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傭兵団の料理番  作者: 川井 昂
序章・僕と傭兵団
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六、みんなでおでん・前編

 元気になっても忙しさは変わらず。

 ですが前よりも意欲的に働けております。

 大切な家族や仲間がいるこの居場所を。

 大切にしたいと思うようになりました。

 

 シュリです。

 風邪から治った僕に待っていたのは、みんなからのご飯の催促と回復の激励でした。

 あるものは「お前がいないと飯が不味くて辛い」とぼやき、

 あるものは「無事でよかった。もう病気にならないように気をつけろよ」と心配してくれます。

 そして、洗い場を見れば積み上げられた皿と、

 何かよくわからない残飯が残ってました。

 料理をしようとして、失敗して、やむを得ず捨ててるみたいです。

 近づいただけで、鼻がひん曲がりそうでした。

 腐ってて臭い。


「ガングレイブさん。食料の無駄遣いはよろしくないのでは?」

「まったくだ……あいつらにもちゃんと言っとく」


 ばつが悪そうなガングレイブさん。

 どうやら部下の暴走を止められなかったようです。


「これなんてクリームシチューを作ろうとして、茶色にまで焦がしてるじゃないですか」

「どっちかと言うと黒だな」

「やめてくださいね、こういうこと」

「ああ、やめさせる」

「ガングレイブさん、そう言って逃げようとしても無駄ですよ。

 リルさんなんてハンバーグ作ろうとしてミンチ炒めになってます。しかも味がない。

 クウガさんはアジフライ作ろうとしてやけどしたと聞いてます。魚なんてメッタ斬りにしてるのでどっちかというとつみれ揚げです。

 アーリウスさんは昆布入れてないからただの茹でた豆腐です。味気ないです。

 そしてガングレイブさん。このクリームシチュー、あなたがつくろうとしましたね。それも部下のせいにしようとして根回ししてたの、知ってます」


 誤魔化しなんてさせません。

 リルさんにハンバーグを作る約束をして情報を仕入れました。

 みなさんの悪行全て把握してますよ!


