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傭兵団の料理番  作者: 川井 昂
一章・僕と領主
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十、囚われのカオルゥチュウ

 米が手に入ったので、カレーライスが完全体となりました。いやはや、日本人としては米がないといけませんね。皆さんには内緒で、こっそり米を炊いて食べてます。

 どうやら、こっちでは米はそんなに食べられてないようですね。もったいない。米革命でも起こしてみましょうか。


 シュリです。米があるので上機嫌。

 前回の魔晶石交渉の折、ガングレイブさんとアーリウスさんの結婚が決まりました。えがったえがった。

 結婚式でもこっそり準備して、二人を驚かせたいなと思い、テグさんとクウガさんにこっそりと相談しました。


「結婚式?」

「はい。この大陸では結婚の際に祝ったりしないので?」

「そうっスね……、一応親戚で集まって、村なり町の代表者を仲人にして誓約はするっスね」

「誓約と言うと、一生愛を誓うみたいな?」

「そうやな。そんな感じや。あとはみんなの前で挨拶して終わりやんね」

「え? お祝いの料理とか贈り物は?」

「昔はあったけんど……。今はこのご時世やから、さっさと子を生んで労働しろやな」

「そうそう。子は跡継ぎと同時に労働力っスから。なんというか、祝ってる暇ないんス。お祝いの宴は貴族の奴らが未だにしてるっスけど」


 なんと味気ない。それはよろしくない。


「せっかくなんで、ガングレイブさんとアーリウスさんの結婚式はド派手にやりませんか?」

「「ド派手?」」

「花火打ち上げたりとか、部下の前でキスさせたり」

「キ、キス?! 部下の前でか?!」

「新婦を新郎がお姫様だっこして皆にアピール」

「だ、大胆っス」

「そして神に誓うのです。『富めるときも貧しき時も、互いを愛し合い支える』と」

「神に……か……」

「シュリって意外とロマンチストっスね……」


 ふ、二人がドン引きしてる?!

 おかしい。地球ならこの流れが普通のはずだけど……。

 いや、いっそこっちの世界で新しい結婚式の形を作るのはどうだろうか?!

 流行らせる、絶対に。

 僕は目的を新たにするのだった。


 さて、結婚式の準備とはいえ、料理は何をすればいいのでしょうか?

 リルさんに聞いてみました。


「結婚式に相応しい料理?」

「はい。祝いの場で恥をかかせずに済む料理ってなんなのかなと」

「ハンバーグ」


 聞く人を間違えました。




 うんうんと唸っている間に次の戦です。

 結果から言えば勝利しました。

 誰も死なずにすんでよかったです。

 そして、戦勝会を大々的に開くそうです。


「シュリ、お前に料理を作ってもらいたい」


 その前日の夜。皿洗いをする僕にガングレイブさんが頭を下げてきました。


「いいですよ。なので頭を上げてください」

「いや、今回はちょっとお前でも難しいかもしれん」


 難しい……とは?


「実は、今回の戦勝会で領主が土地をくれる手筈になっている」


 土地?!


「つまり、領主になれるってことですか」

「簡単に言えばな。やっと一国一城の主になれるってことだ」


 それはめでたい。


「だが、領主が結構な美食家でな。機嫌を取りたいんだが、それに沿える料理を作ってもらいたい」

「つまり、貴族に出しても恥ずかしくない。なおかつ変わった料理で美味しいものを、てことですか」

「そういうことだ」


 バツの悪そうな顔のガングレイブさん。

 別に、いつものことだと思うけどなぁ……。


「わかりました。ところで、貴族に出す食材の指定などは?」

「子豚になっている」


 子豚……となるとあれかな。


「ガングレイブさん。子豚の丸焼き、て食べたことあります?」

「あんな高価すぎるもん食えるか!」

「作り方は?」

「ん? 専用のかまどで火を巡らし、その中に入れてじっくりこんがり焼くんだ。

 それが普通だろ?」


 オーブンで丸焼きみたいなものか……。

 よし、やれるな。


「了解です。もう決まりました」


 ガングレイブさんは驚いてますが、あれは大変なんで練習しないと……。

 苦労が絶えんです。




 当日。

 多くの貴族や軍人が集うパーティーに、場違いながらも参加させてもらいました。

 城の庭園を借りて行われたそれは、とても豪華です。

 そして僕は場違いすぎです。


「みんなは礼服があるのに、どうして僕だけ普段着なので……?」

「いや、厨房に引っ込むかと思ったらみんなの前で料理するていきなり言い出すから、準備が間に合わなかったんや」


 クウガさんが答えてくれますが、僕は居たたまれない。

 くそ、厨房に引っ込んでりゃよかったか!

