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傭兵団の料理番  作者: 川井 昂
三章・僕とお嫁さん
37/140

十七、お久しぶりと豆腐ハンバーグ・前編

2016/7/29・大幅加筆修正 二話分更新しております。

 出会いもあれば別れもある。それは人生の中で当たり前にあることです。

 でも、再会もあります。別れは終わりではありませんから。

 

 シュリです。ようやく皆さんと再会できました。どれくらい会えなかったんだろ? もう数ヵ月も会ってない気がしてなりません。

 そんな僕ですが、色々と変わったこともあります。


 まず、傭兵団の料理番に新しい仲間が加わりました。


「ということで、みなさんお久しぶりです」

「「「はい、先生!」」」


 久しぶりに料理番のみんなに会うと、涙を流しながら再会を喜んでくれました。

 男泣きです。みんなおいおい泣いています。

 なんか……照れ臭いですね。へへ、鼻頭を掻いて誤魔化すぜ……。


「よかった、先生が戻ってきてくれたぞ!」

「これでハンバーグ作って文句を言われることがないんだ!」

「クリームシチューもだ!」

「先生、アマザケの不足で魔法師部隊の女性が文句言ってくるんです! 何とかしてください!」

「湯豆腐に使うタレが気に入らないのか食べてくれません!」

「よし。おけ、もういいです」


 うん、隊長格の皆さんには説教が必要ですね。笑顔のまま怒りを感じるなんて久しぶりですわ。


「さて、皆さんももう知ってると思いますが、料理番に新しい仲間が加わりました。

こちらがガーン・ラバーさん。こちらの方はアドラさんです。皆さん仲良く」


 そう、結局ガーンさんとアドラさんが料理番として加わることとなりました。

 約束してましたし、そうなればいいなと思いながら行動もしてました。

 予想外だったのがアドラさん。もう少し悩んでから結論を出してくれるかと思ってたんですけど、わりと直ぐに結論を出して仲間になりました。

 どういうことかと言うと、クウガさんにポッキリポッキー折られたプライドや自信を取り戻すことができないから、是非誘いに乗らせてくれとのことです。

 もちろん、歓迎しますとも。慢性的な料理番の人数不足解消に繋がりますし、何より力自慢は必要です。

 そんなお二人ですが、何故か驚いてます。


「どうしました? 自己紹介くらいしてもらえばいいんですけど?」

「あ、ああ、いや。お前が予想以上に慕われてんだなと……。先生なんてガラか?」

「ははは、それは……」

「おいお前! 先生に失礼だぞ!」


 ガーンさんの言葉に、料理番の中から声がしました。


「そうだぞ! 先生は傭兵団に欠かせないお人なんだ!」

「その人がいなかったら俺たちいないんだからな!」


 み、みんな、そこまで僕のことを慕ってくれているなんて……!

 嬉しすぎて涙が出そうです。僕の頑張りは、無駄ではなかったんだ!


「今ごろ、俺たちはリル隊長に埋められてんだ!」

「アーリウス隊長の肌荒れの八つ当たりも受けてるぞ!」

「先生がいないと、あの人たちの暴走が止まらないんだ!」

「リルさん、アーリウスさん、アウトー」


 よーく説教しときましょう。料理番脅して何しようとしたのか……。


「そ、そうか……」


 ほらぁ! アドラさんもすっかり怯えきってる!


「それで先生、今日のお昼は何しましょう?」


 ん?

 あぁ、もうお昼時ですか。

 あの事件から僕ら傭兵団は城に住むことになり、今では厨房で仕事するようになりました。

 それに伴い、薪で火を起こすタイプのコンロから、全部リルさん特製魔工コンロにバージョンアップ。これで料理の幅がぐんと広がりました。

 さて、皆もいますし今日は軽くスープものでも……。


「迷ったあなたにハンバーグ」

「昼にするなら湯豆腐で」


 バンッと扉を開いて入ってきたのは、リルさんとアーリウスさんでした。

 二人とも笑顔です。疑う余地のない笑顔をしていました。

 なんとも清々しく、そして好感の持てる笑みを浮かべつつ。

 その裏ににじみ出るどす黒い、この世全ての悪意を無理やり押し固めたような野望をたぎらせ、ズンズンと近づいてきました。

 やべ、逃げよう。

 こんな人たちに説教なんて無理。

 そう思って下がろうとしたら、背中に何かが当たりました。


「が、ガーンさん?」


 僕の後ろでガーンさんが背中を押して、逃げられないようにしていました。


「いけ、お前だけが頼りだ」

「む、無茶です」

「お前が戦ってくれないと、俺たちが全滅する」


 え? 気づけば、他の皆さんは壁際に一足早く避難してます。

 裏切ったな!


