後日談、そうだ。君に会いに行くとしよう
僕ことシュリは、黙々と森の中を歩き続ける。夜通し歩き続け、息を切らして肩で大きく呼吸する。
数年ぶりに里の外に出るってことでワクワクはするんだけど、同時に不安にもなりますね。外はどうなってるのか? 僕が死んでると思われていて何が変わったのかと。
まぁ、そこまで変化は……あるか。ガングレイブさんの元からテグさんとリルさんが離れてるくらいなので、大きく変わってる可能性は否めない。
とか、いろいろグダグダ考えてないと、森の中を歩くのがキツすぎる……!
「はぁ……! はぁ……!」
「大丈夫、シュリ?」
僕の隣で気遣いの言葉を掛けてくれるのはリルさんだ。木々の間から降り注ぐ木漏れ日に照らされているリルさんは、どことなく美人さがマシマシになっている。
……あー、いや。久しぶりに会ったことと、恋人になったことで補正が掛かってるんでしょうね。それは事実です。認めます。
心なしかリルさんとの距離も近くなっている気がしないでもない。いや、気のせいじゃない。物理的に距離が近い。
「大丈夫、です。リルさん」
「そう。肩ならいつでも貸すから」
「ありがとう、ございます」
いつもの無表情なリルさんだけども、雰囲気がかなり優しく感じる。
これが、これが恋人効果かと感動してる。年齢がそのまま恋人がいない歴だった僕にとって、これほどの人間関係というか相手との関係性が変わるのは、驚きの連続です。
そんな僕とリルさんの様子を見て、大きく咳払いをする人が。
「あー、あー。オイラは邪魔っスかねぇ」
拗ねた様子を見せながら、肩をすくめるテグさん。
テグさんは先頭に立って、周囲の警戒と藪の切り払いをしてくれてます。こちらを見ることなく呆れた様子を見せるので、僕も軽口で返す。
「邪魔じゃないですよ。ただ、イチャつくときはアレですがね」
「かぁー、シュリも言うようになったっスねぇ! 恋人できたらこんなもんスか!」
テグさんからの嫉妬の声。だけど、そこにはどことなく祝福してくれてる様子が見える。こういうところがテグさんの良いところなんですよねぇ、この人。口ではなんと言おうと、人の幸せを侮辱することはないので。
ああ、久しぶりのこの感覚。とても安らぐ。二人と再会できたんだなぁと感動しますよ、本当に。
僕はテグさんが切り開いて通りやすくなった藪だらけだった道を歩く。空を見れば、すでに太陽は沈み始めていました。昼は過ぎているか。
「それで」
テグさんは、僕とリルさんよりもさらに後ろを見る。
「そいつら、いつまでオイラたちに付いてくるっスか?」
僕とリルさんが振り向くと、そこにはゼロ様、レイ様、シファル様、シューニャ様の四人がいる。
この四人、僕たちが森へ入る段階から一緒に行動しているのです。
なんでかって、なんでだろう。わからない。
僕は疑問を浮かべながら、問いかけました。
『レイ様』
『何?』
『もしかして、このまま僕たちと一緒に来るつもりですか?』
僕がそう聞くと、四人とも黙り込んでしまう。返答はもらえないらしい。
「なんて言ってるっスか?」
「何も答えてくれません。困りました……」
「なんのつもりで来てるんだろう」
リルさんが僕の腕を取って抱きつくと、挑発するようにレイ様を見る。
その顔はとても悪い笑顔だ。レイ様はリルさんを見て舌打ちをした。
けども、それ以上は何も言いません。嫌そうな顔ですが何も言わないしない説明しない。
他の人たちは無反応。ゼロ様はこっちを見てるけど興味なさそうな感じ。
シファル様とシューニャ様は、なんかちらちらと興味深そうにこっちを見てたりしてます。あの目、人のデートを見てキャーキャー言ってるタイプの女性に似てる。
「まぁ、もうここはヴァルヴァの里じゃない。こいつらの奴隷だの決まりだのに従う理由はない。こいつらと一緒にいる理由はない」
ズバッとリルさんが断言する。
「奴隷だの言っても、もうそれを証明する書類もないだろうし、奴隷にできるだけの力もない。シュリを押さえつけるだけのものがもうない。だから、リルはさっさとシュリとテグと一緒に帰るだけ」
