺は何の準備もできずに五歩目を踏み出す。

 だが、その瞬間チラリと視界を何かが横切った。

それは、少し離れた位置からこちらを心配そうに眺めるサチコ。

 その姿に、先程のネーガルの落ちこぼれと言う言葉が蘇り、俺は何か小さな感情が芽生えるのを感じていた。

 どす黒い様な、真っ白の布の様な、そんな矛盾した感情……。

 ここで負ければ、これから先も彼女は落ちこぼれと呼ばれてしまう。

 そうだ、ここで負ける訳にはいかない。

 俺は、彼女を守りたい。

 一人の教師として。

 そう考えた途端、不意に視界が白くなっていくのを感じた。


「えっ……」


 そんな、小さな呟きを言ったか言わないかの内に、脳内に謎の文字列が凄まじい勢いで流れていく。

 なんだ……この文字列は……。

 見た事も無い、文字と言うより模様に近いその謎の文字列が一瞬で脳裏をよぎり、すぐに視界が白から色を取り戻す。

 そして、それは同時に俺が五歩目を踏み出した瞬間だった。


「っ……」


 思い出したように、ステップを踏む様にターンしてネーガルと向き合う。

 本当に、すんでの所でネーガルも振り返った様で俺と目を合わせた。

 そして、全くの同一タイミングでお互いが手を伸ばし、口を開く。


「ポイズンボー」


 ネーガルが、まさにその魔法を発動させようとした叫びに被せる様に、俺は言葉を発した。


「■■■■」


 え……?

 俺は、自分の口から漏れた言葉に違和感を感じた。

 何と言うか……壊れたラジオから出るノイズの様な潰れた音が俺の口から漏れていた。

 なんだ……俺は……今、なんて言ったんだ?

 そんな疑問を浮かべたのと同時に、目の前で起こる真っ赤な輝き。

 それは、俺が発したその魔法の効果なのは分かった。

 だが俺は、自分の腕から出たその光を、形容できなかった。

 その事実は、一瞬して俺の前から光が消え遙か彼方の壁に減り込み、ぼろ雑巾の様になって気絶するネーガルを見ても同じ事だった。

 ただ、そのネーガルまで一直線に抉れた地面から俺の腕から出た物が一直線に伸びて行ったことは読み取ることが出来た。

 出来た……が、どうやって俺はそれを発動した?

 正直、俺がやった事なのかと理解できない。

 見れば、リーンも信じられない物を見たような顔でこちらを見ている。


「はい、そこまで」


 そんな俺達に掛けられる幼い女の声。

 その声が、朝屋敷で別れたマレスの物だと理解するのはそれ程時間を要さなかった。


「お嬢様……」


「見事、と言うべきかしら? 甘粕先生」


 学校長であるマレスに視線を向け姿勢を正すリーンを全く気にする事なく横を通り過ぎ、マレスは俺の目の前まで歩いてくる。

 いつから見ていたかわからないが、どうやら俺達の勝負のことは知っているらしい。

 そして、俺の前でにこやかにほほ笑むと静かに笑って口を開く。


「ちょっと、顔貸しなさい」


「あ……ああ……」


 そのマレスの声には、肯定せざるを得ない様な悪魔的な威圧が含まれていた。

 何か……まずったか……?


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