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傭兵団の料理番  作者: 川井 昂
三章・僕とお嫁さん
41/141

十九、暴走メンズ会と茹で枝豆

8/10 加筆修正。今回は二話更新

 ここは、城の一角。

 ここに集まるのは、今現在スーニティにおいて権力(?)を持つ者達。


「誰にも気づかれずに来れたか?」


 そう言って確認するのは、ガングレイブ傭兵団団長であり、現在はスーニティ最高権力者であるガングレイブ。


「もちろんっス。気配を消し、痕跡を消して、ここに来たっス」


 周囲を警戒するのは傭兵団弓隊の隊長であり、斥候の達人テグ。


「ワイもや。稽古と称してここに来とる。アリバイはばっちりや。副隊長には、よーく言い聞かせとる」


 アリバイ工作に余念が無いのは、歩兵隊隊長にして傭兵団最高戦力、剣の達人クウガ。


「……一応、俺様は仕事を一段落させてきたぞ」


 明日に支障がないように残業なしで仕事をこなしているのは、表向きはスーニティ領主にして裏ではガングレイブの軍事補佐役のギングス・スーニティ。


「俺は、まあ、資材の? 確保を」


 兵糧の確保を担当したのは元諜報官にして料理番にて修行中のガーン。


「まぁ、俺もか?」


 それに追随していたのは現在料理番見習いのアドラ。


「みなさん、お待たせしました。こちらが、例の物です」


 目的の物の調理を担当したのは、僕ことシュリ。




「なあ、俺様はこのノリに付いていけないんだけど?」

「あ! ギングスが梯子を外したっス!」

「裏切り者じゃ!」

「落ち着いてください」


 冷静なギングスさんに、みんなが殺気立ちしてますけど。


「今日は男会、称してメンズ会なんですから」


 そう、今日は男だけの飲み会ですから。

 ども、シュリです。

 昼間、会議を引き分けに持ち込んだ後にこっそりとガングレイブさんが男だけを集めて宴をしようと言い出しました。

 なんで? と思いましたけど……。

 まあ断る理由もないので、おつまみと酒をガーンさんとアドラさんに確保してもらい、僕が調理するということに。


「しかし男会っスか……」

「侘しいな、俺様達……」


 あぁ、テグさんとギングスさんに黒い影が!?


「そうやな、この中で妻帯者言うか女がおるんはガングレイブだけやもんな。結婚式まで控えとるし」

「クウガさん。あなた、その容姿で町と城の女性から人気でしょ?」

「裏切り者っス!」

「裏切り者には罰を!」

「ご、誤解や! 誤解やって!」


 あっちはほっときましょ。テグさんとギングスさんの闇は拭えそうも無いでしょうし。


「こんな薄暗くて狭い部屋で騒ぐなよ……」


 ガーンさんは呆れ顔で酒をあおってます。

 ちょっと待ってあなた。アル中でしょ。


「はい、没収」

「ああ!? 久しぶりの酒だろいいだろう!?」

「あなた、酒で体を壊してたでしょうに」


 僕は酒を取り上げて言いました。油断も隙もねぇなこの人。

 ちなみにここは城の一角。客室を一つ借り切って、男だけで酒盛りしてます。

 前は客間として使ってた……というより客間という名の空き部屋で、だーれも使ってないので、ガングレイブさんがここでしよう! と言い出したわけです。


「ガーンさんはダメですけど……他のみなさんも黒いオーラを抑えて抑えて。ほら、馬鹿話でもして気を紛らわせましょ、ね?」 


 僕は用意したつまみと酒を床に置くと、よっこらせと腰を下ろして座りました。

 この世界で地べたに座るのはあまり馴染みがないそうですが、今回は床に絨毯を敷いています。

 椅子に座って行儀良く飲むのは、ガラじゃないです。


「そうだな。今回は男だけの馬鹿話会だし」


 アドラさんは酒を飲んで言いました。


「これを機会に男同士の親睦を深めとこう、てわけだ」

「そうそう、そうですよアドラさん。僕とガーンさんとアドラさんは同じ料理番で知った仲ですけど、他の隊長格さんと知り合う機会はあんまりなかったりで、仲良くなる時間が取れなかったりしてますから。

 ここで馬鹿話をしながら仲良くなろうというわけですよ」

「まぁ……俺はそこの剣士にボロクソに負けたんだけど……」


 アドラさんにまで黒いオーラが?!