リルさんはそういうと、僕の腕を取ったまま歩きを速くしました。
ああ、恋人に腕を引っ張られて歩く感覚ってこういうことなんだぁ……と感動してます。
テグさんがチッ! と舌打ちしますが気にしません。
結局、その後もゼロ様たちが付いてきていました。
その夜、まだ森の中を突破できてない状況。
空には月が浮かび、木々の間からギリギリ光が届くような暗闇。
森の奥を見ることができず、もはや闇だけがそこにある状態。
少しだけ開けたところで、僕たちは焚き火をして野営をしています。
僕は木に寄りかかって、リルさんはその隣に座って何かをいじっている。なんか短剣に細工を施してる。
テグさんは弓矢の調整を。余裕そうな顔をしてますが、周囲の監視はすると申し出てくれてるので油断はしてないのでしょう。
そしてゼロ様たちは、焚き火の周りを囲って黙って火を見ている。
「じゃあシュリ」
誰も喋らない空間で、リルさんが短剣をいじりながら言いました。
「そいつらに、何しに付いてくるのか聞いて」
「今っ?」
なんてことを聞いてくるんだ、リルさんは。テグさんは何も言わずにゼロ様たちを見てるだけ。
僕が嫌そうにしていると、リルさんは僕の肩を軽く小突いてくる。
「シュリしか言葉が通じないんだから仕方が無い。さっさとやって」
「聞きにくいです。気まずいです」
「こいつらの狙いがわからないと、シュリを守れない。嘘でもなんでもいい、答えを聞きたい。そこからこいつらの態度と声色から、狙いを推測したい。話す姿勢だけでもさせて」
「そんなプロファイリングみたいな……」
要するに、話した内容よりも話す態度で相手の真意を測ろうとしているってことでしょ? そんな凄い技術を持っていたのか……。
しかしリルさんの言い分もわかる。ゼロ様たちが何を考えてるのかわからない。
ここで確認をしておかないと、後が怖い。
ゼロ様たちは、ヴァルヴァの民だ。
暗殺者であり、今回において里を襲撃されている。
こういう人たちは報復活動をする……みたいな想像をしていましたがどうなのでしょう、何をしようとしているのか。
『レイ様。失礼な話かと思いますが……あなた方は、あの襲撃者たちに対して報復を行わないのですか?』
『するに決まってる! あいつらは、レイからヨンを奪った! 報復は決定事項だ!』
突然、レイ様が叫びながら地面を殴りつけた。
唐突に感情を爆発させた様子に、僕とリルさんとテグさんは驚く。今までの旅路の中どころか里の中でも静かな人だったので、この変化には戸惑う。
そしてそれは、レイ様だけではなかった。
次にゼロ様が俯きながらも眉間に深いシワを刻むようにしかめさせ、拳を強く握りしめている。
『ああ、ああ。許せるものかよ。許してたまるものかよ!! 俺たちの故郷を、俺たちの仲間を家族を! 殺しやがったグランエンドの奴らは許せねぇ!!
ヴァルヴァの誇りを守るため、必ずあいつらを一人残らずぶっ殺してやる!!』
ゼロ様の慟哭に僕は引いてしまう。この人の怒り、憎しみ、悲しみを目の前にするだけで背筋が凍るほどだ。
それに対してシファル様とシューニャ様は冷淡だ。二人して空の月を見上げながら、溜め息を吐いていた。同じような動作をするのは双子特有のそれかな? とか思う。
『あちしは別に、怒りとかはないかな』
『あたしもないかな。ヴァルヴァのみんなだって殺し殺されて生きてきた』
『今更里を襲われたからって、あんまり感情は爆発するようなこともない』
『だけどなー、シファル』
『だけどなー、シューニャ』
二人は同時に僕の目を見た。
冷たい、光がない暗闇のような瞳。空虚、よりも闇そのもの、真っ黒な何か。
そうとしか形容できないものが、そこにあった。
『『あちしたちはヴァルヴァだ。ヴァルヴァの誇りを守るため、襲撃者には相応の報復を行わなければいけない』』
そのあまりにあんまりな黒さに、リルさんとテグさんが思わず身構えるほど。
僕自身も背筋が凍り、直視した目線を外すことすらできなくなるほどでした。
こんな、こんな心の闇が、この人たちの心の中にあったのか……!!