「で、でも」

「頼んだ、先生」


 ドンッ、と背中を押されてリルさんとアーリウスさんの前に出されました。

 視界の端に映ったのは、アドラさんが僕を突き飛ばしているところです。

 お前もかアドラーーー!!


「さぁ、シュリ。ハンバーグを」

「湯豆腐ですよね」


 逃げようとした刹那、リルさんとアーリウスさんに肩を掴まれていました。

 まった……!

 だめだ、逃げられん!

 命の危機を感じたのですが、ここで妙なことが起きました。

 二人とも、僕の肩を掴んだまま首だけお互いを見てました。

 え? なにこれ? なんてホラー?


「リル。シュリも久しぶりの料理ですよ。ここは簡単なものから入って、感覚を取り戻してもらうのがよろしいのでは?」

「アーリウス。久しぶりだから、シュリには得意な料理から入らせるべき。リルはそのためにここにいる」


 あなた涎が垂れてるし。ここにいるとかいうのは方便だな? ただ単純にハンバーグ食べたいだけでしょ?


「リル、私はどんな料理が来ても美味しく食べますよ。あえて、あえて、あーえーて言えば、ここで湯豆腐を出してもらえると嬉しいなぁと思って来たのです。いえ、無理には言いませんよ勿論。ですが、私の部下たちも湯豆腐を待ち望んでましたよ。あ、別のでしたらそれはそれで仕方ありません。ですが、ねぇ? 久しぶりですから食べたいと思うじゃないですか? いえいえ、無理ならそれで仕方ありませんがねぇ……」


 うっとおしい! 遠回しにしながらピンポイントで欲しいもの言うとるがな!

 ここまで遠回しにしようとして誤魔化せてないの初めてですよ。誤魔化すつもりないんじゃない? てくらいです。なんか心が荒みそうです……。

 助けて欲しくても、ガーンさんは遠くで見てるだけです。ん? 唇が動いてる……。

 『死力を尽くせば骨は拾ってやる?』

 やかましい!


「待ってください。食べたいものはわかりましたから」

「じゃあ牛肉取ってくる」

「いえ、豆腐ですね」


 お二人さん、気持ちを抑えて抑えて……。目が怖いです。


「豆腐を使いましょう」


 その瞬間は、ずっと忘れられないものになりそうだった。

 背筋に氷をこれでもか! と流し込まれたような悪寒!

 恐る恐るそちらを見ると、リルさんが……。


「ハハッ。面白い冗談」


 とか言いながら指をパキパキ鳴らしてる! ついでに肩と腕のストレッチをして、シャドーボクシングをしてる!

 止めて! あなたはそんなグラップラーキャラじゃない!


「ただ、湯豆腐ではありません」


 ヒュン、ヒュン、と音が鳴り始めました。

 そちらを見ると、なんとアーリウスさんが腕を振っております。

 肩、肘、手首、指という腕の関節全てを鞭のようにしならせて、準備運動してる……!

 あ、あれはまさか、人体の急所の一つである皮膚を狙うという打撃……!


「シュリ。私の耳がおかしいのでしょうか……。豆腐と言いつつ湯豆腐ではない……もしかして、言い逃れだったのですかねぇ……もう一度聞いていいですか?」


 あかん、人殺しの目や。

 しかも、普段は後衛で魔法を放つ役目であるはずのアーリウスさんの、腕のしなりを使った打撃の形は堂に入っており、あれを打たれた場合、僕の表面の皮膚は爆ぜたように血だらけになるのは目に見えております。

 厨房という空間を、二人の覇気が包み込んでいます。あまりの恐怖に気絶したいです。

 あ、部下の一人が気絶した。


「シュリ、さぁ牛肉を手に。豆腐が冗談ならば、できるはず」

「豆腐ならば鍋と湯を手に」


 なんだろう、邪神か悪魔に契約する絵面が似合う光景になってきたぞ?

 二人の背後に圧倒的なオーラを感じます……。

 ですが、ここは負けませんよ!


「豆腐を使ったヘルシーでハンバーグのような食事です。お腹にもお肌にもいいですよ」

「シュリ、さぁ料理をしましょう。手伝えることはありますか?」

「リルもやる。久しぶりに一緒」


 こ、こいつら……! 途端に清々しい爽やかで優しい笑顔になってます……!


