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傭兵団の料理番  作者: 川井 昂
一章・僕と領主
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九、怒りのカレーライス・前編

バレンタインですが、そこまでチョコは関わっていません。でもチョコは出ます。

 クウガさんの活躍が凄まじいです。

 戦場では敵を鎧や剣ごとぶった切る鬼神のような御仁になりました。

 人は何がきっかけで才能を開花するかわかりませんね。てか、何がきっかけなんでしょう?

 それを見て歩兵隊の方々も勇気付けられ、前線に出るようになりました。怪我をしないで帰ってきてくれれば言うことはないのですが。そうもいかんのでしょうね。


 シュリでーす。最近作りたいものが多いこの頃です。え、ユルい? もともと僕はこんなもんです。

 麻婆豆腐にチーズケーキと来たら、作りたいものは決まってます。今までは材料不足と知識不足で作れなかったもの。

 そう、カレーです。

 スパイスの微妙な配合に悪銭苦闘の日々を送ってます。正に宇宙コスモ。だったっけかな?

 無論失敗作は自分で食べてます。ですが、弊害が出ました。

 失敗とは言えカレーはカレー。鼻孔をくすぐるその魔性の香りは、夜に試作をしている私の背後にアーリウスさんを呼び寄せることになりました。


「アーリウスさん、そこでなにしてるんですか?」


 一応呼び掛けてますが、返事がありません。バレバレなのに往生際が悪い!

 木の影から体がはみ出てるのに、何を意地張ってるのか!

 ちなみにアーリウスさんだけ呼んでますが、木の上にはテグさん、遠くからはクウガさん、どうやったのかわからないけど地面の下にリルさん。多分、穴掘って隠れてるんですよ。

 そして近くのテントにはいろんな部隊の人たちが詰めかけ、聞き耳をたてるのではなく、嗅ぎ鼻たてて待ってます。嗅ぎ鼻なんて言葉、初めて使いました。


「うーむ、やはりカレー粉が難しい……」


 カレー粉の調合。これが一番の原因です。

 普通なら具を炒めて水をぶちこんで沸かし、そこでルーを入れるという流れです。ルーの作り方ってそういえば知らないんですよ。ルーを組み合わせて味を変える、てことはしてましたが。


「あー……またダメかな……」


 また、失敗しました。

 色もとろみも足りない。不完全なスープカレーといった感じですね。

 カレー粉のベストな調合、まだまだわかりません。

 もうちょい研究しますか。

 失敗したカレー、もちろん自分で食べます。

 一人分しか作ってないので、後片付けも簡単。

 だけど、後ろの方々は食べたいそうです。

 食べさせませんよ。失敗作なんて食べてもらうわけにはいきません。

 皿によそっていただきます。

 うむ、甘味が足りない。とろみも。

 納得のレベルまで作れてないなぁ。


「「「あ~…………っ!!!」」」


 叫びが聞こえますが無視です。

 ちょっと意地悪しましょか。


「さっき呼び掛けたときに返事がないってことですからねー。誰もいないなら、食べさせることもないですよねー」


 プルプルと木やら地面が震えてます。

 怒ってるのかな?


「ま、その前に失敗作ですから。食べさせるわけにもいかないんですよねー」


 一応フォローしときます。



 今度の戦は戦ではありません。

 どういうことかと言うと、交渉役に選ばれたのです。

 場所は雪原地帯。去年、アーリウスさんが山の雪を全部溶かした所です。

 なんか去年と同じところを回ってるようにも思いますが、こういうところから縁ができるのでバカにできません。

 それを言えば僕の縁はなんというか、奇縁ですが。なんで異世界にいるのだろうか?

 考えても仕方ないので、ひたすら雪道を歩いてます。


「ガングレイブさん、今回の交渉は何が目的なのでしょうか」

「お前が毎夜試作している料理を食わせてくれれば教えてやる」


 が、ガングレイブさん?!

 あなたそんなキャラでしたっけ?!

 その瞳に宿る狂気に似た光、あなたがするべきものじゃない!