なのですが、唐突に四人とも落ち込んだ様子を見せる。
『けど、レイは外の世界に出た事ない』
『『あちしたちも』』
『俺もだ。まだ任務を任せられるまでになってなかったから、外のことが何もわからないんだ』
……あ、そういうことか。
僕はようやくこの人たちが付いてくるのかがわかり、納得して手をポンと叩きました。
「シュリ、この人たちは何を言ってるの?」
リルさんが聞いてくるので、僕は腕を組んで言いました。
「まずこの人たちは、ヴァルヴァの里を襲われたことを怒ってます。必ず報復する、と」
「当然かな。リルでもそうする」
「テグさんが戦った人……ヨンは、そこの少女の婚約者でした。えと、レイ、という方でして、互いに愛し合っていました。グランエンドの行動が、ヨンを暴走させたとみて怒り狂ってます」
「そうだったんスね……。ちょっと可哀想」
と、話した内容をかいつまんで話してから、リルさんとテグさんの反応を確認し続ける。
「で、報復しようにも外の世界に出た事がないそうです」
「ふーん……うん? リルたちと一緒にいるのって……」
「まぁ、そういうことです」
この人たちが一緒にいるのは単純に、
「外の世界に出た事ないから、僕たちに案内して欲しい。それと外のことがわかるまでいろいろと世話をしてほしい、でしょう」
外での生活能力がないってことです。
いや、ゼロ様たちは普通に畑仕事するし、暗殺のための技を稽古するし、獣を狩ることもあるし、仕事から帰った人の話を聞いて知識を得てたりするよ。そこら辺の常識はある。
だけどこの四人、一言で言うならお上りさんなのだ。ちょっと違うけど。
外の世界に出た事なく、知識でしか頭の中にないから不安なのです。
なので、僕たちに付いてくるのが一番効率的だった、と。
「……それ、ヴァルヴァとしてどうなんス?」
「本来ならそこも含めて教えてもらえるはずだったかもしれません。でも、その前に里がああなったので……」
「なるほど……」
テグさんはこう、なんというか、不出来だけど可愛い弟妹を見るような目でゼロ様たちを見ていました。うん、そういう目になるよね。
しかしそうなると、どうしたものか。ここで放り出すのは、世話になった僕としては絶対にしたくない。恩を仇で返すのは人として間違ってる。奴隷という身分ではあったけど、想像するような奴隷に対する酷い扱いは一つもなかった。
どちらかと言えば、雇われの家政婦、みたいな。
同時に考えると、この人たちをこのまま旅の一行として加えるのも不安なのです。
この人たちを、ゼロ様たちを一言で表すなら「抑えられないアサシン」でしょう。
ヴァルヴァとして、暗殺者として、その生き方の誇りからヴァルヴァの民としての生き方を曲げられない。その思いがどんな形で暴走するのかわからないから、怖いのです。
どうしたものか、と僕は腕を組んだままさらに悩む。
そこにリルさんが僕の顔を覗き込んでから言った。
「シュリ、翻訳して」
え、と聞く間もなくリルさんは四人に近づいた。テグさんが自然とリルさんの後ろに立つ。
護衛のつもりなのか、それとも別の狙いがあるのか? と考える暇もなくリルさんが口を開いた。
「まず、お前たちが付いてくるのは構わない」
僕が了承する間もなくリルさんが話し始めるので、慌ててしまいましたよ本当に。
でも通訳なんてどうすればいいのかわからない。ヴァルヴァの人たちの言葉とリルさんたちと話す言葉の使い分けなんて、意識したことがないのです。
ええいままよ、と僕はリルさんから聞いた言葉を、レイ様たちへ言う。
頼む、自動翻訳!
『そうか』
リルさんから聞いた言葉をそのまま言うと、ゼロ様が短く答える。
良かった、どうやら伝わったらしい。
こころなしかゼロ様たちの顔に安堵の色が見えた。そらそうだろう、心細かったのかもしれない。
「だけど、リルたちの条件を聞いてもらう」
『なんだとっ?』
リルさんの言葉に、レイ様が目を鋭くして睨む。二人の言葉を伝えながら、僕は心臓がバクバクですよ本当に! 怖いんだこれが!
