六十、あのバカを殴って助けようか
落ちついたクウガさんと、テグさんとリルさん、そしてヴァルヴァのみんなと共に火を囲んで話をする。
もちろんクウガさんの弟子である二人も一緒だ。大事な話になるから。
「じゃあ、人数も揃ったことやし本命の話をしよか」
「うん」
リルさんは苦しそうな顔をして、右手の拳を左手で握る。
「ガングレイブのところへ行き、馬鹿なことを止めさせる。元に戻す」
「……僕がいなくなったことでタガが外れて、無茶苦茶なことをしてるんですよね?」
「そやな。ワイも遠くから噂で聞いておる。結構、失策を重ねておるとの」
クウガさんは頷き、テグさんもリルさんも苦しそうな顔をしていた。
それに対して、ニアナとサラヴィの二人はキョトンとしたままである。
「それで師匠が戻って意味があるんですか?」
「……戻ったら意味があるんやなくて、去らなかった方が意味があった話や」
クウガさんが悔恨の意を込めて、口にする。
「結局、ワイは逃げた。ガングレイブと一緒に苦しむことから……。だから、今度は戻らなあかん。少ししでも元に戻さんと、ガングレイブはもう止まらん」
「リルも同じ……シュリが死んだと思い込んで、あそこにいたら悲しいから逃げ出して、あちこち放浪して諦めて……後悔してももう遅いけど」
「辛いのはオイラたちだけじゃなかった。ガングレイブだって辛かったはずっス。……自分の辛さを誤魔化すために、シュリを探す旅に出たっス。ほんとは、もう無理だって思ってた」
三人が三人とも、後悔を口にする。燃える焚き火の炎が、三人の顔に影を落としていた。
三人が後悔するなら、僕だって同じだ。記憶をなくしたまま安穏と過ごした。
ゼロとレイとシファルとシューニャは、僕たちのアレコレに巻き込まれて故郷を無くしたようなもんだ。
僕があのとき、根性で生き残ればまた結果はきっと違っただろうさ。
今になって言っても遅いですし、自罰思考が酷いので口には出しませんが。
なので、僕は別のことを言わないといけない。
『レイ、ゼロ、シファル、シューニャ。頼みがあります』
『なんだ……?』
『先行してガングレイブさんの様子を探ってもらえませんか?』
四人は僕の言葉を聞き、一気に真剣な表情になった。
これから、外に出ての潜入任務となると緊張もするだろう。ずっと里の中にいた四人が、観光とか巻き込まれての形とかではなく、任務として国に潜入するんだから。
シファルとシューニャの二人が口を開く。
『……事情はなんとなく察したけど、本当にいいの?』
『……裏でコソコソするけど? こっちを信じるの?』
『頼みます。今のガングレイブさんが具体的にどうなっているのか、調べてください』
『『……』』
シファルとシューニャは互いの顔を見合わせ、それからゼロとレイの二人と目配せした。
一瞬で意思疎通を行ったらしく、四人は立ち上がる。荷物を持ち、体を解し始めた。
『わかった。情報は集めてやる』
『お願いします、ゼロさん。……あなた方の目的であるヨンたちへの復讐もある中でこんなことに付き合わせて、すみません』
『改めて言うが敬語も敬称もいらない。お前たちに協力するのが、一番目的に近い。それで? ガングレイブの周辺というと、阿漕な商売や闇取引も含めてか?』
『そうですね。それも含めて、ガングレイブさんが何をしているのか、探ってください』
『了解だ。行くぞ』
ゼロさんは他の人に声を掛けると、闇の中に消えていく。まるで初めからそこに誰もいなかったのように、音も気配も消えてしまっていた。
四人の姿を見送ってから、改めてクウガさんたちに向き直る。
「ゼロさんたちに情報を収集を頼みました。ガングレイブさんの周辺の調査、闇取引などの仕組みについてもです」
「よく協力してくれたと思う」
「リルさん、そこには、あの人たちの目的もあるので。ガングレイブさんが荒れたままだと、あの人たちの目的も果たせないでしょうから」
それもそっか、とリルさんは納得する。
「ところで、や」
この話の中で、クウガさんがニアナとサラヴィに向き直る。
「お前らも来るやろ?」
「もちろん!」
「なら、お前らはワイの部下ってことや。仕官ってことになる、頑張れよ」
「「! はい!!!」」
若者二人、唐突な仕官話に盛り上がってる。今までは剣の修行という名の野盗だしなぁ。
「クウガさんには、改めてオリトルの商隊を襲ったことを反省して貰いたいのですが」
「う、そこは、その、ガングレイブをなんとかして身分が回復して都合が良ければ、の」
まぁ、今はそういうことにしておこう。
焚き火の火を眺めながら、改めて僕は誓う。
ガングレイブさん。あなたの元に戻ります。
そして、バカやってるらしいから殴って反省させます、と。