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傭兵団の料理番  作者: 川井 昂
三章・僕とお嫁さん
39/140

十八、王女さまと水割り・前編

8/9 加筆修正投稿。二話投稿してます。

 シュリです。修羅場です。

 みんなのもとに帰れたと思った後、どうやら騒動の主が捕まったようです。

 レンハ・スーニティさん。

 今回の首謀者で、夫や子供を残して逃げ出した鬼畜さんです。

 そんなレンハさん、テビス王女に捕まったみたいで。

 ただいま地下室の牢獄、僕が捕まっていた場所にぶち込まれたようですよ。

 まあ、会いに行こうとは思いませんがね。正直、これだけのことをしでかした人に会いに行くのはかなり勇気が要りますし、ガーンさんやエクレスさんに迷惑をかけてますので、慈悲の心などありません。

 で、問題は捕らえた人です。


「おお! 久しぶりじゃのぅシュリ!」

「あ、はい。お久しぶりですテビス王女」


 会議室にて隊長格全員とギングスさんとエクレスさん、そして僕。

 向かい席にはテビス王女とメイドさん一人、そして護衛数名で会っています。

 こちら側、僕以外のみんなはしかめっ面。

 向かい側の王女さんはニコニコ。他の人は無表情。

 温度差がやべぇ。

 こっちとあっちの寒暖差が強すぎて、こっちの気分がもたない。


「そういえば、以前お主から渡されたカレーとやらのレシピ。まだまだ未完成じゃが、まずまず作れるようになっておるぞ。あれも美味じゃ。素晴らしいの」

「え、はい。まぁ、スパイスの調合がちょっと難しかったかなとは思ってました」

「ちょっとどころではなかろう。城の宮廷料理人が頭を抱えて、日夜レシピの再現に励んでおるよ」


 やれやれ、といった様子でテビス王女が肩をすくめました。


「そうですか。今度からは調合済みのカレー粉をお渡ししましょうか? 固形物にして、カレールーってのにすれば」

「いやいや、最終的には作れるようにならねばの。美食大国ニュービストの沽券に関わるのじゃ」

「そうですか……」


 なんだろ、王女さんのテンションについて行けない……。この人こんなに矢継ぎ早に喋る人だったっけ?

 いや、会ったことがあるのは一回だけだし、元々こんな人だったのかもしれませんね。


「そうじゃ、カレーとマーボードーフを組み合わせた料理も開発中じゃぞ」

「え?」


 ま、まさかマーボーカレー!?

 まさかこっちの世界で、この料理の名前を聞くことになるとは……。


「辛みと辛みの料理。一見するとただ辛いだけかもしれんがの。なんとかこの至高の料理を一緒にできんかと思うてな」

「それは凄いですね。僕でも」

「『作れません』とは言わんよな、シュリ? お主はこの料理の開発者。本当はそのレシピ、頭の中にあるのではないか?」


 いやいや、買いかぶりすぎです。自分はそこまで大した人間では……。

 確かにマーボーカレーの存在は知っていました。昔、どこかのメーカーがタイアップ商品として売り出してましたから。

 でも作ったことはないです。本当です。


「本当に作れないですよ。僕でも、試したことはありませんから」

「ふむ。でも作れと言われれば、作るのではないか」

「まぁ……ちょっと試行錯誤は必要ですけど」

「ならちょうど良い。妾と来れば」

「テビス王女。歓談中すみませんがね、それくらいにしてもらえませんか」


 トゲのある言葉を言ったのはガングレイブさん。

 にこやかに見える表情の裏に、明らかな苛立ちが見えています。

 多分、こう言いたいんでしょうね。

 さっさと用件を言え! と。


「これは失礼したガングレイブ殿。先日の戦の折、随分と世話になったの」

「こちらも仕事ですんで」

「少なくとも、あの戦を乗り越えたおかげでこちらは窮地を凌ぐことができたのは事実じゃ。陛下よりお言葉ももらっておる」

「それはありがたき幸せ」

「このような巡り合わせでなければ、妾はそなたたちを召し抱えておったであろう」

「それは、仮定の話ですから」

「そうじゃの、詮無きこと。言っても始まらぬ」


 雑談ばかりで、全く本題に入らねぇな……。

 ちょっとやきもきする気持ちを抱きました。

 すると、そんな僕の様子に気付いたのか、隣にいたエクレスさんが僕の肩をちょいちょいとつつきました。

 多分、ここでそんな顔をするなと言いたいんでしょうね。

 なので、聞いてみることにしました。


「どういうことですかね、エクレスさん。全く本題に入らないんですけど」

「あのねシュリくん。こういう交渉ごとは先に求めるモノを言ってはいけないんだよ。それが欲しいとわかれば、そこにつけ込むのも外交のお仕事。こっちがレンハの身柄が欲しいって先に言ったら、テビス王女はこっちにたくさんの条件をつけてくるだろうね」

