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傭兵団の料理番  作者: 川井 昂
一章・僕とターニングポイント
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第二部プロローグ

7/15 2/2更新

どうもシュリです。

現代地球の日本で、原因不明の何かに巻き込まれて異世界に転移した、普通の男性です。

現在僕は、


「リルさん。顔を上げてください」


 リルさんを土下座させて説教していました。

 どうしてかというと、簡単に説明しましょう。

 作ってた晩ご飯のハンバーグを、勝手につまみ食いしてたから。以上!

 さすがにこれには怒ったので、ちゃんと叱っています。これ以上繰り返されたらいかんからな。


「ごめんなさい」

「反省するのは良いことです。ですが、あなたの反省は何回目でしょうか?」

「だいたい……4回?」

「どんだけさば読んでんだ。40回は超えてるよ」


 十分の一に誤魔化すなんて、太ぇやろうだな。


「いい加減にしないと、リルさんにはハンバーグを作るのを止めなければいけません」

「それは困る!!!!」


 リルさんは必死な顔をして言いました。

 そんだけ困るんなら、なんでつまみ食いするんだよ。


「困るでしょう? なら勝手に厨房に侵入して、ハンバーグを食べるのは止めてくださいね」

「わ、わかった……反省するから、次はデミグラスソースのハンバーグ頂戴」

「てめえ反省してないな」


 僕も眉間に思わず、皺が寄ります。ここまで反省も後悔もしない人だと、ただただ困るわ。


「今回のことはガングレイブさんに報告させていただきます。いいですね?」

「そ、それは困る」

「駄目です。反省してください。ほら、回りを見てください」


 僕がリルさんにそう促すと、回りを観察し始めました。

 ここは厨房で、机の上には配膳する予定だったハンバーグを盛り付けていた皿がいくつもあったのです。

 しかし、全部が空。これはもうつまみ食いじゃなくて強盗だよ強盗。

 なので、他のみんなも怒りの表情を浮かべています。余計な仕事を増やしやがって! とね。

 さすがにその視線には耐えられなかったのか、リルさんは小さくなりながら言いました。


「ごめんなさい……」

「……なら、次は絶対にしないでくださいね。もう、この領地に拠点を構えてから何ヶ月経つと思ってるんですか? 三ヶ月ですよ三ヶ月。いい加減しっかりしてください」

「うん……」


 今度こそ反省してると思うので、僕は溜め息を一つ吐いて、部下の方を見ました。


「なので、次はないものとして今回はガングレイブさんに報告で、事態は終わらせます。晩ご飯の料理は……豆腐ハンバーグに変更してください。牛肉のストックが少なくなってたはずですから」