「いえ、新入りの教育も兼ねて僕たちでしますので、食堂で待ってもらえ」


 れば、と言葉を続ける前に、アーリウスさんとリルさんはダッシュで厨房から出ていきました。まるで嵐です。台風です。回りのものを根こそぎぶっ飛ばして去っていく存在です。

 あとには、呆然とする僕たちの姿がありました。

 もし説教できるなら、一時間増やそう。誓いを胸に刻みました。


 さて、今回は豆腐を使った料理を作りましょう。


「シュリ、俺たちは何をすればいい?」

「ガーンさんとアドラさんは、ジャガイモとニンジンの皮むきをお願いします」

「そんなことでいいのか?」

「基本は大切ですよ」


 ジャガイモやニンジンの皮むきは、包丁の使い方を学べる良い修行だと思ってます。

 力加減、角度、包丁の危険性……等々と、学ぶことはたくさんあります。包丁で手を切ることから、気を付けて使おうと慎重になりますから。

 さて、付け合わせはそれでいいでしょう。ガーンさんとアドラさんがどれだけの時間がかかるかはわかりませんが、二人に任せておいて、僕はメインの料理に取りかかります。


「いて、手を切った!」

「あれ? 身の部分が少ない……皮を切りすぎたか?」


 訂正、終わったら手伝うしかないですね。


「では皆さん」


 僕は僕で、そのために早くしましょうか。


「今日は豆腐ハンバーグを作りましょう」



 豆腐は、煮て良し焼いて良し生で良し。凄い食材です。

 煮れば出汁の味をほどよく吸い、焼けば香ばしさと肉のようなジューシーさ、生なら醤油を掛けて冷や奴など調理法はたくさんあります。

 今回は焼くの方向で行きましょう。言ってませんでしたが、牛肉も使います。

 つまり、この料理は牛肉と豆腐を使った食べ応えがありながらもヘルシーな料理ということです。


「ということです。いいですか?」

「「「はい、先生!」」」

「今回使う材料は、豆腐、牛肉、ナツメグ、砂糖、塩、魚醤、片栗粉がメインとなります」


 まず牛肉に砂糖、塩、臭み抜きをした魚醤を加え、混ぜます。

 そこに豆腐と片栗粉を加えます。豆腐一丁、片栗粉二の割合ですね。

 これをかき混ぜて、形を作ります。


「この手順で作ってください。牛肉の不足は豆腐で補えることも知ってください」

「わかりました、先生」

「それと……ガーンさん、アドラさん。皮むきできましたか?」

「いや、まだだ……」


 おや、どうやらまだ十個もできてないようです。ガーンさんが四個、アドラさんが三個ですね。

 これはちょっと待ってられません。


「みなさん、今の要領でハンバーグのタネを作っておいてください。僕は皮むきを手伝いますから」


 あとは皆さんにお願いして、僕も包丁を手にじゃがいもの皮むきにかかりました。


「ガーンさん、薄く切ろうと無理してると、余計遅くなりますよ」


 僕はお手本のつもりで、じゃがいもの皮むきを見せました。

 くるくるとじゃがいもを回し、皮を剥いていきます。

 皮を一枚繋がったままで剥き終わると、ガーンさんとアドラさんが呆気に取られた顔でこちらを見ていました。


「どうしました?」

「い、いや……早いな」

「そうですか? 慣れですよ、お二人もすぐにできるようになります」


 そういうと、僕は二つ目に取りかかります。時間が惜しいですし。

 くるくるすっぱりと皮を剥いていきます。無心です。悟りを開くかのように無心に皮を剥きます。

 なんだかこうしてると、やっと傭兵団に戻ってきたんだなぁ、と思います。

 なんせ牢屋にいたときは、こんな風に傭兵団の人のために料理作るなんてなかったですからね。

 あのときはガーンさんと食べるためか、エクレス様の試練かなんかよくわかんないことのためだけですから。

 さて、そんなことを考えながらじゃがいもの皮を剥いていると、手を伸ばした先に何もないことに気づきました。あれ? と思いながら手をひらひらさせても、かごの中のものを掴めません。

 ふと見てみると、そこには何もありませんでした。


「あら? 何もない……?」


 あらら、じゃがいもの補給をしなきゃいけないですかね?


「当たり前だろ、お前が全部やったんだから」


 隣を見てみると、ガーンさんが呆れた顔をしてました。

 その手には、半分までしか剥けてないじゃがいもがありました。


「え? 僕が?」

「ああ、すごかったぞ」


 アドラさんも呆れながら言いました。その手には、三分の一しか剥けてないじゃがいもが。


「話しかけても無視して、まるで一つのじゃがいも皮むき機みたいな動きだったぞ。凄い速さで皮を剥いて、あっという間になくなったぞ」

「おおげさな、アドラさん」

「いや、結構マジだ。ほら、残りのじゃがいもは俺たちの持ってる奴だけだから、お前は残りの作業をやれよ」

「わかりました」

「そうしてもらえないと……俺の僅かなプライドも砕け散るからよ」


 ああ!? アドラさんの顔が初めて会った時のような暗い顔に!