 なんだか、この場の空気がどす黒い物に変わっていってる気がします。

 女っ気のないテグさんとギングスさん。

 女っ気がありすぎて敵を作りすぎたクウガさん。

 酒が飲めなくてナーバスなガーンさん。

 やられた相手と酒を飲むことに落ち込むアドラさん。


 あれ? 空気が黒いの、どうしようもないよ?

 これ、どうしたらいいのよ?


「お前ら、そこまでにしろ」


 そのとき、厳かな声が響きました。


「女っ気がどうだろうが昔やられた相手だろうが酒が飲めなかろうが、ここには関係ない」


 その声は、今まで闇に曇った道筋を照らす光のように、この部屋を満たしました。


「今は、ただただ、隣の戦友を労うこと。それが重要だろう」


 ああ、なんという言葉。今まで争っていたことが馬鹿馬鹿しくなりそうです。


「さあ飲もう。この時を楽しもうぜ」


 杯を掲げ、ガングレイブさんは告げました。


「でも、ガングレイブさんは妻もいて権力も持って結婚式も控えて充実してますよね?」

「最大の敵っス!」

「この裏切り者が!」

「充実しすぎてて羨ましいんだよちくしょう!」

「どの口がほざいてんだ!」

「や、やめ、お前ら止めろ!」


 ああ、なんたる無情。ガングレイブさんがみんなからもみくちゃにされていきます。

 僕はそれを傍観しながら酒とつまみを食べます。うん、旨い。良くできてる。

 どうやらみなさんも、ガングレイブさんを蹴っている内に落ち着いたらしく、各々が床に座って酒を飲んでいます。ちなみにガーンさんは酒では無く果実汁を用意しました。ノーネルスじゃないですけどね。


「シュリ……恨むぞ……」


 ガングレイブさんの恨み声が聞こえるような気がしますが、気のせいでしょう。


「ところで、この酒のつまみなかなかいけるっスね」


 テグさんは用意したつまみを食べながら酒を飲んでいます。


「枝豆っスよね。昔、酒場で良く食べてたっス」

「そうやな。だけど、こっちの方がいけるわ」


 テグさんとクウガさんには好評です。良かった良かった。

 用意したのは枝豆です。茹でた枝豆です。

 酒が進む、定番のおつまみですよ。


「そうですね。枝豆の選び方から茹で方までこだわりますから」

「普通の酒場なら、大量に茹でて出すだけだからな。それも皮を剥いて豆だけを茹でるみたいな」

「俺も、それが普通だと思ってた」


 ガーンさんとアドラさんも豆をプチプチと取り出して口に放り込みます。


「枝豆選びのポイントは豆がしっかり詰まっていて、採れたての瑞々しさがあることです。

 あと茹でるときは、水に対して4パーセント……これに関しては後で説明しましょう。

 あと下ごしらえとして枝豆を茎につながる先端部分を少し切り落とすことですね。こうすることで水回りが良くなって塩味がしっかり付いてくれますから」

「なるほど……だからこの味なのか」


 復活したガングレイブさんも、豆を口に入れてました。


「酒が進むな、ガングレイブ」

「ああまったくだ。枝豆も、調理するやつの腕でここまで変わるんだな」

「その酒が進む最高のつまみに、俺は酒が飲めないのか……」


 なんかガーンさんに黒のオーラが復活しそうですが、ここはスルーしましょう。あまり関わると黒のオーラ、負の波動が感染(うつり)ます。


「さて、つまみもいいですけど馬鹿話でもしましょうか」

「だな。じゃあ女関係から行こうか」

「ガングレイブさん。闇を復活させる気ですか? そんなに蹴られたいんで?」

「違う違う。こういう女が好みとか、あの女いいなとかそういう馬鹿話だよ」


 ああなるほど。そういうことですか。


「じゃあガングレイブさんから」

「お前さ、俺がこの場でアーリウス以外の女の話をして夫婦の絆にヒビが入ったらどうする気だ?

 結婚前の男に、伴侶以外の名前が出ると思ってるのかよ?」

「お、てことはどう言ってもアーリウスさんが最高だと?」

「ひゅー、惚気(のろけ)っス!」

「さすが夫やなあ」

「まあ、俺様の目から見てもアーリウスは美人だな。……胸はあれだけど」

「なんか言ったか?」

「なんでもねえ」


 ギングスさんが視線を逸らして誤魔化してますけど、多分ガングレイブさん以外はみんなそれ思ってると。

 だって、ガングレイブさん以外の男性全員がちょっと視線を逸らしてますもん。

 絶ぺk……いやなんでもない。


「じゃあギングス。お前はどうなんだよ」

「お、俺様?」

「そっスね。ギングスがどうかは気になるっス」

「……笑わないで聞いてくれるか?」


 ギングスさんの顔が赤らみます。

 え? なんなの? 乙女なの?


