五十九、盗賊と南蛮漬け・終
生きて残っててくれた。
クウガさんの口から出た言葉は、この数年間のクウガさんの思い全てを含んだ言葉だろう。
僕が誘拐され、あそこで死んだと思った。
死んで二度と会えないと思っていたし、自分の失敗のせいだ、とか思ってるのかもしれない。
あそこで僕を助けることが出来ていれば、みんながガングレイブさんの元から離れる事にならなかったかもしれない。
あそこで僕を助けることが出来ていれば、こんな屈辱や後悔に塗れたことにならなかったかもしれない。
あそこで僕を助けることが出来なかったから、僕は死んだんだと。
そう思い込んでいた、と。
だからこそ、ここで再会できたことが、生きてるとわかったことが、どれだけ嬉しく思ったことか。
クウガさんが今まで味わってきた悲痛な思いが伝わってきて、僕まで泣きそうになってしまった。
「クウガさんのせいじゃない」
改めて言わないといけない。
「クウガさんのせいじゃないから」
「……っ」
僕から改めて、あなたに責任はないんだと、言わないといけない。
受け入れにくいとは思うけども、誰かが言ってあげないとクウガさんが延々と救われないんだ。
いつかこの言葉が、クウガさんを救ってくれると信じて言っておく。
クウガさんにはなんの責任もない。
原因もない。
要因すらない。
全ては、あそこに誘拐してきた人たちの責任なのだから。
向こうの人たちが始めたことだ。
アユタ姫、今は何をしてるだろうか。あれからどうなっただろうか。
いろいろと考えるが、今はクウガさんのことに集中だ。
「久しぶりに、みんなで食卓を囲みましょうか」
「ああ、そうやな……そうするか……」
「そちらの食材、ちこっと使わせてもらってもいいでしょうか」
「ああ……ええで……」
僕は立ち上がり、クウガさんの肩をポンと叩いて行動を開始する。
俯いて、顔を見せないようにして肩を震わせるクウガさんに、これ以上何かを言うのは蛇足だと思うから。
じゃあ、久しぶりにクウガさんに料理を振る舞おう。
今回は南蛮漬けだ。ここら辺はオリトルにも近い、クウガさんの荷物を漁ると、魚があるなと見つける。というか新し過ぎるな。勝手保存してるにも、不自然だぞ。
僕はクウガさんをじろりと見たが、顔を背けるばかり。
久しぶりに、南蛮漬けでも用意しよう。
ちょっと荷物を探れば小アジがある。これを使うか。
最初にタマネギは薄切り、ニンジン、ピーマンはせん切り。この三つを赤とうがらしと共にを混ぜて醤油、酢、砂糖、水を合わせた中に漬ける。
小アジは内臓を抜く。そこに片栗粉を軽くまぶして油で揚げる。んで熱いうちに小アジとをからませ、さっきのタマネギ、ニンジン、ピーマンと一緒に漬けちゃう。
できたら皿に盛って、上から漬け汁をかければ完成です。
「とりあえず、食べて落ちつきましょ?」
「ああ、せやなぁ……」
クウガさんに料理を渡すと、彼は少しだけ皿を見つめてから食べ始めた。
普段と同じ表情で南蛮漬けを食べる姿は、昔と同じように見える。
でも、次第にその目には涙がにじんでいき、とうとう零れるまでに至った。
「ああ……美味いのぉ……。野菜も魚も酸っぱいが嫌な酸っぱさは一切ない……スッキリとした味わいやな……」
魚を頭から一口で食べ、タマネギとニンジンを一緒に食べ、それでも涙が流れ続ける。
「美味い……シュリ、美味いの」
「はい」
「……お前の飯は、二度と食えんと思っとった……!」
とうとう嗚咽を上げながら、クウガさんは食事の手を止めてしまった。
僕はクウガさんの肩に手を置き、頷く。
「お待たせして申し訳ない。こうして、生き延びてきました」
「おぅ……! 待たせすぎじゃバカ……!!」
今だけは、クウガさんが泣いているのを慰めておこう。
僕だって、泣いてるわけだし。