「わかりました。残りは任せますので、僕はあっちに戻りますよ。頼みましたよ」


 二人の自信を砕いたのでしょうか……。どこか胡乱な目をしています……。ここは、練習を積むことでしか自信を得られませんから……。

 これからは、あまり手出しはしないようにしましょうかね?


「できましたか?」

「はい、この通りです」


 見てみれば、確かにハンバーグのタネはできていました。なるほど、教えたとおり、綺麗にできていますね。

 これなら、焼きムラもなくできるでしょう。


「上出来ですね。では、これを油を引いて熱した鍋に入れます」


 ハンバーグのタネを一人分にこねて鍋に入れました。

 ジューといい音を鳴らしながら、豆腐ハンバーグが焼けていきます。


「このとき、火は弱火にして蓋をしておいてください。十分ほど時間が経ったら、形を崩さないように裏返しにしてください。

これで豆腐ハンバーグのできあがりです」

「わかりました」

「個数が個数です。急がねばなりませんが、決して焦がさないようにお願いしますね」


 なんせ、この城にいる隊長格から警備兵まで全員分ですからね。


 事件の後、元々この城にいた警備兵さんたちと傭兵団のみなさんは、同じ部隊に組み込まれました。

 ですが、この二つの部隊は未だに一部の人たちがギスギスしてます。主に警備兵の古参と傭兵団の新兵が揉めてるそうです。

 なので料理を作るときは、美味しい料理で話題ができるように気を付けようと思います。

 珍しかったり、ここの古参の兵の人たちがなじみやすいものだったり。

 今回はアーリウスさんとリルさんの要望に応えましたが、次回からは献立に気を付けなきゃいけないでしょうねぇ……。

 そして今まで城に勤務してた料理番の方々がボイコットして一人もいません。なんでも、外からやってきて支配するような野蛮な傭兵団の料理番などと一緒に仕事はできないそうです。ぐすん。

 今は傭兵団の料理番の人たちと、急遽募集した人たちで回しています。

 大変ですが、仕方ないですねぇ。戻ってきてもらえるように、なんとかしないといけないでしょう。

 そして、城内の食料不足もあります。

 騒ぎを終わらせるために大量の食材を使ったわけですから、当たり前ですが……。本来、派閥争いの為に保存されていた食材ではない、備蓄された食料があるにはあります。

 しかし、元々この城に勤務していた人たちの分の計算で備蓄されていたものです。傭兵団の皆さんも加わったことで、消費が予想以上に増えました。

 豆腐ハンバーグにしたのも、牛肉だけでは皆の分を確保できないのも理由の一つです。

 なんとかしないといけないでしょうね……。


 なんてことを考えながら、城内の食堂に集まった兵士さんたちに料理を配っているところです。長机が並んだ、広い部屋です。

 豆腐ハンバーグは問題なくできました。ソースは、リルさんに最初に出した魚醤ベースのものです。これも合うでしょう。


「どうぞ、リルさん。アーリウスさん」


 僕はお二人に豆腐ハンバーグを出しました。

 二人とも、無表情です。出されたものを見て、じっと集中しています。

 なんだろう……。何してるんだろ?


「シュリ、これはハンバーグ?」

「いえ、豆腐ハンバーグです」

「見た目は……ハンバーグですよね?」


 不思議な顔になったことで、ようやくわかりました。

 ハンバーグっぽいけど脂が強くない。でも豆腐が見えない。

 だから、これがハンバーグに属するのか豆腐に属するのか見定めていたのだと思います。

 そうじゃなきゃ、すべてを見透かすような眼力を感じるはずはないです……ないはずです。


「食べてみればわかりますよ」

「そうですね……久しぶりのシュリの料理です。楽しませてもらいましょう」

「ん、楽しみ」


 こちらの二人は、そんな僕の葛藤を知らずにフォークとナイフを手に取り、豆腐ハンバーグを食べ始めました。

 意気揚々とナイフを入れると、二人とも不思議そうな顔をします。


「なんか……感触が違う」

「そうですね。ハンバーグにしては感触が異なります。なんか、フワフワしてますね」

「そうですね。牛肉と豆腐を混ぜてますので、感触は違うと思います。食感や味も違いますから、それも楽しんでもらえれば」


 二人はそのまま豆腐ハンバーグを一切れ、口に運びました。

 そして、固まる。

 二人は口に入れた豆腐ハンバーグの食感、味、風味を確かめるように止まって、それから咀嚼して飲み込みました。

 そして、唐突に立ち上がり二人で握手を交わしていました。

 何してんの?