「なるほど」


 昔、聞いたことがあるなぁ。

 国を治めるには善の心があればいい。でも、国を富ませようと思うなら悪の心も持たねばならない。

 とか。


「逆に、テビス王女が欲しいものを言えばこっちはレンハ……奥方の身柄を要求して他はバッサリ切る。それが交渉ごとさ」

「あれ? 結局欲しいものがあるなら、最初からそれを提示し合えば済むんじゃ?」

「それは国交が正常化していて、互いに信頼できる関係だから成り立つ対等の交渉なんだよ。僕らとテビス王女では対等とは言えない。できるだけ向こうの要求を減らし、互いに妥協できる結論に持って行かないといけない。

 特にこっちは立場が弱い。被害は減らさないといけないんだ」

「じゃ、レンハの身柄が要らないと言えば良いんでは?」

「そうだね。極論を言えばそうなる。でもこっちの理想は二つ。僕らが奥方を捕らえて罰を受けさせる。もしくは奥方がのたれ死ぬ。ともかく、奥方にこれ以上領内を引っかき回されるのを防がないと。要らないと言ってどこかで何かをされるのは不味い。やっと領地の安定に向けて動き出そうとしてるのに、変なことされたら堪らないだろう?

 でも、その身柄はテビス王女のもの。テビス王女が利用価値がないからとそこら辺に捨て置いたら、後でどんな災厄になるかわからない。だから、こちらとしては確実に奥方を罰したいんだよ」


 なるほど。


「そんな裏事情が……」

「そういうこと。これからは、外のことにも目を向けないといけないよ」

「了解しました……。ところで、その男装だか女装だかの中間にあるような服は何です?」


 今、エクレスさんの服装は男物と女物の中間にあるような服です。

 上は女性らしくシャツ、下は男性らしいズボン。

 なんだかアンバランスですが、なんとなくエクレスさんの雰囲気と合っていて、不思議と似合っています。


「これ? ボクは男として育てられたからさ。女性として生きていくのはいいけどなんだかなじめなくて。急遽仕立てたんだよ」

「よく似合ってます」

「照れるねぇ」


 エヘヘ、と笑うエクレスさんはなんだかかわいいです。


「そこ、何を話しておるのじゃ?」


 見れば、少しテビス王女が機嫌悪そうです。

 あ、いかん。時と場所を忘れてた。今、会議室で交渉中だった。


「す、すみません」

「まあよい。シュリも相変わらずののんびりさじゃの。初めて会った時から変わっておらぬな」

「そうですか?」


 様々な修羅場を潜って、ちょっとは男らしくなれたかなと思ったんだけど……もやしっ子のままですかね……。

 悲し! 涙出そうっ!


「しかしシュリよ。この度は不幸であったな。不幸の中でも変わらぬのは、ある意味強いと言えよう」


 え? そうかな?


「そ、そうですか。牢屋暮らしはちょっとキツかったですけど」

「おお、そうじゃそうじゃ。今回はその牢屋暮らしについての話であったの」


 あれ? 話の流れが変わったぞ?

 なんかみんなが僕を恨めしそうな目で見てるし……?

 テビス王女は「してやったり!」な顔を……。


「あのね……シュリくん……。不幸と言っても、牢屋については一言も言ってないよ……」


 はい?