「まあ……明日の晩には特別な料理を作りますよ」

「なに? 特別?」

「なんで今日は節約のために、バツとして料理は作っても量は少ないです」

「お前の料理の味で……久しぶりで……量が少ない……だと?」


 ちょっと絶望してますガングレイブさん。

 仕方ありません。人が寝ている間に食料をポイするのは重罪です。

 無論、生きるために料理をすることは責めません。

 ですが、作って失敗したからといって捨ててそのまま腐らせるなんて、論外です。


 結局、僕は食事の量を少なめにして1日目を終えました。

 他のみんなから非難囂々(ひなんごうごう)でしたが、みんながした食料の無駄遣いを言ったら大人しくなりました。

 やはり、食材の力は偉大ですね。

 で、二日目の夜になりました。

 準備のために何人かに手伝ってもらって、それぞれ何十人かの集まりを作ってもらいました。


「で、シュリ。何をするつもりなんスか?」


 この卓には、僕と、ガングレイブさん、リルさん、クウガさん、アーリウスさん、テグさんに集まってもらいました。

 隊長格のみなさんと、あとは適当なもの同士を寄せ集めて。

 急遽リルさんにコンロを十数枚作ってもらい、鍋をかき集めてこの会を開きました。


「いえ、みなさんには風邪になった時に世話になりましたので、改めて礼をと」

「水臭いですね。私たちは遠慮する仲ではありませんよ」


 アーリウスさんの気遣いはありがたいけど、ちょっと違います。


「僕の国の言葉に、『親しき仲にも礼儀有り』という言葉があります。

 たとえ親しいもの同士でも、相手を思いやる礼儀を忘れてはならないという言葉です。

 なので、そのお礼はきちんとしたいと思います」

「それが、この料理言うんか? 今までのとどう違うんじゃ?」


 ふふふ、それは蓋を開けてのお楽しみ。


「これは鍋料理です」

「湯豆腐のような、ですか?」

「いえ、あれよりもコッテリです。こちらになります! みなさん、蓋を開けて見てくださいよ!」


 蓋を開ければ、そこには懐かしき家庭の味。

 おでんです。

 食材は焼き豆腐、卵、大根、ちくわ、はんぺん、すじ肉、ソーセージとなってます。

 我が家のおでんはもちっと材料が入ってますけど、まあここでは精々これが精一杯。


「これは、トーフですか? 湯豆腐よりもしっかりしてて持てますね……」

「卵か、なるほど豪盛っスね。味がしみてるのか、色が染まってるっス」


 他の台からも期待の声が上がってますね。

 この日のために作り、何十個とある鍋を管理しながら煮込むこと1日。

 全ての食材におでんの味がさぞしみていることでしょう。

 すじ肉なんて柔らかくなってますからね。


「よし、じゃあお前ら、食っていいぞ!」


 おおー!! と兵隊さんたちが声をあげて鍋をつつき始めました。


「じゃあ僕らも。みなさん、どうぞ」

「あ、じゃあオイラはソーセージもらうっス」

「ワイはこのちくわ? とかいうのを」

「私は焼きドーフをもらいます」

「……卵」

「俺はこの肉だな。これなんの肉だ?」

「すじ肉です」

「は? あの固くて食えたもんじゃねえやつか?」

「食べてみてくださいよ。驚くこと間違いなしです」


 みなさんそれぞれ好みの具を取って食べ始めました。

 じゃ、僕ははんぺんから貰いましょうかね。

 ちなみにちくわといった加工食品は、リルさんの協力のもと作りました。

 苦労した分、やはり美味しい。


「卵、ほくほく」


 リルさんは卵の白身と黄身を一緒に食べながら、幸せそうです。


「このちくわとかいうの、魚の味がするやんな。不思議な味やわ」


 クウガさんはちくわに夢中です。

 ちなみに、穴にはごぼうを詰めて食感を楽しませるようにしました。


「焼きドーフは湯ドーフと違って、しっかり形が残ってて食べごたえがありますね」


 アーリウスさんは上品に焼き豆腐を食べてます。


「このソーセージ、ポトフとはまた違う感じっスね。大根と一緒に食べると、さらに旨いっス!」


 ソーセージと大根をあわせて食べながら頷いているのはテグさんです。


「馬鹿な……これがすじ肉だと? 固くねえ。柔らかい。口の中で噛むのが楽だし、噛みごたえもいい。味も最高だ」


 すじ肉の素晴らしさに、ガングレイブさんは驚きを隠せていません。

 他の台からも旨いとか美味しいとか聞こえます。嬉しいですね。こんな言葉を聞くと。


 せっかくなので、ガングレイブさんが酒を解禁しました。

 みんな嬉しそうに酒を飲んでおでんを食べて、語らっています。


「やっぱり、この団はいいとこです。

 僕、この団に拾ってもらって幸せです」


 家族と仲間。

 そのどちらもこの団にはあります。

 他の団に拾われてたら、多分こんなことにはなっていないでしょう。

 それこそ大変なことになってたに違いありません。

 だから、これは今までの恩返しです。

 そして、これからのよろしくなのです。


「シュリ、これからもここで飯を作ってくれるか?」

「はい。辞めさせられるまでずっと。故郷への思いはありますけど、僕の居場所はここですから」

「そうか。よし」


 ガングレイブさんは酒を一気に飲むと、みんなの顔を見ました。


「俺は、俺の目標はこの大陸全部をまとめる国を作って王になる。

 付き合ってもらうぞ。シュリ」

「はい、ガングレイブさん」

「じゃあ、リルも」


 リルは卵を食べる手を止めました。


「リルは、魔工の技術を、その国で平和利用する。今度は、シュリに作ったような日常用品を作ったりとか、いろんな人に魔工を伝えたい。

 学校とか、作って」

「じゃあワイは国の大将軍や。世界最強の剣豪になって、ワイの技を未来永劫残したる」

「私は、リルと同じく魔法の学校を作りたいですね。貴族しか通えない学校じゃなくて、いろんな人を募集して、門徒を募集しますね。あと、良い奥さんにもなりたいです」

「オイラは国ができて平和になったらいろんな場所を巡って、本にまとめるんス。大陸を制覇したら海も制覇するっスよ!」


 いつの間にかみんな夢を語ってます。

 酒が入った影響でしょうかね。

 でも、回りの兵隊さんも茶化す人は誰もいません。

 むしろ、そうなったらいいなと言ってます。


「じゃあ、僕はみんなの夢の手伝いをしますよ」


 もちろん、僕もその一人です。

 みんなの夢が叶うところ、見てみたいです。


「美味しい料理を作り続ける人になります」


 僕はきっと、この団から離れられないです。

 ここが、僕の居場所ですから。

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