閑話、その頃アプラーダでは……
「お前たちは何をしていたんだ!!!」
それは、エクレスたちが戻ってきた翌日の執務室に鳴り響いた、怒号。
俺ことガングレイブは、リルとクウガとエクレスに向かって怒鳴っていたんだ。
「なんのためにお前たちを付けていたと思う!! シュリを守るためだろう!! それなのにおめおめと帰ってきて、恥ずかしくないのか!!」
「そうは言うがな!! まさかリュウファが出て来るとは思わんかったわ!」
「お前の剣はなんの為に鍛えたんだ!! 仲間を守るためだろうが! 負けて言い訳してんじゃねえ!」
クウガの言い訳に、俺はバッサリと切り捨てる。
ああ、でもそうだ。こんな怒りをぶちまけてる場合じゃない。わかってる。
でも、言わずにはいられない……!!
シュリが攫われた。相手は、グランエンドの三宝将、剣宝リュウファ・ヒエン。
クウガたちはリュウファに負け、気絶していたらしい。物資も何もその場に捨てられ、幌馬車を奪われたとのことだ。
リルは目が覚めてすぐに俺に連絡を飛ばし、驚いた俺はすぐにシュリを奪還するための兵とクウガたちを回収する手筈を整えた。
そして戻ってきたクウガたちは、ボロボロだった。どうやらクウガは一騎打ちで負け、リルとエクレスは抵抗する間もなく気絶させられたらしい。
同時に届いた情報で、近辺の商人が襲われて殺される事件が起こったとのことだ。十中八九リュウファの仕業だろう。なんのために物資を捨てたのかと思ったが、シュリが抵抗できないようにするためだな。それでいて物資は現地調達、敵国に混乱を起こさせるってわけだクソが。
そして、満身創痍で戻ってきたクウガたちはすぐに寝たが、朝になって俺の所に呼び出して、こうして怒鳴ってるわけだ。そんな時間も、もったいないってのによ。
「それで!? シュリはどうして攫われたのかわかるのか!?」
「それはボクたちでもわからない。ただ、主のところに連れて行くってだけみたい」
「クソが!」
俺は執務机を殴りつけて、歯ぎしりする。
どうやら向こうさん、グランエンドの王様もシュリの価値やらなんやらに気づいたのか? それとも別の目的か?
わからん、情報が少なすぎる。
「……今はテグの部隊とアーリウスの部隊も調査と追跡を始めてる。アーリウスは身重だから行かせられないが……テグは自分から部隊を率いて出ていった」
「ワイももう戦える。今度は負けん! ワイも行くぞ!」
「ああ、部隊を編成してすぐに向かってくれ」
「リルは」
「リルは例の連絡手段……あれを増やしてくれ。今は情報の確度と速度が必要だからな」
「わかった!」
リルとクウガは勢いよく部屋から出て行った。今度こそ頼む。
そして、残ったエクレスに俺は言った。
「エクレス」
「何?」
「頼みがある」
「シュリくんを助けるためならなんでも」
エクレスは強い瞳を俺に向ける。
「なら、今回関係を改善した村に書簡を。怪しい幌馬車を見つけたら、近寄るなと伝えろ」
「近寄るな?」
「リュウファは商人や通行人を襲って物資を補充している。下手に近づけば殺される」
クウガが負けるほどの相手だ。下手にシュリのために情報を送ってくれ、なんて命令を出せるわけがない。
実際に商人が殺されてるんだ。これ以上、村人や商人を殺させるわけにはいかない。
「わかった。……だけど、ボクはボクでシュリくんのために行動させてもらう」
「具体的には?」
「ここからグランエンドまでは、いくつかの領地を通る。最短の道のりで、そこの領主と懇意にさせてもらってたから、情報を送ってもらう」
「そうして欲しいがな……できれば戦うなと伝えておいてくれ。ここで他の領地の領民が殺されたら、外交問題になる」
「わかってる……」
エクレスは悔しそうに舌打ちをして出て行った。
残った俺は、椅子に寄りかかって天上を見上げる。
「どこにいるんだ、無事なのか……シュリ」
俺の心配は、虚しく部屋に響くだけだった。