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傭兵団の料理番  作者: 川井 昂
三章・僕とお嫁さん
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二十五、新婚初夜と蜂蜜酒・前編

「お疲れ様でした-!」

「「「お疲れ!」」」


 僕の音頭で、ガングレイブさんたちが乾杯しました。杯を合わせて、今回の結婚式の成功を祝っています。

 現在の時刻は、本当に夜遅く。少ない蝋燭を照らし、結婚式場で誰もいなくなった頃。僕たちはそこで、改めてお祝いをしているのです。

 ガングレイブさんとアーリウスさん、リルさん、テグさん、クウガさん。

 そしてエクレスさんとガーンさん、ギングスさん。

 何故かまだいるテビス王女と、二次会に突入しました。


「いやー、めでたいですね。これでガングレイブさんも一国一城の主ですよ」

「まぁ、色々とあったけどな」


 謙遜していますが、ガングレイブさんの顔はちょっと緩んでます。夢が叶ったのだから、仕方ないでしょうね。

 隣に座るアーリウスさんも幸せそうに笑ってますし。


「だが、これからだ。夢を叶えども、まだそれも夢の途中。まだまだ俺は進むぞ」

「当たり前っスよー。これひゃらっスよー」

「テグさん、もう酔ってるなら寝たら……」

「酔ってないっスひょ!」

「ひょとか言っちゃってるので、酔ってますよね」


 テグさんはもう顔が真っ赤っか、すでに呂律が回ってない……。

 仕方が無いので椅子を用意しました。立っているところでいきなりぶっ倒れられても困るからね。

 しかし、椅子に座った瞬間テグさんは寝てしまいました。早すぎるよ。


「すかー、ぴしゅー……」

「大丈夫ですかね? 部屋まで運んだ方が……」

「ほっとけ。ワイらはどこでだって寝とったやろうが。ちょっとやそっとじゃ、テグは起きんぞ」


 クウガさんは椅子に座って、ちびちびと酒を呑み続けていました。

 悪態を吐きながらも笑みを浮かべているので、今回の国から結婚まで、全部を思い返しながら呑んでいるのかもしれません。


「さて、ワイはちょっと考え事をしたいからの。少し、話しかけないでくれるか」

「あ、はい」


 やっぱりですか。クウガさんは一人で酒を呑みながら、思い出を掘り起こしてるんですね。国から結婚までと言いましたが、僕が出会う前……それこそ本当に苦労したっていう時期も思い出しているのでしょう。

 苦労した今までの全ての思い出……それが報われた現在……一人で浸りたくなるのも、わかりますね……。


「へへへ……」


 とか格好良いこと言いましたが、一人でにやけづらを浮かべて酒を呑んでる姿はただの変な人の評価になりそうなので、見るのを止めました。クウガさんのイメージが壊れるよ。


「シュリ」


 そうすると、今度は誰かに肩を組まれました。


「ギングスさん」

「おうとも。お前とはゆっくり話す暇もなかったよな。お前と俺様とでは、仕事の都合上とかでなかなか話す機会がなかったからな」

「男子会はしましたが……確かにサシで呑むことはなかったですねぇ」

「そうだろう、そうだろう。俺様と付き合え」


 ギングスさんも顔を真っ赤にして酔ってます。そのまま僕を引っ張って、椅子に座ります。

 僕もその向かいに椅子を引っ張って、対面で座ります。

 さて、どんな話でしょうかね?


「俺様はさ、昔はこの領地を継いで立派にやるのが使命だって思ってた」

「はい。それは……レンハさんの関係で?」

「そうだ。母上から教えられた……俺様の唯一の存在意義だよ」


 いきなりしんみりとした話になってきたけど大丈夫かな?

 ギングスさんは酒を呑み、続けます。視線は自然と下を向いてきましまた。


「だけど俺様にゃあ、とことん内政の才能なんざなかったもんだ。領内のことをまとめた数字を見てもちんぷんかんぷん、税の勉強も頭には入らなかったし、領民のためのよりよい政治なんて思いつかなかった」

「はあ……」

「だけど、俺様が辿り着いたのは、中から領民を守ることじゃなくて、外から来る敵から領民を守ることだ」


 ギングスさんは窓の外へ視線を移し、どこか遠い目をします。

 昔を思い出しているような、懐かしいものを見る目で。


「実際、俺様にゃあ軍事の才能があった。軍関係の数字ならすとんと頭の中に入ってきたもんだ。予算、兵糧の備蓄、行軍速度、兵の数と兵種……それなら理解できたもんだ」

「そこまで突出した……てか才能がとんがってたら、他のことが上手くできないのも納得ですね。なんというか、天は二物を与えずって感じ」

「その通りだよ! ハハハ、俺様には内政の才能はないが軍の才能はあったってわけだ! 俺自身も腕っ節には自信があったしな!」


 楽しそうに笑いながら、手酌で酒を注いでさらに呑むギングスさんを見て、なんだかこの人のことが好きになってくる思いでした。

 親から言われた使命があれども、自分の才能にあった仕事を見事にこなしている人です。

 尊敬も出て来るし、友情も感じる。

 出会いはあんなでしたが、今ではこうして酒を呑んで笑い合える。


「ギングスさんは……それで、今は満足してるんですか?」

「もちろんさ。俺様は俺様にあったことをやればよくなったし、エクレス……姉上だって無理に男を気取らなくてもよくなった……自分たちがやりたいことをやれる人生になったんだ。その質問はよく出るがな。俺様は自信を持って言う。やれる奴に任せることができて安心してるってな」

