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傭兵団の料理番  作者: 川井 昂
二章・僕とリュウファさん
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三十二、暇つぶしとスコッチエッグ

 幌馬車に、揺られ揺られて、幾数日。

 何も会話が、ないのも寂しい。


 どうもシュリです。誘拐されてます。

 ああ、あれから……最初に気を取り戻してから三日くらいかなぁ。

 こう、なんというかお城のお仕事で料理をしているのと、人質で仕方なく食事を用意するのとじゃ、時間の経過が違いすぎて困ります。

 なんというか、リュウファさんはどこかしらか食材を手に入れて、僕に作らせて、そして美味しいとも言わずに食べきって、さっさと手綱を操作する。

 感想が全くないってのも困りもんです。そして……。


「リュウファさん。グランエンドってどんなとこですか?」

「……」

「せめて過ごしやすいところなら良いなぁ。気候とかどうなってます?」

「……」


 こんな感じだよ!

 現在の時間帯は昼。曇り空ではありますが、雨が降る様子はありません。

 幌馬車の隙間から入る風はどこか冷たく、まるで今の空気を表しているようでした。ハハハ! 笑い事じゃねえ。


「リュウファさん」

「それ以上くだらない話をしようとするなら、小生は君を殴らねばならんが?」


 怖!


「いえ、あまりにも暇なので……」

「小生、確か君を誘拐してるんだけどな。なんで誘拐された奴が暇に文句を付けるんだ」

「僕は今まで仕事仕事と過ごしてきましたから。いきなり何もすることがなくなることに、慣れないんです」

「そうか」


 おお、初めて会話が続いたぞ。ちょっとだけだけど。


「傭兵団時代はいろんなところに行きましたし、誘拐されるまでも結構頑張ってきた自覚はありますから」

「例えばどんなのかね。小生はその話なら、付き合っても良い」


 お? ……あ、わかった。

 グランエンドやリュウファさんに関する話は情報機密上喋らないけど、僕やガングレイブさんに関する話は情報収集の意味合いで付き合うつもりなんだ。

 思わずしかめっ面したくなりましたが、まあ目的がわかればなんてこともなし。

 必要な情報を渡さないようにすれば良いのですからね。


「そうですね……最初に僕が関わったのは――」


 そこから、僕の昔語りが始まりました。






 どれくらい時間が経ったでしょうか。

 選ぶ言葉を間違えないように気を付けつつ、会話が途切れないようにします。

 正直話してる最中に、そもそも会話しなければよくね? とも思ったけど……ここで言葉を打ち切るのも不自然だなと思って話し続けることにしました。


「という感じに、ニュービストでは」

「そこまでだ」


 話している最中に、リュウファさんが止めを入れました。


「? どうしました」

「そろそろ晩飯だ」


 え? と思って外を見ると確かに空が暗くなっている。どうやら今日はこのまま曇りで、空の星も見えそうにありません。


「……そろそろ腹が減ったな。用意してある食材はまだあるな?」

「ええ」


 リュウファさんがどこから持って来たのかわかんない、謎の物資。

 確かにまだ余裕がありますが……正直、なんだかこの物資を使うのは躊躇われる。

 でも作らないと、今度はリュウファさんに何をされるかわからないので、作るしかありません。


「じゃあ頼む。小生は腹が減った」

「そうですか……」


 そういうとリュウファさんは道の端に幌馬車を寄せて、馬の世話を始めました。

 さて、今日は何にするか……簡単に作れる奴にしよう。

 今日作るのはスコッチエッグです。

 用意するものは卵、牛肉と豚肉を合い挽き肉にしたもの、塩胡椒、小麦粉、パン粉、油です。

 作り方としては、まず卵を好みの固さに茹でます。半熟も作っておくよ。

 牛肉と豚肉を挽肉にして小麦粉を加えて、塩胡椒を振ってこねます。ねばりが出るまでやりますよい。

 で、ゆで卵に肉生地を付けて形を整え、これに小麦粉を水で溶いたものとパン粉に付け、揚げる。


「うん、こんな感じか」


 僕は揚がったスコッチエッグの油を紙に吸わせて、皿に盛り付けていきます。

 念のために数は用意しておく。たくさん食べてくれるかな。


「できたか?」


 そうして数を用意すると、リュウファさんが幌馬車の中に入ってきました。

 そしてドカッと座ると、皿を見つめます。


「……これか?」

「はい。スコッチエッグって言います。これは」

「説明はいらん」


 リュウファさんはそう言うと、どこからかフォークを取り出して食べ始めました。

 結構熱いんだけどな、平気そうな顔でどんどん食べていくぞ……。


「……」


 黙って数をどんどん食べていくので、僕も慌てて食事を始めます。

 うん、熱々に仕上がってる。それに、固茹でのスコッチエッグも半熟のスコッチエッグも美味しく仕上がってる。


「どうですか、リュウファさん」

「食えなくはない」


 あ、そうですか。食えなくない、ですか。

 美味しく出来てると思うけどなぁ。この人から「美味しい」って聞いたことがないよ。

 固茹ではしっかりとした黄身の食感と旨味、それを肉と一緒にまとめて食べれて美味しい。

 半熟だって、トロトロの黄身が口の中で混ざり合い、風味と旨味がまた違って美味しい。

 上手くできてるんだけどなぁ。リュウファさんは何も言わないな。


「おい」

「はい?」


 とか考えていると、リュウファさんが言いました。


「昼間の話なら、もう一度言うが付き合ってやる。食事も食べてやる。それ以外で小生たちに関わるな」

「それはどういう意味で」

「馴れ合うつもりはない。そういうことだ。食い終わったから寝る」


 リュウファさんはそういうと幌馬車に寄りかかって、目を閉じました。

 ……寝ると言っても逃げる余地はないんだろうなぁ。

 でも、なんだか僕にも暇つぶしが出来ました。


 この人の口から、美味しいと言わせてみたい。


 誘拐されてる身でありながら、そんなことを考える僕でした。

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― 新着の感想 ―
[一言] ああ、単に難癖つけたいだけか(^_^;)。 主人公の預かりしらんところで、人がなくなったとして、なんでそれにまで気を使わんといかんのかな(^_^;)。 戦国時代やねんで?<この世界の(し…
[気になる点] 己の為に人死んでるのにまず、料理か!? 主人公、どんなモラルしとんだ!
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