十三、約束とポテトチップス
お菓子の魔力は強いのです。
ジャンクフードの誘惑はすごいし、チープな味だとわかってても食べてしまう依存性。
あれの誘惑に勝てる人間など皆無。
皆無、なのです!
暗い牢獄より、シュリがお送りしたいと思います。
ガーンさんの抱える闇。それがなんなのか。
正直ここまで世話になってますので、なんとかしてあげたいと思うのですが……。
出会ってそこそこの人間が踏み込んでいい話題と踏み込んではいけない話題があるのは重々承知してます。
なので、今は仲良くなるしかありません。
そして、願わくばガングレイブさんたちの様子を聞ければ上々です。
「おい、美味しい料理を作るとか言ってたな?」
そんな僕に、ガーンさんは油とじゃがいもを持参でやってきました。
この人、仕事する気があるのかな?
「これで作れるか?」
確かに材料は揃ってますけど……。
「作れるには作れます」
「なら、やってくれ」
「でも、どうしたんですか? いきなりやる気満々で?」
そう、昨日の今日でまた作ってくれって、不思議な人です。
一応僕は罪人ですよ? 罪は一つも犯してないですけどね。
「あのな。お前の料理を食うようになってから酒が抑えられてきてるんだ。
特にあの酒精のするアサリ。真似して作っても上手くできないが、あれを食ってから普通の酒に満足できなくてな。
結果として、酒を抑えることができてる。つまり、お前の料理は俺の体調を整えるのに最適だ。
それに楽しみでもあるんだ。今度はどんな変わった料理を作るのか、楽しみでな」
ああ、こんなふうに楽しみにしてもらえたりすると、料理人冥利に尽きます。
「なんだ、嬉しそうだな」
「そりゃ、そんな風に言ってもらえたら嬉しいですよ。
期待に応える料理……いや、おつまみを作ります」
「おつまみ?」
「今回は屋台で食べれるような軽食ですよ。
塩と油とじゃがいもで作れます」
さて、作ってみましょう。
魅惑のジャンクフード、ポテトチップスを!
作り方は簡単。
まず、じゃがいもを薄く薄く切ります。
厚すぎたらダメです。ばらつきもアウト。火の通り、油の熱気が均一に回るのがりそうですね。
大きめのスライサーでサーっと切ったら簡単ですが、そんな都合のいいものなんてないのが牢獄。てか、ガーンさんが食べ物を持ってくるからいつもと変わらない? というより、ここ異世界だよ……。
さて、油を熱したら薄く切ったじゃがいもを投入。
揚がったら……。
「すみません、金網かなんかありませんか?」
「金網?」
「いえ、油を落とす道具が……」
「そんなこともあろうかと、こんなものを用意してみた」
ガーンさんが出したのは、魚を焼く金網でした。
「なんでこんなものを?」
「いや、てっきりじゃがいもをおいしく焼く料理かと思って」
「まあちょうどいいです」
揚がったポテトチップスを金網に上げて、油を落とします。
キッチンペーパーの便利さというのは、こんな時に知りますね。
「出来上がりです。あとは塩をまぶして終わりですね」
「え? これだけか?」
「食べてみてくださいな」
渋々といった感じで一つ摘んで口に運んだガーンさん。
「……おー、なかなか旨いな」
「でしょ?」
「おぅ、旨い」
そう言いながら、食べる手が止まりませんね。
「……おい」
「なんでしょ?」
「これ、食べる手が止まらねえ。
塩辛くてパリパリ。だけのはずなのに、手が止まんねえ?!」
くくく、これこそジャンクフードの魔力です!
「美味しいでしょ?」
「ああ、よく味わうとじゃがいもの旨さと塩の感じがちょうどいい。
しかも噛んで食べても味が残る。味が残ってもまだ食べたい。すると残った味がもっと欲しくなってまた食べる。
なんて食いもんだよ! 作りたてだから旨いだろうが、これはすげえな!」
そうでしょうねぇ。
「これ、冷めても美味しいですよ」
「は?」
「だから、作りたてを売る屋台とか、作って大量に取ってあるのを袋詰めにして売ったりとか。
方法はいろいろあります」
「マジで?」
「あと、チーズをまぶしたり海藻を散りばめたり、バリエーションは豊かです」
ガーンさんは驚きで固まってますが、日本では普通ですよ。
ピザポテとかね。あれ美味しいんですよねえ。
「まさか、じゃがいも一つで億万長者になれる商売方法を知ってるなんて……」
「そんなおおげさな!」
こんなんで億万長者なんてなれるかい!
「まあ今は食べましょ?」
「だな。しっかし止まんねぇなこれ」
「ですね」
二人でパリパリ。摘んでパリパリ。
そのあと、じゃがいもが無くなるまで食べました。
ちなみに第二のリルさんを生むわけにはいかないので、程々にさせました。