「ん? 質問はよく出る?」

「昔の家臣とかからな。よく言われる。今からでも領主の座を取り戻さないのかってな。俺は言ってやるのよ。『ガングレイブなら任せられる。ここ数日の仕事ぶりを見たが、俺様と姉上を合わせたような才能を持ってるから。俺様と姉上がいればスーニティの血脈は途絶えない。それでいいだろ』てな」

「そうだったんですか……」

「当分……俺様と姉上の仕事はそういった家臣とガングレイブとの摩擦を減らすことになるだろうな」


 そうだよね……。よく考えたら、今の体制だってスーニティ時代の家臣の人をそのまま使ってる部分もありますから。そういった人たちは反発する気持ちだってあるでしょう。

 今だって、前にストライキで離れていった料理人さんたちが戻ってきてませんから。どこかで燻りは続くでしょう。

 僕は酒を机の上に置くと、腕を組んで言いました。


「ギングスさんとエクレスさんには……苦労をかけます。すみません」

「ふん、今の時代に流れに乗れない奴が悪い……とは言いたいがな。昔の方が良いって言葉を完全には否定はできねえんだ。穏やかであればあるほどな。だけど時代が許さねえ。変わらないと生きていけねえんだ。そういう役目も、仕方ねえよ。やらなきゃ、どこかで生きていけねえ」


 ギングスさんはもう一度酒を呑み、手酌で注いでから僕の前に出しました。


「だからよ、俺様もお前も頑張ろうじゃねえか。な?」

「はいっ」


 僕は急いで酒をおかわりし、ギングスさんの杯と合わせました。

 チン、と軽く音が鳴る。乾杯をしてから、僕とギングスさんは一気に酒を飲み干しました。


「ぷはぁ……。いけるじゃねえかよ」

「ええまあ。ギングスさんもなかなかに強い」

「俺様は昔からこうだよ」


 ギングスさんは豪快に笑いました。笑って笑って……机にもたれかかりました。


「え!? ちょ、ギングスさん?! ギングスさん!」

「ぐー……」


 あ、落ちてる。

 どうやら言いたいことを言って酒を呑んだら、満足して寝ちゃってしまったようですね。

 この人、自由すぎるでしょ……。


「シュリよ。酔っ払いの相手も大変じゃの」

「あ、王女様」


 ギングスさんをどうしようか迷っていたとき、テビス王女がやってきました。

 隣にはウーティンさんも一緒に、です。テビス王女の手には杯が……まさかその年で酒を?


「ふむ、祝いの後の余韻も良いものよの。熱が心地よいわ」

「王女様も、今回は本当にありがとうございました。いろいろな伝手を使っていただいて……」

「いつかこの借りは返してもらうからの」

「麻婆豆腐で?」

「う!! そ、それ以外で、じゃ……」


 嘘つけ、めちゃくちゃ目を泳いでっぞ。


「そ、それよりじゃ! ほれ、シュリ」


 テビス王女はウーティンさんに目配せすると、ウーティンさんが手に持っていたものを差し出してくれました。

 液体の入った瓶……まさか。


「あ、できてたんですか」

「うむ、ウーティンが取ってきてくれたぞ。シュリよ、これの存在を忘れておったみたいじゃからの」

「あ! そ、そういえば……」

「蜂蜜を提供した側から言わせてもらうと、忘れられるのは悲しいぞ」

「す、すみませんでした……。ありがとうございます」


 僕はウーティンさんからそれを受け取り、中を確かめました。

 うむ、確かにできてるみたいだ。良かった良かった。


「それで? 妾もそれの存在は知っておったがな。わざわざニュービストの最高級の蜂蜜と材料を要求してまで作ったのじゃ。意味があるのじゃろう。その蜂蜜酒(ミード)には」


 テビス王女は腕組みしながら言いました。

 そう、これは蜂蜜酒(ミード)と呼ばれるお酒です。蜂蜜で作ったお酒ですね。

 作り方は蜂蜜、水、酵母を用意して分量を守って混ぜる。そして時間を置く、これだけ。

 本当はイースト菌が要りますが、加熱殺菌してない蜂蜜には酵母は含まれていますので、混ぜて放置するだけでも蜂蜜酒になります。

 蜂蜜はテビス王女に頼んで用意してもらいました。

 ちなみに酵母はいろいろと作り方があるんですよね。カモミールと蜂蜜、天然水を使って酵母を作ったり。レーズンとかでも作れるから試してみてね。

 僕はそうやって作った蜂蜜酒を手に、テビス王女に言いました。


「この蜂蜜酒はですね、それは……」


 待った、これをいたいけな幼女に言っても良いのか? それはちょっとマズいような……。

 蜂蜜酒ってのは、昔はその……子作りの時の精力剤みたいな扱いなので……。


「ウーティンさん、ちょっと」


 僕はウーティンさんを手招きしました。ウーティンさんは戸惑いながら近寄ってくれて、耳打ちしました。

 意味がわかったのか、無表情のまま顔を真っ赤にしてます。

 テビス王女は何を言ってるのか聞こえてないらしく、首を傾げたまま。


「王女様に伝えてくださいね」

「……!!」

「では!」


 ウーティンさんは何か言いたげでしたが、そのまま僕は離れました。


 さて、この蜂蜜酒。喜んでくれると良いなぁ。

 僕はガングレイブさんに蜂蜜酒を渡し、二次会は終了したのでした。

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