「了解」


 僕の言葉に、ガーンさんが呆れた様子で頭を掻きました。

 そして、僕はリルさんの手を取って立ち上がらせると、改めて聞きました。


「それで? ここに来た理由はなんでしょうか?」

「あ、そうそう」


 リルさんは服の裾を叩きながら言いました。


「ガングレイブが呼んでる。リルはそのために来た」

「嘘つけ」

「ガングレイブは本当」

「じゃあなんでハンバーグを食い尽くしたんですか……」


 僕は疲れた顔をして、顔を手で覆いました。

 全く、リルさんのハンバーグ好きには困ったものです。何時になったらこの悪癖を治せるのか……。

 まあそんなこと気にしても仕方が無い。


「まあ、了解しました。これから向かいます」

「じゃあリルは部屋に戻って」

「皆さーん! リルさんも皿洗いくらいなら手伝えるそうなので、こき使ってくださーい!」

「え! 待っ!」

「ではこれで!」


 僕はさっさと厨房から抜け出して、ガングレイブさんの部屋へと向かいます。

 食堂を出て、廊下に出て、階段を上る。外はすっかり暗くなっています。月も出ている。

 本当なら晩ご飯の用意ができてたんですけどねぇ……。

 しかし、こうして城内を歩くと体制が変わってきてるんだな、というのがわかります。

 見慣れた人もいれば、新しく雇われた人もいる。

 政務の形も変わりつつあり、軍の在り方も変わろうとしている。

 たった三ヶ月。あの日から、三ヶ月経った現在。

 スーニティは国名を変えて、新しいスタートを切りました。


「入りますよー。ガングレイブさーん」


 と、部屋の前まで来たので、僕は領主の部屋をノックしました。

 ……が、返答がない。おかしいな? いつもはこの部屋にいるはずなんだけど……。

 そういえばリルさんからどこで待ってもらってるかとか聞き忘れてた。駄目ですね、ミスです。

 まあ一応、もう一回やっとくか。


「ガングレイブさーん? いませんかー?」


 改めて数回、ノックと呼びかけをしても答えがない。ふむ、何故だ。

 ここではないと言うことですかね。仕方が無い、面倒ですけどリルさんに聞きに戻るか。

 そう思って足を厨房に向けたときに、


「いるぞー。入れー」


 と、中から声が聞こえました。

 ? 何故今頃声が……。すぐに反応しなかったのはなんでだろう。

 気になることはありますが、気にしない。


「入りますよ」


 僕は静かに扉を開けて、中に入りました。

 扉を閉めて振り返ると、そこにあったのは領主の机と高く積み上げられた書類の山……。

 ガングレイブさんの姿が見えない、だと?


「言いたいことはわかる! 俺はここだ! 今からそっちに行く!」


 書類の裏から声が聞こえたかと思うと、そこからガングレイブさんが出てきました。

 この三ヶ月で、すっかりガングレイブさんも書類仕事が板に付いてきたのか、疲労も少なく見えます。が。


「ガングレイブさん、そろそろ髭を剃ったらどうですか?」

「何? 似合わんか?」

「似合わないですねぇ」


 ガングレイブさんは変に領主ぶろうとして、髭を伸ばしているのです。

 正直似合わないなぁ。このまま伸ばしても。


「だから言ったじゃないですか。ガングレイブ」


 同じく書類の裏から出てきてガングレイブさんの隣に立ったのは、アーリウスさんです。

 今はゆったりとした服を着ています。


「あなたに髭は似合いません。髭を剃って清潔にしていただいた方が良いです」

「そうか……? こうすれば領主っぽく見えると思ったんだけどな」

「無駄に飾ろうとしなくても良いのです。無駄に髭に頼らず、仕事で領主であることを示してください」

「そうですよ」


 僕は笑みを浮かべて言いました。


「もうすぐ父親なんですから。髭を剃った格好良い父親を、子供に見せると良いですよ。アーリウスさんに変な心配をかけないようにね」


 それを言うと、ガングレイブさんは照れたように笑いました。

 そしてアーリウスさんは嬉しそうに笑いながら下腹部を撫でます。

 アーリウスさんは、懐妊している。

 それが判明したのは一ヶ月前のことで、つわりのように吐き気や食事傾向が変わったので、医者に診てもらったところ、懐妊の運びとなりました。

 そのときのガングレイブさんの喜びときたら……天井をぶち抜かんばかりに叫ぶは飛び跳ねるわで、押えるのが大変でしたよ。


「それで、僕に用事とは?」

「ああ、それなんだが」


 ガングレイブさんは器用に、領主の机の上にあった書類の山から一枚抜きだし、僕に渡してきました。

 それを受け取って中を確認すると、僕は書類から目を離さずに言いました。


「出張、ですか」


 書かれていたのは、領地の村々を回り調査をして欲しい、と言うことです。

 何の調査、かというと領民の状態や作物の状態、としか書かれてません。

 具体的な内容がないので想像が難しい。そして僕に頼むようなことでもないような?


「何故僕に? 調査なら、テグさんが適任かと」

「調査は口実だ。本当は、お前が前に言ってたことをしてもらいたい」


 その言葉に、僕は合点がいきました。


「料理教室、と評価の改善、ですか」

「その通りです」


 アーリウスさんがそこから続けました。


「現在、この領地では反抗勢力……というより悪感情を抱く領民が多いと調べでわかっています。なので、各地を回ってその評価の改善をお願いしたいのです」

「アーリウスさん、すっかり領主の妻の雰囲気出てますねぇ」

「え? そ、そうですかねっ」


 あまりにも堂に入ってたから、思わず言っちゃったよ。

 アーリウスさんは凜とした顔からふにゃっと嬉しそうな顔になり、照れていました。


「えー。そういうことだ。旨いものを食わせ、新たな食材を発見し、領民の悩みを解消し……とまぁ手段は問わん。頼めるか?」

「もちろん」


 僕は胸を叩いて答えました。


「僕はガングレイブ傭兵団の料理番。命令とあれば、その土地の人に美味しいものを届けるだけですので!」

「よし、任せた!」

「任されましたとも!」





 この世界に来て三年目。

 僕の物語は、まだまだ続く。

 新たな拠点、スーニティを改め。


 アプラーダ領にて始まる。

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[一言] ハンバーグジャンキーここに極まれりか・・・
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