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傭兵団の料理番  作者: 川井 昂
三章・僕とみんな
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五十八、ニュービストへの入国と麻婆茄子・前編

「ぜぇ……ぜぇ……」


 足が重い。肺が痛い。脇腹が辛い。とことん体に疲労が溜まっています。

 かつて傭兵団時代、大陸のあちこちを移動しては仕事をしていた体力は、すっかりこの二年間ほどで衰えてしまっていたらしく、僕は息を切らしながら歩いていました。


「大丈夫? シュリ?」

「なん、とか」


 僕は心配そうに隣を歩くリルさんに、強がりの笑いを見せながら答える。

 こうでもしないと心が折れそうなのです。茶化すように手をプラプラさせて見せますが、なんともしがたい体力の低下。

 そんな僕の様子を察して、前を歩いていたテグさんは半ば呆れた顔をしてこちらを振り向く。


「シュリ。お前、そんなに体力なかったっスかね?」

「二年間……里の中で……ぬくぬくと生きてましたので……」

「平和ボケっスか? さっさと治すことっス」

「そう、します」


 テグさんの呆れた様子もわかるんですよ。この中で僕が明らかに足手まといになってますので。

 なんせ、他のみんなは汗すら掻いてない。僕が額の汗を拭って息を整えているのに対し、全員がズンズンと前を向いて普通に歩いている。

 足腰と体力、持久力と根性と何もかもが違う。僕は落ち込みながら呟きました。


「……せめて商隊か何かが通りがかって、相乗りさせてくれればな……この遙か先まで続く街道を、楽に進めるんですけど」


 切なる願いですが、今のところ誰も通りがかる様子はないのです。

 何もない街道なので……。






 皆様、どうもシュリです。

 ゼロさんが木に登ったところ、遠くに街道が見えたとのことで全員でまずそこに向かい、あとは勘を頼りに歩き出しました。

 街道、と言いましても多くの人が通ったことで、自然と草がなくなり地面がむき出しとなって、硬くなった地面のことです。これでもある程度平らだから歩きやすいんだよ。

 この世界に来て長いけど、やっぱり長距離歩行移動は辛いんですわ。


『シュリが貧弱なのは、見た目通りか』


 ゼロさんもまた、僕の先を歩いていました。振り返って溜め息を吐く様子を見せる。


『俺たちよりも外の生活が長いはずだろ? これくらいは余裕じゃねぇのか?』

『無茶を言わないでください。僕は皆さんのような訓練をしてる類いの人間じゃなくて、ただの料理人なんですよ。昔だって、馬車に乗って移動してましたし』


 ムッとして反論はするのですが、正直情けない気持ちなのは事実です。ゼロさんは僕が内心、情けない気持ちというか自己嫌悪していることを察したのか、前を向いて何も言わなくなります。

 これ以上の追求は男としての矜持を逆撫ですることになる、と思われたのでしょう。

 事実だよ。すまんね。


『『で? この道はどこに続いてんの?』』


 シファルさんとシューニャさんは僕たちの後ろから聞いてきます。二人の役割は後ろから来る襲撃者への対処と警戒。

 ……という名目です。


「『ちょっと待ってください』……テグさん、この道ってどこに続いてるとかわかりますか?」

「この道……オイラの記憶が正しければ……えっとっスね」


 テグさんは前を向いたままちょっと考えて……周りを見てから言いました。


「……あー、多分スけど……ここら辺で近い国って言えば」


 テグさんは首だけこちらを向けました。

 その顔、嫌そうに眉をしかめてる。よっぽどか。


「……ニュービストっスね」

「おー!」


 よかった、ニュービストか! 僕は心から安堵して息を吐きました。

 いろんな国はあるけど、最初に訪れた国がニュービストなのは助かります。

 食材はある、調理器具もある、旅に必要な道具を揃えることもできる、商人たちが集まるから情報も集まる。

 クウガさんのいるオリトルへ行き、合流することが最終目的ではありますが……最初から都合良く合流できるとは思ってなかったので、旅に必要なものを揃えるのが容易なニュービストに行けるのは幸運だ。


「運が良いですね、ニュービストとは」

「ああ……まぁ」

「うん、そうだね……」


 なんだ、僕の隣を歩くリルさんも複雑そうな顔をしてるぞ。


『シュリ。で? どこなの?』

『どこ?』

『ニュービストってところです』


 僕がそう言うと、シファルさんとシューニャさんは嬉しそうにしていました。


『ニュービスト!』

『他の人から聞いてた! 美味しい食事!』

『幻想的な聖木!』

『観光地たくさん!』

『治安良し!』

『『最初に訪れるなら最適!』』

「観光じゃねえんだよ」


 本当にこの人たち、復讐心を忘れてないんだよな?

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― 新着の感想 ―
前回4人のセリフが「」になってたので外の言葉をもう学んだのかと思ったらまた『』に戻ってる?
[気になる点] 『無茶を言わないでください。 僕は皆さんのような訓練をしてる類いの人間じゃなくて、ただの料理人なんですよ。 昔だって、馬車に乗って移動してましたし』 異世界の成人男性としての通常体力…
2022/10/10 01:23 ブルーノ将軍
[一言] 更新お疲れ様です!
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