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傭兵団の料理番  作者: 川井 昂
三章・僕とみんな
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五十九、盗賊と南蛮漬け・4

「……は?」


 クウガさんの口から呆けた声が出た。


 そりゃそうだ。死んだと思っていた人物が目の前にいて、リルさんとテグさんの2人と共に行動をしてるのだから。

 どうして自分に連絡がなかったのか、どうして自分のところに現れたのか、どうやって生きていたのか?

 聞きたいこと、知りたいことなんて山ほどあるはずだ。

 でも、できない。混乱していて、ありえないことが目の前で起きて、頭の中がこんがらがっている。何から聞こうか、何から知ろうか。浮かぶ疑問が山ほどありすぎて、言葉にしきれないのでしょう。

 クウガさんの困惑した顔を見て、僕は口を開いた。


「クウガさん。あなたは、僕が死んだと思ってましたか?」

「死、死んで、それは」

「それなら、それでいい。あなたへ伝える言葉があったのに伝えられなかった、僕にはその未練がある」


 あえて誤解させるような言い方をする。最悪の方法だけど、罪悪感をとことん喚起させる方法をとる。


「だから、この場に現れた」

「嘘や、お前は死んだ、死んだんや。ワイのせいで、ワイが、弱いせいで……!」

「違う。それは。違うんです」


 僕はゆっくりと首を振って否定した。


「あなたのせいでは、ない」

「何を、言ってるっ? ワイのせいやろ、ワイを恨めや、ワイが弱いせいだと、ワイが助けなかったから、お前が死んだんだって!!」

「僕は、助けに来てくれたあなたに、感謝してる」


 クウガさんの慟哭に、僕は微笑みで返した。


「恨むことなんて、何もない」


 だから大丈夫なんだと。

 何も思うところはないんだと。

 罪悪感に囚われることは、ないんだと。

 クウガさんに伝える。


「ありがとう、クウガさん。あなたに出会えて、本当に、よかった……」


 笑顔で、僕はそう締めた。なんか演出のために、最後の方の言葉は徐々に小声になるようにしてみた。

 僕はクウガさんに背を向け、あらぬ方向へと歩いてみる。なんとなくだ、意味はない。

 だが、クウガさんにとってはそうではなかったらしい。


「待て、待ってくれ、これが夢でもなんでもええ、待ってくれ!」


 後ろからメチャクチャ縋ってくる声が聞こえてきたけど、無視して歩いてみる。

 なんなとなく、ゆっくりと、これから確実に消えますよーって感じで歩いてみる。

 それがまたクウガさんにとっての罪悪感を刺激したみたいで、ことさら大声を出し始めた。


「ワイは、ワイもお前に出会えてほんまによかった! あんな最後になってもうたけど、それでも、出会えた最初に後悔はなかった! もうこんなことはせえへん、みんなのところにも戻る! だから、だから……もう少しだけ、顔を、見せてくれ……」

「いや何してんスか2人とも」


 振り返ってみたら、項垂れたクウガさんの肩にテグさんが手を置いていた。

 スッゲェ呆れた顔をしてた。

 クウガさんは泣き晴らした顔を、テグさんに向けて言う。


「テグ!? なんでここに……いや、そ、そこに、そこにシュリが」

「まぁ……いるっスよね。オイラたちで助け出してここにいるわけだし」

「ヘァ? 助け、出した? 生きてたって、ことか?」

「そっスよ。生きてたっスよ。そんでここまで連れてきたんス。クウガを連れて帰ろうってことで」


 ここだ! ここで種明かしだ!

 ということで、僕はクウガさんの前に立った。クウガさんは僕を呆気に取られた顔で見ている。


「はい、ということで生きてたシュリです! クウガさん、こういうバカをやってるから、いざという時に大恥を掻くんですよ。これに懲りたら山賊行為なんて止めて僕たちとガングレイブさんの元に」

「フハハハハハ!」


 お説教を始めようと思ったら、唐突にクウガさんが天を仰いで大笑いを始めてしまいました。

 どうしたどうした? と疑問に思っていると、顔を羞恥で真っ赤にしたクウガさんが、剣の柄に手をかけているところでした。まじで?


「いやー、随分とええ演技をするのぉシュリ」

「そうでしょ?」

「その演技に報いて刃のサビにしてくれる神妙に直れ!!」


 ここから一時間ほど、クウガさんとの命を賭けた鬼ごっこをする羽目になった。

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― 新着の感想 ―
面白く一気に読んでしまいました。毎度のことながらシュリがちょいちょいふざけてるとこが好きです。続きがとても楽しみです!
ガチギレしておる。 シュリは絶対に当たらない殺意マシマシ剣劇鬼ごっこを楽しんだらええわ。(クウガの技量だとコレができてしまう…髪の毛数本とかな)
[一言] 懐かしいなあ。久々に読み返し。これでみんな揃って、ガングレイブのとこ行くのよな。いいなあ、どんな顔するんだろう、楽しみ! クウガもテグもガングレイブも好きだったから、みんな揃ってるのが嬉しい…
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