「あれはもう少しで完成なんで、待ってください」

「いいだろう。今回は魔晶石の交渉だ。アルトゥーリアは雪国でありながら魔晶石が大量に取れる。一大産業なんだ」


 魔晶石は魔工や魔法の触媒、魔工で魔字マギ・スペルを書く際の塗料になる素材だそうです。

 自然豊かな場所で魔法の力が集まると、結晶化して物質となるそうです。それが魔晶石です。

 リルさんの発明品にアーリウスさんの杖。これらにも魔晶石が必要ですよ。

 魔工は一度、魔字マギ・スペルで魔晶石を使ってしまえば半永久に使えますが。

 魔法は使い続けると消費するらしいです。簡単に言えば、魔法を使うと魔晶石が摩耗してなくなるってことです。負荷が大きいんでしょうね。

 で、その数が少なくなってますので、補充をするということです。






 の、つもりでした。


「キサマらのような野蛮人に売る魔晶石はない。帰れ」


 いざ領主に謁見すると、蛇蝎だかつの如く嫌われています。

 謁見の間ではデブの親子がふんぞり返ってます。なんかムカつく。豚に見下ろされるのはイライラします。


「そこをなんとか。俺たちの活動に必要なのです。見返りとして」

「そうだな。見返りとしてそこの女二人を、息子のメス奴隷にするなら売ってやる」


 ピキーン。最上級のイラっとが来ました。

 メス奴隷なんて言葉初めて聞きました。こんなにも怒りが湧いてくるものなんですね。


「パパー、そこの芋臭い女なんか抱きたくないよー」

「大丈夫だよ息子よ。ちゃんと薬で消毒してあげるからね」


 ぶちん。

 そんな音が男衆から聞こえました。

 テグさんのうなじが逆立ち。

 クウガさんの覇気が鬼の形相になり。

 ガングレイブさんから感じる迫力が獅子となり空間を支配する感じがしました。

 え、僕? 精々猫ですが覇気を出してます。シャー、と唸ってますよ!!


「ん?」


 そんな僕が見たのは、デブ息子がお菓子を食べている場面です。


「あれは……」


 見たことあるその食材。

 そして漫画で見たことがある、応用。

 そう、チョコレートです。

 なんとこっちにはチョコレートがすでに開発され、こんな雪国にまで普及されてるのです。


「まあそういうことだ。息子にやるには田舎臭いがその女で勘弁してやる」

「……それは」

「ガングレイブ……」


 はたと気づけば、涙目のアーリウスさんと怒りで肩を震わせてるガングレイブさん。

 なんですぐに拒否ってここを去らないのか。

 ガングレイブさん。

 愛する女と物なんて、比べられるはずないでしょう。


「やーやー。少し失礼」


 ここは僕が道化となりましょうか。

 ひざまずくのをやめましょ。

 こいつらに頭下げるの嫌ですし。


「なんだキサマ」

「僕はガングレイブ傭兵団の料理番、シュリと申します。

 失礼ですが一つ。

 王子の食されている魅惑の菓子、そちらは何処で手に入れたものでしょう」


 王様と王子様の眉間に皺が寄ってます。イラってしてるんでしょうね。


「……ニュービストだ。それがどうした」

「いえいえ、念の為に」


 そっか。あそこか。今度から手に入れるのは簡単ですね。

 多分、あそこの森からカカオとかサトウキビとか取れるのかな?

 詳しいことはわかんないけど、今は利用させてもらいましょうか。


「ここで一つ、僕に料理を作らせてもらえませんか」

「なぜキサマのような田舎料理人に食事を作ってもらわねばならん」

「いえいえ、王子様のお菓子。

 僕がそれを超える魅惑の料理に変えてみせましょう」

「魅惑の料理、だと」


 お、食いついた。

 このデブ親子。飯の話になると食いつくと思ったんですよね。


「はい、じゃがいもと人参と玉ねぎと肉。これだけで十分です。

 これだけでそのお菓子の何倍もおいしい料理を作ってご覧に入れましょう」

「……面白い。チョコとそれらで食事だと? やってみせるがいい。

 不味かったらその腕、両方とも切り落とす」

「どうぞどうぞ。では調理を開始します」


 負けるなんてことありえません。

 食材を用意してもらったらレッツクッキング。

 実はカレーはチョコと組み合わせることもできるんです。

 ちょっとチョコを齧ってみれば、なるほど使えますね、このチョコ。

 