「俺様は……テビス王女が好みだ」


 ぴきーん。空気が……。

 止まった、時が。


「……そうか」

「ガングレイブさん。あのですね……」

「同盟を結ぶのに、婚約という形でならセーフだろ」

「なるほど、俺様もそれは考えつかなかった」

「いいんだ!?」


 あれー? それはギングスさんがロリコ……。


「シュリ……十歳くらいでも政略婚約とか同盟婚約とかは普通っスよ……」


 ……。


「むしろ何考えとったんか気になるわ」

(けが)れてるぞ、いや(ただ)れてるぞ、考え方が」

「俺たちの料理番はスケベだな。ムッツリだ」

「あーあー! すみませんでしたねぇ!」


 現代日本の考えが通用しなかったよぅ!


「シュリ……さすがに俺様は十歳くらいの女そのものが好みじゃねえぞ。

 テビス王女の聡明さや、利発さが好みってことだぞ」

「ごめんなさい。僕が(けが)れてました」


 ああ、そう言われてみればテビス王女は妹的存在ながら姉さん女房な気質を併せ持った、年下好きにはたまらない人物ということですか。

 なるほど……女性の好みを見るときは歳だけではないのですね。


「じゃあ、次はテグさんで」

「え?! どの流れでオイラなんスか!?」

「なんとなく」


 なんかこの流れを操作するの、楽しいや。


「まあいいや、オイラの好みっスか……。

 オイラはエクレスさんスかね」

「俺に全面的な喧嘩を売ってると見た」

「待つっスよガーン。これは好みの話であって、実際とは」

「妹に魅力がないというのか!」

「俺様の姉に魅力がないってのか!」

「ちょ、この暴走シスコン兄弟をどうにかしてくださいっス」


 ああ、テグさんも気の毒です。


「ガーンさん、ギングスさん。今は女性の好みの話ですよ。エクレスさんは魅力的ですけど、ここはテグさんがボーイッシュというか、少年的なハツラツさと女性の儚さを併せ持った女性が好みってことです」

「そ、そうっス! シュリの言うとおりっス!」


 テグさんが我が意を得たりみたいな顔で同意してきました。

 なるほど、テグさんはボーイッシュ趣味ですか。

 現代日本で言うところの、陸上部所属の健康的に肌を焼いたショートカットの女性が好みと言えるでしょう。そして夕日が運動場を照らす時間まで高飛びの練習をする後輩に後ろから冷たいジュースを当てて「頑張れ後輩!」とか言って元気いっぱいに励ましてくれる感じが好きなのでしょうね。


「なんや、テグはなんというか変わっとるの」

「む、そういうクウガはどうなんすか」

「ワイか? ワイは……そうやな。テビス王女の側近のウーティンとか言うたか? あれが好みやな」

「クウガは選り取り見取りだろうが!」

「俺たちの出会いを奪っておきながら、目の前の凜とした美人に懸想するのか!」

「あのー、何度も言いますがこれは女性の好みですよー。アドラさん、ガーンさん、闇は解放しないでくださいねー」


 釘を刺しておかないと……。

 闇が広がってしまいますから。


「で、クウガさんはウーティンさんのどこら辺が惹かれるので?」

「そやな。気づいとったか? あの女、諜報官かなんかやで」

「なに?」


 それに反応したのはガングレイブさんです。

 酒が入って顔が赤くなってますけど、真剣そのものです。


「それは本当かクウガ」

「間違いないで。あの立ち居振る舞いやテビス王女がウーティンへする接し方、シュリが近づいたのに危機を感じてほんの僅か、重心をズラして攻撃できる態勢に入っとったわ」

「ええ!? 僕は下手したら殺されてたんですか?!」

「殺されはせんでも、制圧はされとったやろ。テビス王女が止めとったからなんもなかったようやけど」

「クウガ。オイラでもその気配は感じ取れなかったっスよ」

「テグ、お前のは斥候として相手を見る眼や。ワイのは戦士とか……漠然と『ヤる奴』を感じるもんで。

 でもウーティンは、相当ヤる奴の気配があっても隠すのが上手かった。ほんの僅か、本当に集中せにゃわからんかったから、諜報官やと初め思ったんや。で、さっき言ったやつで確信したわけ」

