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イケメン怖い

久しぶりの投稿です。





「君、誰?」


「……」


私は未だ、目の前の現実を受け入れられないでいた。



私の顔を覗き込むのは、さらさらとした黒髪と藤色の瞳を持つ青年。顔立ちは彫りが深く、涼しげな目元、シャープな顎、薄い唇と所謂美形というやつだ。


(……しっかしこの顔、どっかで見たことある気が、、)


先程から訝しげにこちらを見つめるこの青年の顔に見覚えがある気がしてならない。しかし、彼はとても私と同じ日本人には見えない。私に外人の知り合いは居ないはずなのだが…。



(うーん、いったいどこで…)


「ねー、聞いてんのー?無視しないでよ」


(…てか、実物の美形って、こんなキンキラキンなのか…!ま、眩しい…。まともに見たら目をやられちまうよ…!)


「おーい」


(やっぱり、イケメンは二次元がちょうどいいのか…)



「ねぇ、いい加減にしなよ」


(……っ!)


思考の海を漂っていたところ、イケメンの底冷えするような低い声によって現実に連れ戻された。


(ってか、めっちゃこっち見てる…。美形がこっち見てる…)


怖いよ、怖いよーとガクガク震えているとイケメンは冷たい視線を送ってくる。



「僕、気ぃ長い方じゃないからさー、早く答えてくんない?」


「……へ?」


「だからぁ、君は誰って聞いてんの!」


「わ、私っすか…!?」


「さっきからそー言ってんの!」


イケメンは苛ついた様子でこちらを睨み付けてくる。美形が凄むとまじで恐ろしい。



「私、えー…斉藤莉子(さいとうりこ)と言います。莉子が名前で斉藤が名字です…」


おずおずそう言うと、イケメンは「…は?僕、君の名前なんてどーでも良いんだけど」と眉間に皺を寄せた。



「え。で、でも『誰?』って聞いてきたじゃないですか」


「あぁもう!!そーいう意味じゃなくてー!」


彼は更に皺を深くして私を見た。



「…あんた、一体何者なの?」


「……?」


何だか私にはイケメンの言っていることが理解できない。やっぱり、美形なのかそうじゃ無いのかで、言語や意思の疎通に障壁が生まれるのか…。ってかこの人、外人顔なのに日本語ペラペラな気がするんだけど…。ハーフか?ハーフなのか?


ぼんやりそんなことを考えていると、彼は呆れたように息を吐いた。



「あんたさぁ、ここに突然現れたんだよ。パッてね。…だけどー、ここ、転移魔法が使えないよーに僕が結界張ってるんだよね」


「……」


「けど、それを破って入ってくるとか……どういうことなわけ?」


「……」



ーーなるほど、このイケメンは厨二病なのか。


(魔法やら結界やら言ってる時点で、相当な重症患者ということが伺えますな。……あーあ、なんか怖がって損したぜー。残念すぎる美形はあんまり怖くないよー。そんなに睨んでも何ともないよー。)


「おい、なんなのその顔」


「えー、いや別に…」


「なんで、ちょっとニヤニヤしてるわけ?気持ち悪いんだけど」


「特に深い意味はありませんよー。気にしないでくださいー」


誰だってそういう時期はあるさ。キンキラ厨二病青年。



「…………あんた、ムカつく」


その呟きが聞こえた瞬間、耳元でシュンッと音がした。頬に生暖かい何かが伝ったと思ったら、真後ろで爆音がした。



「……え」


「あのさー、嘗めた態度とると、、」




ーー殺しちゃうよ?








「ほら、さっさとそこ掃除して」


「は、はいぃぃ!」


「それ終わったら次は皿洗いね」


「りょ、了解であります!」



今現在、私は馬車馬のようにこき使われ、働かされています。誰に?勿論、あのキラキライケメン男にですよ!



「…ちょっとー、何ぼやっとしてんの。さっさと働けよ」


「申し訳ございません!!」



美しい顔を意地悪げに歪めながら、私を召し使いのように扱うこのイケメンーールイス・キャンベルは実はとんでもない人物だった。





**************************




後ろを振り向くとガラガラと瓦礫が音を立てて崩れ始めていた。



「…………え、え」


「分かった?僕の力。あんたもあんな風になりたくなかったら、立場をわきまえることだね」



え?いったい何が起こったの?後ろが地獄絵図にしか見えないんだけど。え?このイケメン、ただの厨二病患者じゃないの?いったい何者?



ーーポタ


(…ポタ?……………!!)



足下を見ると真っ赤な液体。なんだこれは。異常に熱い自分の頬に触れると、ぬるりとした感触とともに手が鮮やかに赤く染まった。え、どういうこと。


「ぶふっ、何その間抜けな顔ー。すっごい面白いんだけどー」


「へっ?」


「これでもうさっきみたいな気持ち悪い顔も出来ないでしょー?」



そう言いながらニヤリと笑うイケメン。ちょっと、何言ってるか分からない。この状況は彼が作り出しているということなのか?彼の厨二病発言は本当なのか?ん?そしたらやばくないか、私。ってか血、結構出てるな。



「で、結局何しに来たのか吐く気になったー?」


「……(どうしよう)」


「んー?怖すぎて、喋れなくなっちゃったー?」


「………(まずいよな、これ)」


「ねー聞いてんのー?どっかの間者かなんかなんでしょー? 」


「…………(死ぬのか?私)」



「おい」


ガシッ


「いっっ!」


思考の海(二回目)にダイビング中の私をただならぬ殺気と痛みが引きずりあげた。そして、気づくと眼前には鋭い眼光。頭には大きな細く、長い指 が…。



ーーギリギリギリ


「ふぎゃぁぁあっ!」


頭に更に強い痛みが走ると同時に口から女子が出すはずのない声が溢れる。私の頭を握りつぶす気か、このイケメン!



