四十九、目覚めた『僕』と、
「……ここは?」
その日、僕は見知った天井が視界に映ったことで、目が覚めたことを知った。
なんだか頭がふわふわする。良くわからないけど、長い間寝ていた感覚だ。
体を起こすと、見覚えのある家の中で布団を敷いてもらって寝ていたみたい。
家の中は掃除されているものの、少し手が届いてないところもある。
「……えっと、なんだっけ、何か思い出したような」
僕は視線を泳がせてみるが、何か思い出そうとしていた感覚はあった。
必死に思い出そうとする。そうだ、あのとき、青い髪の女の子が――。
「っ! いってぇ!!」
瞬間、頭に凄まじい頭痛が襲う。頭を抱えて布団の上に倒れ、悶える。
溢れてくる、数年分の記憶による走馬灯のような、記憶の濁流。
何もかもが頭の中に溢れ、溢れ、溢れて溢れ、溢れ。
「……そうだ」
ようやく思い出した。何もかもを、思い出した。
「ボくは、違う僕は」
消えていた自分と今の自分が重なって、ようやく本来の僕に戻ったような清々しさで立ち上がり、天井を見上げた。
「僕はヌルじゃない。僕は、東朱里だ」
僕はようやく僕を取り戻した。
どうも皆さん、朱里です。なんか、この口上も酷く久しぶりな感じがする。
どうしてここにいるのかも、ようやく記憶が繋がった。どうしてこんなことになってるのか、ようやく記憶に整合性がとれてきた。
そうだ、僕はあの砦で刺されて、爆発に巻き込まれて砦から投げ出されて、崖から落ちて川に落ちて、最後に頭を打った。
流されて、それでレイ様たちに会ったんだ。
「そうか……そんな感じなんだな」
僕は落ち着いて、布団の上にあぐらをかいて座って整理していた。
「……リルさんに、久しぶりに会えたな」
あのときはあまりの衝撃に、意識が飛ぶほどの頭痛に襲われてそのままだった。
なんとかして会えないかな、リルさんに。
「……よし、会いに行こう」
僕は立ち上がり、居間から土間に下りて靴を履き、外に出る。
日差しが空の真上まで昇り、今日も良い天気だ。雲一つ無い。風が心地よい。
振り返ってみると、どうやら僕はレイ様たちの家に寝させてもらっていたらしい。悪いことをしたな。後でお礼を言っておこう。
家の前にある坂を下りて、集落の中心へ向かう。その間、畑作をする人たちが目に入った。一応に驚いてたけど、挨拶を交わしてくれる。
どれだけ寝てたんだろう。一晩ほどかな?
「あー……なんか、凄く目覚めが良い」
数年分寝て、数年分の疲れが一気に吹き飛んだ気分だ。清々しい、とても。
さて……リルさんに会いに行こうとは思ったがどこに行けば良いのやら?
「……あの場所に行ってみるか」
リルさんと再会した場所に。
あの場所へ足を運んでみると、あのときの再会が嘘のように何も変わってなかった。家の様子も何もかも。当たり前だけど。
『お、ヌルじゃーん!』
呼ばれた声に振り向くと、そこにはシファル様とシューニャ様の姿が。
どうやら鍛錬が終わった帰りらしい。もうそんな時間か。
『目が覚めたのかー! あちしたち心配したんだぞ!』
シューニャ様は僕の肩を優しく叩きながら、頬を突いてくる。
『全く、一昼夜寝てるとか心配したぞ! あちしたちが駆けつけて守ったおかげだな!』
『そうだな、あちしとシューニャのおかげだな! 今度ちゃんと、お礼をしろよ?』
『そうだったんですか、ありがとうございました』
……? なんか話す言葉に若干の違和感が?
『あの、駆けつけて守ったと仰いましたが……その、あのときの女性はどちらへ?』
僕はその違和感を無視して聞くと、二人とも苦い顔をした。
『あいつは、里長に一度だけは許すと言われて、今日は鍛錬場であちしたちに魔工を教えてくれたよ』
『というかあちしたち……レイもゼロもヨンも全員、魔法も魔工も使えないからな。対処法だけだな。明日からは適性者を探して、いろいろと教えてもらうことになってる』
『ありがとうございます! このお礼はまた今度!』
そうか、鍛錬場にいるのか! 僕は思わず走っていた。
後ろでシファル様とシューニャ様が『あ、こら! 今度腹一杯バウムクーヘンを作ってくれよなー!』と叫んでいるけど、僕は手を上げて返事する。
ようやく、会えるのか! ようやく、ようやく!