「で? どういうことかの? ガングレイブ殿、ギングス殿。我が国と懇意にしておる料理人が、不当な扱いを受けて牢屋に入れられ、今の今まで妾に連絡の一つもないとは?」

「それは、時期が時期です。こちらからニュービストへ連絡し、実際にテビス王女が来訪されるまでの時間を考えれば、ガングレイブ傭兵団もスーニティ側も、どちらが連絡したとしても遅れるのは当然のこと。

 ですが、テビス王女がこちらに来るまでの時間を考えれば、むしろこれだけ早く王女が来られた事の方が不思議ですが?」

「それは、妾がこの件について何かあるとでも?」

「いえ、特にそのような事を言うつもりはありません。ですが、その辺りの事情を話してもらってもよろしいのでは?」

「質問をしておるのはこちらが先じゃ。質問に質問で返すのは、いささか王族に対してだけでなく、外交としても悪手と思うが?」


 ぐ、とガングレイブさんが言葉に詰まりました。


「……どういうことです?」

「ようするにね……話の先制攻撃だよ。自然な話の流れで、テビス王女は最初に質問を投げかけたかったのさ……。

 先に、不自然な話の流れでこの質問を出せば、奥方の身柄を押さえてるテビス王女に疑いの目が行く。『そちらが先に捕らえられたのは、何か裏があるのでは? だからそんな話をしに来たのでは?』とね。下手に欲をかけば、反撃を喰らうのさ。

 でも、シュリが牢屋暮らしをしたと自分で言えば、この質問は自然な流れとして先に出せる。テビス王女が『不幸』と言ったのは、先に牢屋暮らしについて言ったらそれこそあからさますぎて疑われる。でもシュリは自分で言ってしまった。

 ここからどんなにテビス王女に反論しても、『シュリが自分で言った』と言えば通じてしまうんだよ」


 ええぇ? そんな屁理屈が通じるの?


「でも、それならこっちだって質問を返せば」

「シュリくん、君はこちらが質問をしたことに対して、相手が無視して別の質問をして来ることに何も感じないのかい?」

「あー……ちょっとイラッとします」

「話術において、質問に質問で返して返答を濁すことは失礼に値するんだ。そして、相手はテビス王女。王族の質問に明確な答えもなしに質問することは外交としてはダメなんだ。失礼どころじゃない」

「えぇ?」

「だから、さっきガングレイブ殿は雑談でお茶を濁しながら会話の切り口を探してた。でも、対話の矛先をシュリくんに変えたことでテビス王女は別の切り口を見つけ、そこを突かれた」

「ぼ、僕のせいですか?」

「まぁ、ボクらのせいだね……」


 なんてこった。下手にこんなところいるべきじゃなかった!

 見たら、ガングレイブさんは苦しそうに会話を続け、それをテビス王女がひたすら追求する。

 悪循環です……このままだと不味い……!


「……それで? ガングレイブ殿。此度のこと、いかに始末をつけるつもりじゃ?」

「領内の管理体制の抜本的見直し。そして軍の再編成ですかね」

「それだけかの? ウーティン、例のものを」

「はい王女様」


 側に控えていたメイドさん、ウーティンさんと呼ばれた人が一歩前に出ました。

 なんとまぁ見目麗しい人でしょう。

 ボブカットの黒髪に、凛とした顔立ち。僕よりも背が低めのメイドさんです。

 そのメイドさんが取り出したのは、布に包まれた棒のようなもの。

 その包みを取り払うと、見慣れたものが出てきました。


「あ! 僕の包丁!」


 そう、そこにあったのは僕の包丁です。牢屋に囚われてからどこにいったのかわからなかった、調理道具です。

 なんでこんなものがここに?


「そうか、やはりこれは妾がシュリに渡した包丁であったか。それはそれは、面白いことじゃのう」


 ん? テビス王女の目が鋭く?


「のうガングレイブ? 妾はこれを、王家の印を刻んで下賜したもの。それがなぜ、物置の奥から出てきたのじゃ?」

「それは」

「ああわかっておる。捕らえられておる間に、没収されておったのじゃろ? しかし、騒動から時間が経った今、これを物置に放っておくのは些かよろしくない。

 そうは思わぬか?」


 あ、あかん。なんか流れが悪い。

 何とかして流れを変えなければなりません。でも、どうしましょう? 

 内心おろおろしてますが、テーブルを見て気づきました。

 飲み物が、すっかり温くなってます。



「ちょっといいですか!」


 僕は咄嗟に大声を出して言いました。この場にいる全員が驚いて僕を見てます。

 うう、注目されるのはキツいです。それもこのメンツでやられると、胃が痛い。


「すみませんテビス王女。話の腰を折るようでごめんなさい。

 ですが、どうかお話だけでも」

「……かまわん、言うてみろ」

「テーブルの上のお飲み物、すっかり温くなっていると思われます。新しい飲み物を持ってきますので、休憩としませんか?」

「ふむ、飲み物か。確かに、議論を続けたせいで温くなったの。

 しかし、休憩は必要ない」


 テビス王女が後ろのウーティンさんに目配せすると、ウーティンさんは一本のボトルを取り出しました。

 深い緑色の液体が入ったものです。


「こんなことがあろうと、すでにこちらでも飲み物を用意しておる。それも、我が国で取れる最高級の果実汁じゃ。銘はノーネルス。せっかくじゃ、皆に振る舞おう」


 ノーネルス?