 ガングレイブさんとアーリウスさんは並んで貴族たちと会話してます。慣れてますね。そして結婚する旨を周りに広めてます。

 テグさんはちょっとぎこちないながらも、貴族の子女たちと会話しています。モテ期なんてなくなればいいのに。

 リルさんは構わず料理を食べ歩いてます。ハンバーグから脱却したかなと安心してたら、こっちを見て懇願してます。作りませんよ、ハンバーグ。

 そしてクウガさんは僕と一緒。一人で歩くと残された僕のことが不安でしょうがないそうです。


「クウガさんはいいので? 顔を覚えてもらわなくても」

「あ? 貴族のことか? 構わへん。どうせワイはそんなん上手くやれへん。司令官の軍人より、下っぱの兵士と仲良うしたほうが得やな」

「そんなもんですか」

「そんなもんや。おら、ガングレイブが呼んどるで。そろそろお前が料理作る時間やろ?」


 お、もうそんな時間ですか。

 すでに宴の真ん中で材料と器具を用意してもらってます。

 ガングレイブさんに目配せして、許可をもらいました。


「ではみなさん。これより特別な子豚の丸焼き、火考乳豚カオルゥチュウを作ります。縁起物の料理なので、丁度よいかと」


 みなさん聞いたことないのか、ちょっとざわついてます。

 そりゃ、まあ日本人でもあんま聞かんですね。

 すでに下処理が終わった子豚まるごとにさすまた(・・・・)を刺して、さあ始めましょ。

 炭火の上で、子豚をひたすら回す。下ろして糖水たんすい(水飴や酢の混合調味料)やピーナッツオイルを塗ってさらに焼く。

 焼く、塗る、焼く、塗る、焼く、塗る……。

 初めてこれを作ったときは失敗しましたが、あれから練習を重ね、今では完璧にできます。

 ちなみにこの火考乳豚カオルゥチュウ。中華料理で広東省あたりのお祝い料理です。主に皮を食べる料理ですね。

 焼き上がった火考乳豚カオルゥチュウを下ろし、皮を切って皿に盛り付け。

 近くの使い番に渡して終了です。


「そっちの肉は食わないのか」


 領主さんが僕の近くに来て皿を受け取って言いました。

 もったいなさそうな顔です。


「これは皮を美味しく食べる料理ですから」

「なるほど、それではいただいてみよう」


 領主さんは皿に盛り付けられた皮を食べました。


「これは……! サクサクしていながらとろけるようだ……! 不思議な食感だな!」


 見た目はよく焼かれた茶色の皮。

 そして食べれば、口の中でサクッとして溶けてなくなる。

 最後に旨さだけが残る、それが火考乳豚カオルゥチュウの特徴です。

 下手くそが焼くと、まるで焼いたスルメのようになります。バリッと砕けてしつこく残るのがそうです。

 成功してよかった……!


「面白い料理だ。なるほど、皮の旨さを追求した新しい料理だな」

「はい、お褒めに預かり光栄です」

「うむうむ、よい気分だ。ホットワインをくれ」


 気分が良さそうな領主さん。

 グラスを受け取りワインを注いでもらってます。


 ……ん?


「駄目です!」


 僕は咄嗟にワイングラスを叩いて、地面に落としました。

 危ない! こんなもので飲んじゃいけない!


「貴様! 領主様に何をする!」


 しかし、周りはそう思わなかったらしく。

 僕は軍人さんの命令で駆けつけた兵隊さんに囲まれました。

 やべ、捕まった。

 そう思ったときには遅く。

 すでに詰んでました。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] これもまた鉄鍋のジャンからの料理かな…… 6巻あたり。 作り方についておそらく誤解があるんですけど、糖水をかけてから一度火にかけたのは糖水を乾燥させるため(本来なら自然乾燥)、そのあと…
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