「すばらしい。豆腐との相性がよい」 

「そうですね。これなら肉の脂を取り過ぎることもないです。豆腐の柔らかい食感がミンチにされた肉とほどよくかみ合って、さらに柔らかく仕上がっています」

「さらにソースとの相性も良くなった。もともと豆腐と抜群の相性を持つさわやかなソースが、ハンバーグと豆腐が一緒になったことによって相乗効果を生んでいる」

「喧嘩してたの、バカバカしいですね」

「そう、無駄な争いだった」


 なんだろう、いつの間にか凄く仲が良くなってますよ?

 豆腐とハンバーグ組み合わせただけでここまでなるとは……今度からこの二人が喧嘩してたら、豆腐ハンバーグで落ち着かせようかな?

 ほら、いつの間にかリルさんとアーリウスさんが抱き合ってますよ?


「平和が一番ラブ&ピース、ですね」

「その通り」


 もうわけわかんないや。

 とりあえず二人から離れて、給仕の仕事に戻りましょうか。

 回りで食べてる兵士のみんなも、美味しそうに食べててよかったです。

 しかし、食料の問題は解決しません。このままではいずれ尽きます。

 さて、どうするか……。


「シュリ! いるか!?」


 そんなとき、食堂の扉を開いてガングレイブさんが入ってきました。

 大股で歩き、僕を見つけるとズンズンと近づいてきます。


「おお、昼時だからここにいると思ってたが、よかった。ここにいたか」

「どうしましたガングレイブさん? お昼なら、今日は豆腐ハンバーグですよ」

「そいつぁ旨そう……いやいやそういう話じゃねえ。旨そうなんだが、そんな場合じゃ」


 ねぇ、と続けようとしたガングレイブさんは固まりました。

 ん? と不思議に思っていると、後ろから濃密な殺気が!?


「豆腐ハンバーグがそんな程度? ガングレイブ、その首に消えない傷が欲しい?」

「ガングレイブ。これはすばらしい料理です。それを軽んずることはいけません」


 リルさんは指を鳴らしながら準備体操して。

 アーリウスさんは屈伸をしてます。

 あれ? この二人いつから拳系とか蹴り系のキャラになったのかな?


「い、いや、悪かった。ああ、悪かった。だから膝の裏への回し蹴りは止めてくれ、な?」


 してやられたことがある?! ガングレイブさん、結婚生活大丈夫ですか?


「あ、いや、急用があるんだ。お前らも来てくれ」

「これを食べてから」

「だったら急げ。これは本当に急を要するんだ」

「何かありましたか?」


 ガングレイブさんは、神妙な顔をして言いました。


「正妻、レンハ・スーニティが見つかった」


 え? 正妻って……今回の事件をややこしくした元凶ですよね?

 その言葉を聞いて、リルさんとアーリウスさんが真剣な顔になりました。

 さっきまで豆腐ハンバーグで騒いでいた人たちとはまるっきり違います。


「本当?」

「ああ。見つかったと言うより、捕らえられてここに連れてこられている」

「捕らえた? 誰がですか」

「ああ、テビス・ニュービストだ」


 テビス……ああ、麻婆豆腐に夢中になってたお姫さんですか。懐かしい。いつ以来ですかね?

 そんな風に考えていた僕ですが、リルさんとアーリウスさんの顔がものすごく嫌そうというか暗いというか、そんな顔をしています。


「最悪ですね……」

「ああ、来てくれるか」

「わかりました。リル、食事は後回しです。どうしてもというなら、詰め込むなら今のうちですよ」

「わかった」


 あれ? 思ったより深刻な事態?


「シュリ」


 呼びかけられて振り向けば、ガングレイブさんは僕の肩に手を置きました。

 その顔は、ものすごく辛そうです。


「もしかしたら、お前の身に何かあるかもしれん。最大限努力はするが、あの王女が相手だ。俺でも引き分けに持って行くことしかできないかもしれない。

 助けてすぐにこう言うのも気が引けるが……またお前の力を借りなきゃいけない」

「はぁ……」


 なんかよくわかりませんが……力ならいくらでも貸しますよ。

 じゃあ、会いに行きましょう。

 お久しぶりに、テビス王女に。

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大豆から豆乳に、にがりで豆腐はできたが、味噌、醤油は、まだ出来ないか?
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