「そうか……そういや俺も聞いたことがある」


 ガーンさんは顎に手を当てて言いました。


「俺も諜報官として活動してたからな、他国の諜報官に関していくらか聞いたことがある。

 その中でもテビス王女に仕える諜報官に関しては、情報があんまり入ってこなかった。でも、少女が常に連絡役としてテビス王女の傍にいることは知ってた。

 ウーティンがそうだってことか」

「なるほど……これは要警戒だな」


 ガングレイブさんの一言で、みんなが真剣な顔で頷きました。

 うん、真剣な話の中でぶった切るけど……いいかな。


「それで、そのウーティンさんが好みなのはどういうことですか?」

「ん? ああそうやな。あいつなら背中任せられるやろ?」

「おい、クウガ。戦闘脳で語るのは止めるっス」

「まあそれ以外でもな。あいつのちょっと無愛想な顔と凜とした雰囲気、惚れさせたらワイの前だけで甘えてくれそうやん? それがたまらんと思うのよ」


 あー、なんかわかるかも。

 現代日本の萌えで言うところの、クーデレってやつですね。

 いつもは無表情でクラスの委員長とかやってるけど、二人で下校してるとちょっと体を預けて来て、顔を背けてるけどのぞき込んでみるとちょっと顔を赤くして笑ってるっていう。その顔を見られると照れて無表情になるけど、体を預けるのは止めないっていう。

 なんだろ、クウガさんならできそうでやたら悔しい。


「そうですか、クウガさんはクーデレが好きなんですね」

「は? くーでれ?」

「いつもは冷静だけど自分の前だけ、表情は変わらないけど猫のように甘えてくれるってやつと思ってくれれば」

「そうそう、そんなやつ!」


 なんだろ、ここまで聞いてるとみんなの女性の好みは結構、業が深い……。

 いや、萌えなのかな?


「アドラさんとガーンさんは?」

「俺は今んとこ、そんなこと考えてる余裕ねーわ。料理番見習いとして覚えること山積みだし。兵士から料理番への転属って大変だぞ?」

「俺もだ。まぁ、弟と妹の晴れ姿を見てから考えるさ」


 この二人は仕事優先タイプですねぇ。

 料理番の中にも女性がいますから、それとなくくっつけてみようかな。生涯独身は、さすがにこの世界じゃ駄目なことワースト1に入るでしょうから。


「で、本題だな」

「本題っスね」

「本題やな」

「本題だ」

「本題か」

「本題になるな」


 ん? みんなの視線が僕に集中してる?


「さて、ここまでシュリが流れを持ってきてたが……」

「そっスね。なんか流し方が自然で流されてたっスけど。

 シュリはどの女が好みなんスか?」

「僕ですか?」


 僕か……いざ言われると困るなぁ。

 みんな興味津々の目つきしてるけど……。


「今まで死ぬか生きるかの瀬戸際で懸命に料理してきた一年と半年ですからねぇ。

 恋愛をしてる暇も相手を見つける余裕もなかったです」

「そやな。でも、そろそろ相手を見つけた方がええんとちゃう?」


 クウガさんが心配そうな顔をしてます。酒を飲みながらですけど。


「シュリも聞けばもう二十歳越えとるやろ?」

「ええ。すっかりその感覚が無かったですけど、二十一歳です。もう数ヶ月したら二十二歳です」

「は!? お前、俺様より年上なわけ?!」

「ずいぶんな若作りだな……てっきり十四歳辺りかと思ってたぞ」


 ギングスさんとガーンさんが驚いてますけど……僕はそんなに若作りではないです。

 そういえば、外国に行った日本人は、大概歳で驚かれるそうですよ。なんでも若く見えるというか幼く見えるそうです。


「ま、シュリもええ加減歳も歳や。結婚して、家族を作るべきとちゃうか?」

「うーん……」

「そうだぞ。俺様でもわかる。結婚適齢期を超えてるぞ」

「そんなに?」

「普通結婚するとしたら、十六から十八くらいだからな」

「なるほど」


 言われればそうなんですけど……。

 結婚して家族を作ったら、それこそもう元の世界に戻ることができない気がします。

 この傭兵団で料理番を続ける決心をしてたんですけど……いざその問題に当たると迷いますね。

 戻れない可能性の方が大きいですし……。

 ただの未練ですけどね。


「シュリ、外円界の外の大陸に残してきた家族か恋人でもいるっスか?」


 テグさんが心配そうな顔をして聞いてきました。


「いや、それは……」

「どういうことだテグ。それは何の話だ」

「ガングレイブ、シュリは外の人間っス。この大陸の外から来てるんスよ」

「何!?」


 なんかみんなが驚いてます。え? 何?


