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傭兵団の料理番  作者: 川井 昂
二章・僕とリルさん
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四十九、また会った『君』と、

 鍛錬場へ続く坂を上り、僕は息を切らしながら走る。

 長い悪夢を見ていた。長い間呻きながら眠っていたような。

 それが晴れ晴れとした感覚が、僕の全身を包んでいるようでした。


「はぁ……ふぅ……」


 坂を登り切り、息を切らして膝を曲げ俯く。再会の喜びを抑えきれず、いつもよりも激しく動いたせいでしょう。

 それだけでなく、気を失って寝ていたからだろうなとも思ってる。


「さて」


 背筋と膝を伸ばして顔を上げ、僕は鍛錬場を遮る柵の扉を開く。

 中に入ると、ちょうどレイ様とゼロ様とヨン様が、帰り支度を終えて帰ろうとしていました。

 そういえば鍛錬は終わってたんだっけ。レイ様が僕の姿を見ると、笑顔で駆け寄ってきた。


『ヌル! 目を覚ましたのか!』

『はいレイ様。心配をおかけしました』

『……?』


 だけど、レイ様は怪訝な顔をして、僕を頭の天辺から足のつま先までをジロジロと見てきました。

 そして、警戒心を隠そうともせずに言ったのです。


『本当にヌル? お前』


 レイ様の言葉に、僕はドキッとした。

 確かに僕はヌルと呼ばれていた。だけど、本当は東朱里だ。

 記憶喪失していた時期と、東朱里であった本来が重なって、今の姿になってる感じです。

 だからレイ様が疑問に思うのは無理もないと思う。


『はい、ヌルですよレイ様。間違いなく』

『そうだぞレイ、何を言ってるんだ』


 そんなレイ様に、ゼロ様がやれやれと首を振っていました、


『ヌルで間違いないだろ。……目が覚めたか、ヌル』

『はいゼロ様。心配をおかけしました』

『全くだ。目が覚めて何よりだったが……お袋殿も心配してたし、親父殿も気にしてない風を装って気にしてたからな。医者からは何やら衝撃があって気を失ったって言われたが……何があった?』


 再びドキッとなった。ゼロ様の言葉は正しい、急速に記憶が戻ったことで頭の処理能力を超えた……とか言えば良いのだろうかね?

 よくわからないけど、まさにそんな感じとしか言いようがない。困ったな。

 ゼロ様の言葉に、僕は苦笑しながら言いました。


『……懐かしい、懐かしいことを思い出した。それだけです』

『……そうか。俺たちは帰るが、お前も早く帰ってこいよ』


 ゼロ様は僕の肩を優しく叩くと、耳元に口を寄せてきました。


『お前が懐かしいことを思い出させた人物は、この先の森の奥、丘を登ったところにいる』

『ありがとうございます』


 ありがたい。それを教えてもらえるのは助かる。

 ……? 僕はそこで疑問が浮かぶ。

 ゼロ様は、何かを知ってるのか? 僕にそれを言うのは、わかってるからなのか? どういうつもりなんだ?


『ゼロ様、あの』

『思い出しても、お前はヌルだ。いいな』


 ゼロ様はそれだけ言うと、鍛錬場から出て行きました。

 レイ様はもう一度僕の顔をマジマジと観察してから、ゼロ様の後を着いていく。


『早く帰って、ご飯の準備を』


 たった一言だけ残して鍛錬場から出て行く。

 僕が改めて森の奥の崖を目指し、歩を進め――。

 ヨン様とのすれ違いざま、言われた。


『俺にとって仮面を外せる相手がレイだ。お前の教えてくれた仮面の使い方は、とても有用だ。とても助かってる。ありがとう。

 だけどお前は……なんというか今ようやく、仮面を外せたような感じだな。

 忘れるな、帰ってくる場所は間違えるなよ。レイを見捨てることは許さん』


 思わず振り向きヨン様を見るが、ヨン様はさっさと鍛錬場を出て行ってしまった。

 立ち止まってしまったが、歩みを止めるわけにはいかない。

 森を歩き、僕は丘に辿り着く。周りを見て、僕でも上がれる坂が遠くに見えた。

 そこから丘を息を切らしながら登り切り、立った。

 ここは、集落を一望できる場所だった。

 そして、居た。


 会いたい人が、丘の崖際に座って、ぼんやりとしていた。

 青い髪を風に靡かせて。

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