「あんた、馬鹿なの?このくだり、さっきもやったよ?」


「いぃぃぃい…!」


「頭潰されたくなかったら、さっさと喋ろーね?」


「うぅぅ……て、、…は…なし…て…」


「え?なんてー?聞こえないよー?」



口を歪めて笑うイケメンは恐ろしいことこの上ない。痛みに目を潤ませながら「…手を、、離し…てください」と大きめに言うと彼は少し目を細めてから、手から力を抜いた。離してはくれないんですね。


「…えっと、私、怪しいものではなくて、ですね…」


「家にいたのに、気づいたら…ここにいたというか…」


「私もびっくりしてるっていうか、よく分からないっていうか、というかここはど「ふーん、あくまでしらばっくれるつもり?」 ……へ?」



急に無表情になった彼は妖しく目を光らせ私を見る。


「やっぱり無害そうにしてるけど、僕を殺すためにここに来たんでしょ?」


「……ころす?」


「あんたが初めてじゃないんだよ。そういう理由でここに来るのは」


「………」



どうやら、イケメンは私が彼を殺しに来た悪者だと、迷惑甚だしい勘違いをしているらしい。今も表情を変えないまま、私を冷たく見下ろしてくる。ってか、こっちだって訳が分からないまま訳の分からない美形に絡まれて流血までしてる被害者だっていうのに……理不尽すぎる。


「…あの!私、別にあなたを殺そうとか、しに来たわけではないです!普通に…えーと……ま、迷子です!」


「……迷子ねぇ」


「そ、そうなのです!」



今、自分がどこにいるかも分からず(命の危機に瀕していることだけは分かる)、どうしていいかも分からない。今の私には『迷子』という言葉がしっくりくるはずだ。私の『迷子』という発言にイケメンは一瞬目を丸くしたが、また元の無表情に戻る。


「…言い逃れは聞き飽きたんだけど」


「い、言い逃れじゃありません!大体、私武器とか持ってないし、かと言ってあなたを殴って殺せるほど力持ちじゃないし…!」



取り合えず、"イケメンを殺しに来た人" という誤解は解かねばと、着ていたブレザーをひらひらさせてみたり、ポケットを裏返したりして、丸腰アピールをする。その間、イケメンはじっとこちらを見ていた。


「ど、どうですか?まだ私が悪者に見えますか?こんな丸腰野郎に誰かを殺せると思いますか…?」


「………」


「…ふ、、服の中も気になるというなら、命には変えられませんからお、お見せしますけども」


「………」


「自分の身体には一欠片の自信もないので、おぞましいものを見たって目が腐り落ちても、責任はと…とれないかと…!」



あぁー!!私は何意味の分からないことを口走ってるんだ!頭が混乱してる間に口が勝手に動いちゃってる!イケメンも何言ってんだコイツって顔してるよー!!


「………」


「………(い、イケメンが無言の圧を与えてくる…!)」


「………」


「………(こ、こわいよー、誰か助けてー!)」



美しい顔で女を真っ直ぐ見つめる男と、男の圧力に半泣きでガクガクと震える女。端から見れば、非常にカオスな状況だ。だが、暫くすると男は短く息を吐いて、まばたきをした。そしてーー



ーーギリギリギリ


「ぴぎゃゃゃやぁぁ!!」



ーーギリギリギリ


「うぎゃゃゃぁぁ!!」


イケメンがめっちゃ良い顔で私の頭を…!力を入れたり抜いたりしながら、私の頭を…!



「いだぁぁぁぁっ!」


「ぶふっ、間抜け面」


こいつ、私の反応を見て楽しんでやがる…!口がどんどん歪んでいってやがる…!



「ぶふふ、あんた、迷子なんだったっけ…?ぶふ」


「そ"、そ"う"て"す"…!!」


「ふーん……なーらさー、、」







*******************************






という経緯でイケメンの下僕になりました。


彼はあのとき何を思ったのか知らないけれど、あんなに警戒していた私を殺すどころか下僕にしたい(正確には『してやろう』)と言ってきた。情緒不安定すぎると思う。


まぁ、その彼の気まぐれに一応は救われたのだから良しとしよう(ちゃんと、頬っぺたの手当てもしてくれたし)。



そして、もう一つ重大なことが。


どうやら、このイケメンの名前は『ルイス・キャンベル』と言うらしい。だが、実はこの名前、私が家でやろうとしていたBLゲーの攻略対象と同じ名前だったりする。しかも、妙に彼の顔に見覚えがあるのだ。まさか、そんなはずは…。


たしか、ケイちゃんの話によると、ゲームの『ルイス』は何個もの難しい条件をクリアしないと現れない超レアな隠しキャラだったはず。そのレアさ故に、ネットなどでもなかなか情報が載っておらず、名前とビジュアルだけが公開されている謎のイケメンという立ち位置を欲しいままにしているらしい。


だが、魔法のようなものを使える彼はかなりあのゲームの世界観にマッチしている。もしかすると、もしかして……。



(…そんな、ばなな)


時代に不適切なギャグを頭の中で唱えていたら、後ろから「もっと速く働きなよ、のろまさん」と合わせて頭をギリギリしてくるイケメン。



「ふぎゃゃゃぁぁ!!」


「ぶふっ」



美しい笑顔で楽しげなイケメン。




(…やっぱり、イケメンは二次元に限るな…)








ケイちゃん、私、隠しキャラ見つけたよ




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