 僕がわかってない顔をしていると、他のみんなは驚いていました。


「テグさん、あれはそんな凄いモノですか?」

「凄いモノなんてもんじゃないっス。この大陸の王族でも、限られたものしか飲めない幻の果実汁っス。

 かつての戦争で失われる寸前だったっスけどね。オイラたちが勝ったから、今でも現存するくらいのものっス。

 あれは、聖なる森にごく僅かだけ生える木の果実を、皮と身を丸ごと押しつぶして汁を搾り出し、その汁をまるごと入れたものっス。深い果実の匂いと濃い甘さを持った、最高級品のものっス」


 そんな熱弁するくらいすごいんですか?

 ウーティンさんはそれを、持ってこさせた新しいグラスに入れてみんなに配りました。

 僕にも回ってきました。

 匂いが凄い。

 甘いというか、酸っぱいというか……。でも嫌な匂いではありません。なんとなく、ハーブの香りもします。

 グラスを見れば緑、もうグラスの内側は緑だけ。青汁よりも濃くて、でも澄んだ液体です。


「さあ飲んで見よ。我が国でも最高のものじゃ」


 へえ、そんないいものなんですか。

 試しに一口。


 濃いっ!


 果実独特の甘さと酸っぱさに、嫌みにならないちょうど良い苦み。後味にミントのようなスッキリさが通る、美味しい飲み物です。

 美味しい、美味しいのですが……。


「これは凄いっス……!」

「初めてですが……凄いですね、これは」

「ワイも初めてや。これがノーネルス……」


 みんな口々に旨い旨いと言ってます。テビス王女も得意顔をしてます。

 けどこれはなぁ……。


「どうじゃ、旨かろう? さあ、休憩なぞ必要ない」

「あ、ちょっと待ってください」


 咄嗟に僕は止めました。


「なんじゃ、シュリ?」

「いえ、ちょっとそのボトル貸してもらえます?」


 怪訝な顔をしたウーティンさんは、テビス王女を見ます。


「よい。貸してやれ」


 ウーティンさんは僕にそれを渡してくれました。


「一つ。それ、貴重なもの。壊す、駄目」


 ところどころ辿々しい口調でウーティンさんが言いました。


「いえ、壊しませんよ」


 僕は試しにボトルから匂いを嗅いでみます。

 うーん。やっぱりね。


「わかりました」

「そうかそうか、シュリの舌だけでなく、鼻でも最高のモノとわかったか」

「ええ、最高はわかりますけど。

 あ、新しいグラスを人数分、隣の部屋にください。それとアーリウスさん。ご協力をお願いします」


 そう言うと僕は部屋を飛び出し、隣の部屋に駆け込みます。

 その後をアーリウスさんが慌てて付いてきました。


「どうしましたシュリ?」

「アーリウスさん。一つ聞いて良いですか?」


 僕は、一つ確かめることをアーリウスさんに聞きました。


「ええ……確かに魔法はそれをすることもできます」

「では、ご協力をお願いします」





 試行錯誤を繰り返し、ようやく完成したグラスを運んでもらい、部屋に戻りました。


「ただいま戻りました!」


 僕が定位置に戻ると、テビス王女は不思議そうな顔をしています。


「何をしておった?」

「ちょっと、工夫をしてました。では、配ってください」


 僕の合図で、控えていた人たちがグラスを持って入ってきました。

 人数分のグラスを配り終えたとき、みんなが不思議そうな顔になりました。


「これは……なんじゃ? シュリよ」

「名付けて、水割りです」


 そう、僕が作ったのはノーネルスをネタにしたジュースです。

 みんなの前にあるのは、それを入れたグラスというわけです。

 氷を浮かべ、透き通るような淡い色の緑が美しい飲み物にしました。


「みず……なんじゃと?」

「まあ飲んでみてください」


 僕が率先して飲んでみます。

 うん、美味しい。

 濃すぎる味やミントの香りがちょうど良くなりましたね。


「私も保証します。これは、先ほどのノーネルスよりも美味しいです」


 そう言って飲んだアーリウスさん。

 いや、美味しいだろうけど……さっきのと比べたらねぇ。

 好きな人は、さっきの方がいいでしょうし。


「ほう、言うたの。我が国のノーネルス。その中でも最高級とされ、妾でも納得してたノーネルス。それより旨いというなら試してみようではないか」


 そう言って、テビス王女もぐいっと飲みました。