「そうか、外の人間だったのか。道理で知らない料理や知識を持ってると思った。

 シュリ、だから恋愛をしようと思わないのか?」


 ガングレイブさんも興味と心配が半々の顔で聞いてきます。


「いえ、恋人はいません。年齢がそのまま彼女いない歴の男ですから」

「なら、家族か?」

「うーん……家族が今も生きてるかわかんないですし」


 一年くらい前に考えてましたけど、こっちの世界の時の流れと、地球の時の流れが同じとは限りません。

 あっちではたった数分なのか、それとも何百年経ってるのかすらわかりません。

 なので、帰ること自体は諦めてます。

 未だに燻るのは、未練があるからだけです。


「ともかく、僕はここで生きる決意をしてますから」

「そうか……お前も大変だったんだな」


 一番大変だったのは、ガングレイブさん、あなたに命を賭けたクリームシチュー作りをされたときです。

 なんだよ、旨くなければ殺すて。


「となれば、なおさら恋人は作った方がええやろ。

 ここで生きる決意しとるなら、背中を守る存在なり守りたい人なり家族なり。

 ともかく、生きた証を残せや。

 ワイらのように戦場で残すんや無くて……な」


 重い。クウガさんの一言が重い。

 確かに……このまま僕がいなくなったらどうなるんだろう。

 クウガさんの言うような生きた証。

 僕には……ない。

 残してきた料理とか、あれは文化であって僕じゃない。

 そうか……。


「そうですね。生きた証とか、恋人とか、作っていこうと思います」

「それがええ」


 クスっとクウガさんは笑って枝豆を口に入れました。


「で、物は相談やけどリルはどうや?」


 え?


「クウガさん。リルさんは」

「いや、恋人とか家族とかよりな。

 あいつ、お前のハンバーグがないと生きていけん思うけど」

「反論できない」


 うーん、言われてみればリルさんも相当な美人だもんなぁ。

 外面はなぁ。

 外は……。


「シュリ、顔が苦いことになってるっス」

「だって、今までの印象だと牛肉浪費に力を入れる料理番の大敵ですよ?」

「からの?」

「ないです」


 その繋ぎをどこで知ったんですかテグさん。


「でも……確かにリルさんは可愛いと思いますけどね」


 そこは事実ですからね。


「エクレスさんも美人ですけど……美人過ぎて近寄りがたいです。

 あんな美人さんが僕の近くにいるだけで、どこからか怖いお兄さんが来て裏路地に連れて行かれそうな恐怖がありますもん」

「お前の想像は逞しいのか卑屈なのかわからん」

「テビス王女は……美少女ですけど歳が……」

「今すぐ恋愛しろじゃないわ。あと数年待つのもありやで?」

「うーん、その時に僕は二十代後半か三十代ですよ?」

「やっぱなしや」


 言われれば言われるほどわかんないなぁ……。


「ま、おいおい見つけますよ」

「それでいいだろう。

 よし、馬鹿話第二弾。ここにカードを用意した。賭けやるぞ!!」

「「「「おーーー!!」」」」

「あ、すみません僕抜けます」


 僕は断りを入れて立ち上がりました。


「なんでだよ?」

「ガーンさん。実はアーリウスさんから夜のつまみを頼まれてまして」

「何?」

「女子会をやるそうですよ。手が空いたらでいいからつまみを追加してくれって」

「マジでか」


 そう、実はガングレイブさんがメンズ会を企画したとき、アーリウスさんもレディース会を企画してたのです。

 そのとき、先にアーリウスさんの方に茹でた枝豆をあげたわけでして。


「じゃ、ちょっと行ってきます」


 僕は部屋を出ると、厨房を目指して歩きました。

 その間に思うのが、言われた恋人作りの件。


「恋人かぁ……うーん、相手がなぁ」


 さて、どうしましょうかねぇ……。

この調子でいきたい……この更新速度のままで……! 

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