『レイたちに条件だと? 調子に乗るな、レイたちが本気になればお前たちは』
『『待った待った、レイ、待って』』
レイ様がヒートアップしてきたところで、シファル様とシューニャ様がおどけた様子で止めました。これ以上致命的な言葉を言わせないためでしょう。
そしてシファル様が僕に言った。
『ヌル、いや、シュリ。ちょっと通訳止めて』
「あ、はい」
思わず了承してしまった僕。
「……シュリ、今のは?」
「通訳を止めて欲しいそうです。秘密の話が」
「……まぁ、シュリはわかるし、いいか」
リルさんは不服そうな顔をしますが、どのみち僕はわかるだろうからと了承。僕はシファル様へ頷くと、シファル様はレイ様と話し出す。
『レイ、いくらなんでもそれはないよー』
『あちしたちは今、交渉してる立場。いきなり暴力での解決はダメだよー』
『だけど!』
『『暴力を使うのは最終手段。まだ使うときじゃない。まだ言葉でなんとかなる』』
怖い。中身はめちゃくちゃ物騒すぎて背筋に汗が流れるようです。
これ、リルさんに言いたい。物騒なもんで一人で抱えてられない。
その後もシファル様とシューニャ様は、何かと暴力の使いどころとか脅しの仕方とかを話し合ってる。これ、交渉方法の整理じゃなくて恫喝の計画を立てるようにしか見えないんですよ。
シファル様とシューニャ様とレイ様。この三人による話し合いは続いている。
けども、そこにゼロ様が割って入ってくる。
『シュリ、訳してくれ。そちらの条件を聞きたいと』
『ゼロ様?』
『あっちの女三人は無視して良い。話にならん』
『あ、はい』
だよね。ゼロ様の言うとおりだわ。あっちの三人、どうやって暴力的に話を進めるか話してないもん。
僕はリルさんにそれを伝えると、呆れた様子でゼロさんと向かい合う。
「じゃあ話す」
『言ってくれ』
「条件は三つ」
『……まぁ、内容を聞こうか』
一瞬、ゼロ様の目に殺意が宿った気がしたが間違いではないだろなー。
だけどゼロ様は理性的に怒りを抑え、話をしようと冷静になってる。
「一つ。シュリの奴隷身分から解放してほしい」
『良いだろう。レイには言い含めておく』
「……いいの? シュリはレイとやらの奴隷だったのでは?」
『そもそも俺たちに、今のシュリを奴隷にするだけの力はない。それをしようとしたなら、リルとテグの二人と争いになるだろう。そうなったら、外のことなんて何も知らない俺たちは野垂れ死ぬ可能性がある。武力はあれども知識面ではそちらに頼らざるを得ない。
レイにはよくよく言い聞かせて解消させる。保証する。任せてくれ』
ゼロ様は淡々と言い切った。案外この人にとって、この程度の条件なら安いと思ってるのかもしれない。
「二つ。シュリがお前たちを呼ぶとの様付け、これを止めさせろ」
『いいだろう。これも奴隷から解放されれば当然のこと、主人と奴隷ではなくなる。そこにあるのは関係を築くべき相手だ。敬意を払うのは当然のこと』
これも淡々と言い切る。ありがたい……ことではあるが、ヴァルヴァの里で世話になってたのは事実で恩は感じてる。奴隷身分、というかまぁ家政婦身分が染みついている。
なのでここでいきなり様抜きで良いよ! とか言われても慣れるまで時間がかかりそうだなと、心の中だけで思っておく僕だった。
そしてリルさんは最後に、目を細めてから言った。
「三つ。そちらの立場を今ここで表明しろ」
この言葉に、ゼロ様の顔が無表情になった。
……この条件はどういうこと? 僕にはよくわからない。
テグさんの方を見ても、テグさんは何も言わない。僕の方を見て微笑み、静かにするようにジェスチャーをするだけ。
『……ここでか?』
「大事なことだ。そっちがどういう立場でこれから一緒にいるつもりなのか。
ここで言え」
『……ちょっと待て』
そこでゼロ様は未だ喧々諤々と話し合うレイ様のところへ。
三人に話しかけ、リルさんのことを話し、憤りを見せ、ゼロ様が冷静に諭している。
……僕にも聞こえないほどの小さな声で話している。警戒心が強くなったってことか。
少しして話し合いが終わり、ゼロ様は言った。
『……俺たちだけではグランエンドへの報復はできない』