 カレー粉のヒントも得ました。チョコを見て気づいたのです。

 要するに、スパイスだけではダメなのです。無論、スパイスの配合は練習の末、見つけました。しかし、日本のようなカレーを作るにはもう少し加えなければならないものがあります。

 バターにはちみつを入れて、小麦粉でとろみと甘味を加えて、ブイヨンで旨みを足す。

 とろみ甘みも研究と練習で、納得できる配合も見つけました。

 そこにチョコを一つ入れてグールグル。

 蓋をしてちょっと煮込んで完成です。

 クリームシチューのときは、取り敢えずお腹に入るものと食べられるレベルでそこそこのものを作りましたが、カレーはこだわります。


「……なんだその気持ち悪い色の料理は」


 王様がドン引きしてます。作る間しか見てないですね。

 失礼な。これが大人から子供まで大人気の日本カレーなのに。


「まあまあ、ここは一つどうぞ」

「……まあいいだろう」


 ククク。罠にハマったようです。

 蓋を開けた瞬間が、ここにいる全員を匂いで支配するのです。

 ああ、いい匂い。


「これは……」


 王様も王子様も驚いた顔で匂いを嗅いでます。

 そうでしょう。手作りカレールーは匂いまでこだわれるのですから。

 後ろの隊長方。あなたがたは毎晩嗅いでたでしょ?


「どうぞ」

「う、うむ」


 皿に入れて差し上げると、王様がなんの躊躇もなく食べました。毒見をしないで。


「これは!!!?」


 王様目を開いて驚いてます。


「そうでしょう。私の包丁の腕も、捨てたもんじゃないでしょ」

「う、うぐぅ……!!」


 ちょっと包丁を見せてドヤ顔。

 王様悔しそうにしながらも不味いとか言いません。

 そりゃ、この料理を不味いとは言えないでしょう。


「王子様にもどうぞ」

「うむ!」


 王子様は目を輝かせて食べました。


「美味だ! チョコがこんな美味になるとは!」

「それはどうも」

「パパ。そんな女よりこっちの料理人の方が欲しい!」

「そ、それは」


 王様めっちゃ目を泳がせてますな。


「これ、この粉とチョコを組み合わせればできますよ。差し上げてもよろしいです」

「本当か!!」

「その代わり、魔晶石が欲しいのですがね」

「パパ!」

「だ、黙りなさいっ。

 ……何が目的だ」


 めちゃくちゃ王様睨んでますが怖くないです。

 カレーを食べる手を止めないとねえ。


「だから魔晶石ですよ。

 相場通りの値で譲ってください」

「……わかった。

 そのかわり、息子がお前を勧誘したのは無しにしろ」


 え? そんな交換条件?


「ええ、構いませんよ」


 こうして、魔晶石ゲットです。





 帰り際。

 よかったよかったとみんな言ってますが、僕は納得してません。

 城から出て野営地に向かう途中、僕はやることにしました。


「ガングレイブさん」

「ああ、シュリ。助かったぞっ!?」


 殴りました。

 精々ペチ、ですが。

 この人頬までかてえ。


「なんですぐに反論しないんですか。

 愛する人と石っころ、どっちが大切なんですか!

 泣かせてまで悩むことじゃないでしょうが!!」


 言ってやって、僕はさっさと野営地に戻りました。

 後ろで隊長達が呆けてますが、置いて帰ります。


 その後、ビクビクしながら夜を過ごしました。

 なんせ団長を殴ったのです。クビにされるかもしれません。

 どうしよう。クビになったら働き口も頼る人もいない。

 ニュービストにでも行くしか、いやいやあれだけ見栄を張って戻るのは。

 そんな風にモヤモヤしてました。


 次の日になると。

 なんかガングレイブさんがスッキリした顔で僕にお礼を言ってきました。


「お前のおかげで大切なことに気づけた。ありがとう」


 よかった。クビにならないで。

 そしてアーリウスさんを正式に嫁に迎えたそうです。

 折角なんで、結婚式もしてもらいたいですね。

 計画、しときますか。

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必殺 ネコパンチ!!
[良い点] 猫の覇気 最強じゃない?
[良い点] 今話♬︎最高にいい«٩(*´ ꒳ `*)۶»オチでしたm(*_ _)m 今後も楽しみ(* 'ᵕ' )☆です
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