五十七、再び旅立ちへ
「で、ここはどこなんでしょうか?」
皆様、お久しぶりにございます。シュリです。
ヴァルヴァの里を襲った悲劇から三日。未だに森を彷徨う今日この頃。
朝早くから出発を開始してから数時間。途中の川にて水を補給したり、山菜を採ったり、獣を狩ったりして進み続ける。
未だ森を出られる気配もなく、ここがどこかもわからない。どうやってここに来たのかすら知らない。
という、とんでもなく危ない状態で……いや、もう正直に言いましょう。
僕たち、遭難してます。
「知らねっス。オイラが聞きてぇ」
僕たちの先頭に立って進むのはテグさん。藪をナイフで切り開き、危ない草を踏み潰し、楽な道をひょいひょいと歩く。僕たちはその後ろを歩いていると言ってもいい。だいぶ楽をさせてもらっています。
綺麗な足場を歩くと体力の消費はかなり減るので助かります。
「……リルもいい加減、うんざりしてる感じはある」
リルさんもまた、僕の隣で呟きました。どうもリルさんは魔工を使って、なんか周囲の地面の状況を探れるらしい。なのだけど、探知範囲に限りはあるし森の中だと相性が悪いそうです。あと範囲を広げすぎると疲れる、とも。
だけどこの探知能力のおかげでイノシシとか狩れるから助かります。ただし鳥とかの飛行生物は感知できないらしいです。飛んでるからだと。地面を伝う探知音波みたいなのを流してるから、宙空のものには反応しないってことだろうか。
『シュリ』
木の上から飛び降りてきたのは、ヴァルヴァの里から一緒に来たゼロさん。
かつては僕を拾って家人にしてくれたお方で助かってる節があります。命の恩人ですね。
『どうしました、ゼロさん』
『木の上から見たが、ようやく森の切れ目が見えてきた』
『やっとですか!』
ゼロさんの言葉に、僕は思わず喜びました。
なんせ、今までこの森から抜けようと木に登って周囲を観察してもらってましたが、どうにも森の切れ目は見えません。
まぁ起伏の多い地形であることと、妙に大きな木があったりして目視による索敵を妨げられていた、というのも要因の一つではあると思いますが。
こんなところにヴァルヴァの里があったってこと? と今更ながら思う。
黙々と、だけど急ぎ足で全員が進む。
ゼロさんが進む方角へ、ひたすら前へ前へと。
里から森へ、森から外へ、世界へと。
そして――。
「「やっと、出たー!!」」
僕とリルさんは同時に声を上げ、両手を挙げて喜んだ。
とうとう森を抜け、街道へと出たのです。数年ぶりに見る、ヴァルヴァの里から見える範囲から外の景色に、感動を覚える。
長かった、ここまで長かった。
「はぁ……ここが、外の世界……!!」
一方でゼロさんたちはといえば、僕たち以上の感動と衝撃で振るえていました。
ゼロさんは目を見開いて景色を見つめ、レイさんは口に手を当てて涙を流して「憧れの都会が……!」とか言っちゃってる。
シファルさんとシューニャさんはなんかつまらなそうな顔をしてる。フリをしてる。
「なんだ、やっと街道か」
「さて、どこへ行こうか」
「「とりあえず、美味しいご飯と綺麗な服、それと娯楽と観光地」」
「復讐心はどこへ行ったんですか?」
四人の様子に思わず口を挟んでしまいました。いや、先日の血反吐を吐くような言葉ってなんだったのさ。
「もちろん、忘れてないよ」
「英気を養うのは大事」
「見聞も必要」
「常識を学ぶ」
「知識を得る」
「「長い復讐の旅になる。だから、やる気と殺る気の維持は大事」」
シファルさんとシューニャさんがさらりと答えた。
二人の姿を見て、これ以上不粋なことを言うのは止めようと前を向く。彼女たちの気持ちは彼女たちの内側ですでに整理されてると判断。
「さて……ここはどこっスかね?」
テグさんはボソリと呟いた言葉。
「近隣に町や村があればええんスけど。もしくは行商人、商隊、傭兵団とか……まぁ人に会えればなんとか……」
「テグさんでもわかりませんか?」
「無理っスよ。そもそもヴァルヴァの里そのものがどこにあるかわかんねぇんスから。目の前の景色だけじゃ、オイラでも現在地はわからんス」
お手上げっス、とテグさんはお手上げ状態。僕も困ったな、と眉を顰める。
現在地がわからないまま、方角も定まらないまま歩き回るのは遭難と変わりません。
どうすれば、と悩む。
「ともかく、もう一度高所から周辺の地理の確認をしてもらった方がいい」
「そうですね、リルさん。『ゼロさん、いいですか?』」
『なんだ?』
『僕たちではここがどこかわかりません。木に登って、周辺に何があるか見てもらえませんか?』
『わかった』
ゼロさんはスルスルと木に登り始めた。
「さて」
僕は振り向いて呟く。
「また、旅立ちだなぁ。クウガさん、元気にしてるといいけど」