「当然。四人の子供だけで、国を滅ぼすことなんて無理」
『そうだ。だから、援助がいる』
「援助、か」
リルさんはハっ、と呆れたような笑い方をして煽る煽る。ゼロ様のこめかみに青筋が浮かぶほどですよ。止めて、怖い。
「まぁ、そうだな。それで?」
『俺たちは、お前たちに援助を頼みたい。グランエンドへの報復を果たすための協力者、という立場でいたい』
「いいんじゃない?」
「ま、それでええっスね」
ゼロ様の言葉に、案外あっさりと了承したリルさんとテグさん。
この質問になんの意味があったのか、他の条件と一緒に並べる意味があったのか。
この時点で僕には理解できてませんでしたので、ぽかーんとするだけ。
リルさんは一連の話で納得したのか、一言だけ。
「じゃ、それで宜しく」
『ああ、了承した』
「ということでシュリ、今度からこの人たちに様付けをしたり、変にへりくだって接することはもうしなくていいよ」
「えっ」
リルさんの言葉に僕は戸惑いながらレイ様……いや、レイさんへ話しかける。
『ということなので……宜しくお願いします、レイ、さん』
『条件は飲んだ。だから、気まずくする必要はない』
レイさんはあっさりと了承し、そっぽを向きます。
意外とあっさりしてる。それで良いのだろうか……。
「じゃあ、これからの行動方針を話しとく」
と、ここでリルさんが僕たち全員の顔を見て言いました。
唐突に始まった真剣な話。僕も驚くし、ゼロさんたちの目にも真剣な光が宿る。
「行動方針と言いますと?」
「まず、このまま真っ直ぐガングレイブの方へは行かない。寄り道をする」
「え?」
てっきりこのまま真っ直ぐアプラーダへ行くのだと思ってましたが、どうやら違うようです。
テグさんは納得してるような顔をして座り込み、難しそうな顔をして顎を撫でる。
「そうっスね。このまま真っ直ぐガングレイブの元に戻るには、いくつか問題があるっス」
「問題ってなんです、テグさん」
「まずクウガも出奔してるっス。あのバカを回収しないといけないっス」
「え、クウガさんも?」
「……まぁ、あいつもシュリを守れなかったことを苦しんで出てったから、気持ちはわかるっス」
ああ、そういう話に繋がるのですね。クウガさん、あのとき僕を助けるために戦って……でもあの結果になったから。
テグさんも辛そうな顔をする。僕も辛い。誰もが辛い結果だった。
でも責任はこの場にいる誰にもない。それは、間違いありません。
全てはグランエンドのせいってことで。うん、そうしよう。僕は心の中で結論付けて、顔にはおくびにも出さないようにしておきます。
『シュリ、通訳宜しく』
『あ、すみません』
ここでレイさんに文句を言われたので、通訳も同時にしておく。
「次に、今までの国との関係が良くない」
「良くない?」
「ガングレイブはグランエンドとの戦争に備えて、お金を稼いでる。かなり汚い手段を使ってると聞いた。それを止めないといけない。周辺に敵を抱えた状態で戦争なんて、滅びるしかない」
ガングレイブさん……僕は悲しい顔をして、俯く。長い間会えてない、恩人の顔。
僕がいないことで、あの人も壊れたのか。
いや、まだなんとかなるはずだ。
「だからクウガの回収とガングレイブの阿漕で汚い商売の動きを止める。それをしてから、ガングレイブが起こそうとしている戦争を止めるためにアプラーダに行く。
こうしないといけない」
「そうでしたか……」
……帰るまでにはまだまだ時間が掛かりそうで目眩がしそうでした。
でも、前とは違う。ヴァルヴァに居た頃、記憶がなかった頃とは違う。必ず帰れるんだ。
やる価値は、ある。
「じゃあ、まずは」
「まずはクウガさんに会いに行きましょうか」
「……そう」
リルさんが何か言いかけましたが、僕の言葉に同意してくれた。
優しい笑みを浮かべ、空を見上げるリルさん。
テグさんもまた、懐かしそうな笑みを浮かべて目を伏せる。
ゼロさんたちも、僕たちの様子から次の行く先がクウガさんのいるところと悟ってくれたようで、黙っている。詳しいことは後で聞いてくるでしょうが。
僕は空を見上げる。そして、静かに呟いた。
「そうだ。クウガさん。会いに行きますよ」
ねぇ、クウガさん。再会としましょうか。