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傭兵団の料理番  作者: 川井 昂
序章・僕と傭兵団
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三、悟りのアジフライ・前編

 シュリです。本日は海岸沿いの森で、戦があるそうです。

 要は塩を手に入れたい人と、塩の利権を守りたい人の争いらしいですよ。塩は人が生きるのに必要なものなので、そういうこともあるのかな。

 確かに僕も塩が手に入らないときは困ってしまいます。だし汁で誤魔化すしかないかもしれません。

 ただでさえ、最近リルさんがハンバーグにご執心なので。塩がないと味が大変なことに……。


 前回の戦でリルさん大活躍。報奨金と食料ががっぽがっぽ。で、今回の戦で勝てば、兵たちの装備を上等な物に変えたり、人数を増やしたりできそうとのこと。五十人近い人間の料理を作るのさえ大変なのに、増えたら苦労がとんでもないことになりそうです。

 それに対してガングレイブさん。


「お前の補助も雇えばいいだろ」


 納得しました。


 そしてガングレイブさんが食事時に、僕に相談してきました。


「最近クウガの様子がおかしいんだ」

「クウガさん、ですか」

「悩んでるみたいだ。あいつの率いる歩兵隊は、俺たち傭兵団の切り込み隊だ。なんとか力になってやってくれ」


 歩兵隊は、そのまま槍や剣を持って戦う人です。戦場で一番に敵に突っ込む凄い人達です。

 で、クウガさんはその歩兵隊の隊長さん。ガングレイブさんの幼馴染の一人で、ガングレイブさんと唯一対等に戦える剣の達人でもあるそうです。





 戦のない日、時間は夜頃。

 僕は料理の後片付けを終わらせ、明日の朝ごはんの仕込みでもするかと用意してました。

 すると、隊長格のテントから誰かがこっそり抜け出て、森に消えて行きました。

 はて、誰だろう?

 裏切りはありえません。五年も傭兵団で背中を預けて戦ってきた幼馴染たちを裏切る隊長さんなんて、存在しないです。

 こっそりついていくと、森の開けたところで必死に剣を振ってる男がいます。


 美少年です。線が細く、顔つきも女の子ではないかと思いそうな人です。藍色の髪が月明かりに反射して、幻想的です。

 防御よりも動きを重視した軽装革鎧をそのままに、ロングソードを振ってますね。


「誰なん、そこにいんの」


 こっちに視線を向けてないはずなのに……?!


「す、すみません」

「ああ、シュリか。びっくりさせんなや」


 にっこりと笑う美少年。この人がクウガさんです。

 細い腕なのに、凄い速さで剣を振る人です。


「どうしたんですか。こんな夜中に」

「まあ、な。スランプってやつや」


 クウガさんはその場にどっかりと座ると、月を仰ぎました。

 どこかの劇場で演劇を見ているように、絵になる人です。

 く、イケメンは何をしても絵になるのか……!!


「スランプ、ですか」

「そや。最近リルちゃんが頑張っとるやろ? えらいもん作って、戦に貢献しとる。でもワイは器用に剣を振るしかできへん。

 ワイの才能では、ここが限界なんかのう」


 悲しそうに呟くクウガさん。

 スランプ。僕にもわかります。

 料理でうまくいかないとき、仕事がうまくいかないとき。

 才能の限界を感じたことはたくさんあります。


「才能なんて悲しいこと言わないでくださいよ」

「ん?」

「僕も才能、ないですけど。

 それでも努力してきたたくさんの知識や経験を、手持ちの技をやりくりしてます。

 クウガさんはすごく綺麗に剣を扱えるんです。スランプじゃなくて、壁にぶち当たってるんですよ」


 僕とクウガさんの違いは、壁で終わるか、壁の向こう側があるくらいなものです。


「壁……か」

「あ、お腹すいたでしょ。ちょっと夜食を作りましょうか」

「ええんか?」

「頑張ってる人にご飯出しても、ガングレイブさんは怒りませんよ」


 そうと決まれば料理です。

 野営地から材料を持ってきました。

 今回はアジフライ。アジとタルタルソース、山椒でいきましょ。


 アジを開きでさばき、塩コショウと生姜汁で味付け、油で揚げた山椒と小麦と卵で衣をつけてさっと揚げる。

 

「うまそうやな」


 ちょっとワクワクそうなクウガさん。


「ピリ辛です」


 出来上がった物にタルタルソースをかけて出来上がり。


「おー! サクサクふわふわ。甘酸っぱくて風味よしやんね!」


 そりゃよかったです。


「魚さばくの、うまいな」

「包丁で柔らかいところ撫でて切るんです」


 力で切っちゃいけません。魚は丁寧に解体することで味が増すのです。





 今回の戦では、クウガさんが数多の敵を倒して勝ちました。

 どうも、悟りを開いたとリルさんは語ります。

 スランプからの脱却。おめでとうございます。

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[気になる点] タルタルソースの殺菌どうしてるか気になります。
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