 他のみんなも、口ぐちに飲んでいきます。

 そして、みんなまたしても驚きました。


「確かに……さっきのよりもはるかに飲みやすい」

「そうだね。ボクはどちらかと言うとこちらの方が好みかな」

「俺様はさっきの方がいいが……そうだな、口直しにするならこれだ」


 おお、みんなから好評をいただいてる。

 そして、当の本人であるテビス王女も目を見開いて驚いていらっしゃいました。


「そんなバカな……! 確かにこれはノーネルス。それも最高級のもののはずじゃ。でも、これはそれよりも上を行く別の何かじゃ!

 甘さと酸いがちょうどよく、苦みがない……! 香草の香りが鼻と口を抜けていき、後味がスッキリしておる!

 何故じゃ! シュリよ、どうしてお主がこんなノーネルスを持っておるのじゃ!」

「これ、さっき借りたノーネルスですよ」


 ぽかーんとするみんなの前で、僕はさっき借りたボトルを返しました。

 減った中身を見たテビス王女は、それでも信じられないような顔をしてました。


「そんなバカな! 一体何を加えれば、これほどのノーネルスができるというのじゃ! 秘伝の調味料でも加えたのか!」

「いえ、シュリはそんなものは加えていません」


 それを否定したのはアーリウスさんです。


「私も最初に見たとき、信じられませんでした。まさかあんなもので、これほどの飲み物を作るなんて夢にも思いませんでした」

「あんなもの? 氷のことか! この氷に秘密があるというのじゃな!」

「いえ、この氷はあくまで飲みものの鮮度を保つだけみたいです。

 これに加えたのは」


 一回息を吸って、アーリウスさんが言いました。


「ただの水です」


 その言葉に、この場にいる全員が呆気に取られました。


 そう、僕はこのノーネルスを飲んで思ったんですよ。

 濃すぎるって。

 確かに、美味しいんですよ。気にしなければ気にならないほどの小さな違和感でした。

 でも、気にしたらなんか気になっちゃって……。

 例えるなら、水の入れる量を間違えたカル○スみたいな?

 それに説明を聞いたとき、僕はそれに気づいたんです。

 果汁をまるごと入れた飲料。

 つまるところ、地球の世間で言う果汁100パーセントジュースです。

 ですが、これは美味しいのですが口に合わない人がいます。

 何故か? それは濃すぎるからです。

 くどすぎる甘さが口に残って不快な感じを覚えてしまう。  

 果汁100パーセントジュースはそのままが美味しいなんて言い切れません。

 そこでミネラルウォーターの出番です。

 適量に薄めたジュースは、それだけで美味しくて飲みやすくなります。

 それをノーネルスに当てはめただけです。

 僕がアーリウスさんに聞いたのは、『魔法で出した水は綺麗で飲めますか』です。

 アーリウスさんによると、『綺麗で飲めるが、普通の人はやらない。魔力の無駄』だそうで。

 まあできるそうなんで、氷とセットでやってもらいました。


 僕がその説明をすると、テビス王女は悔しそうにグラスを見ています。


「まさか……ただの水でここまでの味を引き出すとは……」

「引き出したんじゃなくて、引いたんです。

 飲みにくい、食べにくいものを薄めて食べる。それは料理における基本です。

 美味しくて食べ易い。それこそ、料理の根本でしょうから」


 僕がそう説明すると、いっそうテビス王女は険しい顔で黙りました。

 あれ? なんか不味いことをしたかな……?


「あはははは!」


 で、唐突にガングレイブさんが笑いました。何事!?


「ありがとうシュリ、いいヒントだ」


 え? 何事?



 その後、交渉は引き分けになり明日以降に持ち越しとなりました。

 ガングレイブさんは僕にお礼を言ってますが、どういうことでしょう、

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― 新着の感想 ―
ただ水で薄めるだけの事を思いつかなかったのには違和がある…。異世界人の知能レベルを下げて無理やり俺sugeeしてる感
[気になる点] 鉄鍋のジャン(漫画)でジュースの話してた気がする。
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