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傭兵団の料理番  作者: 川井 昂
二章・僕とリュウファさん
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閑話、クウガの剣

 一太刀振れば、再び次の一太刀へ。心と体を整えて、さらなる一太刀を望む。

 ワイは城の庭で、ひたすら剣を振っていた。無心であり、無心でないようなフワフワした心構え。

 わかっとる。こんな心構えで剣を振っても、良いとは言えんと。でも、振らずにはいられない。

 ワイの脳裏に焼き付いているのは、リュウファの剣。

 一つ一つの動作の完成度がワイの遙か上をいっていた。ワイ自身が限界だと思っていた技には、さらに上があるのだと知れたんじゃ。

 不謹慎な話じゃが、シュリの身を案じるそれよりもワイの脳裏に焼き付いておる。あの身のこなし、剣の軌跡、骨の可動。全てがワイの中にある。

 あれは、確かに天才と呼べる領域じゃ。あれの秘密は、肉体を鍛え抜いた上で骨の動きそのものまでも極めたからじゃろう。

 骨の動き、それすなわち人間が歴史を紡ぎ、文化と技術が進歩していく中で失われていく、原初の肉体の力。

 それを手に入れぬ事には、リュウファには勝てん。

 技を極め、肉体を極め、骨を極める。

 それでようやくリュウファと互角。

 ならば、その先を、その先を手に入れねばならん。

 何が要る? 技を、体を、骨を極めた先にあるもの……! あと少しでその答えを得られると言うに、霞のように掴めん……!


「何が足りん……! 何が足りんのじゃ……! あと少しで見えるというに……!」


 剣を振って、振って、振って、振って、振って、振って……!

 その剣速が、ワイ自身でも把握できぬほどになり、何本も振ってるのに時間が経たず、そして、そして――――――。


「クウガ!」


 その声に意識を取り戻したワイは、最後に剣を振り下ろした。

 ピッ――と鋭く小さな音だけがなる。汗まみれになったワイの視線が剣の先を見つめる。


「……ガングレイブか、何のようじゃ?」

「気が立ってんな。俺の声が届かなかったか?」


 ガングレイブが皮肉めいた声で、こちらに近づいてくる。


「……聞こえんなぁ、今のワイには。負け犬のワイは、ひたすら剣を振ることしかできん」

「それで? 何か掴めたのか……」

「……」


 何も、答えない。答えられん。

 見えていても、掴むことができておらん。その本質が定まらん。

 それは幻を見るかのようであり、理想を見るかのようであり、進みたい夢の先を見るかのような作業。

 現実に具現化できるのは何時のことか、いや、すぐにでもせにゃならん。


「ワイのことはええやろ。で? 何の用や」

「シュリの居場所がわかった」


 その言葉が聞こえた瞬間、ワイの目はガングレイブを捉えた。

 ……しかし、当のガングレイブは難しい顔をしておる。


「それで? どこにおる」

「もうグランエンドの首都にいるらしい。シュリの置き手紙を見つけた」

「ようも監視の中で、そんなことできたな」

「いや、リルの差し金らしい。どういう手段を取ったのか、詳しく聞かねばならん」


 リルの手柄か……いや、今はそれは良い。


「それで? 現実問題シュリをどうやって救う気じゃ?」

「外交は無理だ。交流もなく、他国の人間を襲って誘拐する手段を取ってる以上、穏便には終わらん」

「やろうな……なら潜入か?」

「そうなる」

「それで、ワイの出番か」


 腕が鳴るのぅ。シュリを助けるために、まさかグランエンドまで行くことになるとはの。

 しかし、ガングレイブの難しい顔は解けない。


「それが、シュリが助けはまだ良いと言ってる」

「は? なんでじゃ?」

「『これを機に、グランエンドを調べたい。自分が攫われた理由を知りたい』だと」

「……あいつもなかなかに男じゃの」


 まさか救出を拒否するとは。思わず笑ってしまいそうじゃったわ。


「それで? どうする?」

「考え中だ……」


 そうか、ならば。

 その間に、ワイの剣を完成させるのみよ。

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