閑話、ガングレイブの焦り
「まだ見つからないのか……」
俺ことガングレイブは、真夜中の執務室で頭を抱えていた。
シュリが誘拐されてから一ヶ月を過ぎた。もうこのアプラーダ領にはいないだろう。とすれば、すでにグランエンドの領地にいるかもしれない。
テグを使ってグランエンドに侵入してもらい足取りを追っているが、これが見つからない。人里や街道を調査してもらったが、それらしい幌馬車は見てないそうだ。
なら、どこにいるというんだ? わからないな……くそ。
「ガングレイブ」
執務室に一緒にいるアーリウスが、俺に優しい声で話しかけてきた。
アーリウスの腹も、少し目立つようになってきた。当然だよな、妊娠してからもう時間が経ってる。そろそろ目立ってもおかしくない。
俺はアーリウスの言葉で落ち着きを取り戻しながら言った。
「ああ、わかってる。わかってるとも。焦りは禁物だ。これは時間がかかると、覚悟はしていた」
「はい」
「だが、かかりすぎた。テグのせいじゃない、俺がもっと他の奴らに情報を集めるように徹底しなかったからだ」
「すでにシュリは、グランエンドの首都にいるとは思いませんか?」
「思わない……はずだ」
俺がそう思うのには、根拠がある。
「人里にも街道にもいないってことは、人目を避けて遠回りしてるってことだ。だが、シュリも一緒にいるし幌馬車の馬だって休憩が必要だ。補給はどうしても必要になる。
なら、必ず遠回りをしながらもどこかで補給しながら移動している。そんなルートを使ってるなら、相当時間がかかってるはずなんだ」
「助けるチャンスはあると?」
「必ずある」
俺は自分に言い聞かせるように言った。
「必ず、あるはずだ」
「そうですね。私もそれを信じてます。クウガも、雪辱を果たそうと訓練漬けですし」
クウガはリュウファに負けてから、より一層稽古に励むようになった。
よほど負けたのが堪えたんだろう。その結果としてシュリが連れ去られたことに罪悪感を抱いているのかもしれない。それが、今のクウガを支えてる。
「ガーンたちに、クウガを気に懸けて欲しいと言っておく」
「そうですね。リルも、エクレスも、今は精力的に動いてますが……どこで何が起こるかわかりません。私も気を付けておきます」
「そうしてくれ」
待ってろよ、シュリ。必ず助けるからな。
……だが、どこにいるんだ……?