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傭兵団の料理番  作者: 川井 昂
一章・ボくと暗殺一家
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四十八、君は確かにそこにいた・終

『ヌル!?』


 私ことスィフィルは驚きのあまり、その場に倒れてしまった我が家の奴隷を……使用人のヌルを抱き上げていた。白目を剥き、口からは呻き声が聞こえてくる。

 これは非情にマズい状況だ! 医者に診せないとどうにもならない! 私は慌ててヌルを背中に担いだ。


「×××!!」


 それに対して、おそらく“外”からの客人として招かれただろう少女が、私に近寄ってくる。必死の形相だ。その手をヌルに向かって伸ばしてきていた。

 しかし私はヌルを両肩に担ぎ直して、片手を空けられるようにする。残った片手で少女に向かって牽制のつもりで手を伸ばした。

 少女は泣きそうな顔をして私の間合いから入ってこない。少女が何のつもりでうちの使用人に用事があるのかわからないが、なんだか近づけてはならないと頭の中で警鐘が鳴る。


『ごめんなさいね。私にはあなたの言葉がわからないの。何が言いたいのか何をしたいのかよくわからないわ』

「×××! ××××××!! ×××××××××××っ!!」


 私がそう言うけども、少女には当たり前だが言葉が通じない。仕方が無いわ、この里と外では言語が違うのだから。

 私は溜め息を吐きたい気分を抑え、少女から一歩距離を離れる。


『でもね、この子はうちの大事な一員なの。そう簡単に近寄らせるつもりはないのよ』

「××××××っ!!!」


 とうとうしびれを切らしたのか、少女は私に向かって突っ込んでくる。

 ――なんのつもりか知らないけど、向かってくるなら容赦はしないわ。私は少女が伸ばしてくる腕を掴む。

 そして体捌きと腕の捻りを加え、少女を地面に投げ飛ばした。

 だが少女はすぐに体勢を取り直して受け身を取り、すぐに立ち上がる。なるほど客人として招かれるくらいには、受け身の技術はあるらしい。

 けど、この子は体術の心得はそんなにないみたい。事実、さっきの突っ込みには全く体術のそれが感じられなかった。

 どうする? どうやらこの子の目的はヌルらしい。けど、ここで渡せばどうなるかわからない。

 そもそもこの子とヌルはどういう関係なの? どうしてヌルに用事があるのか?

 何もわからなさすぎて困るけど、今はヌルの安全を確保するのが一番だろう。


『あなたの暴挙に、私は目を瞑るわ。だからこの場は引いてくれない?』


 私は手振りも交えて少女に言ってみる。言葉は通じないけど、ここで引いて欲しいってことはわかってもらいたい。

 けど少女は目つきを鋭くし、涙を流しながら身構える。……どうやら、とことんやりたいらしい。

 これは、覚悟しないといけないか。私は目つきを鋭くし、さらに体勢を低くする。ヌルを抱えた状態だからどこまでできるかわからないが、それでもヌルを守るためだ。


『それならとことん付き合うわ。死んでも文句を言わないでね』

「××××××……!」


 少女は袖をまくり、何やら謎の模様が描かれた刺青を露出する。その刺青が明滅し、今にも何かをしそうな雰囲気がある。

 マズい、この少女は魔法師か魔工師だったか。どちらかはわからないし、あんな刺青を使った魔法や魔工は聞いたことがない。だけど、嫌な予感がする。

 長年、この稼業で生き死にの狭間を戦ってきた戦士、予感だ。


『スィフィル様!』

『とおぅ!』


 マズい、と思っていたら家の屋根から誰かが飛び降り、私の前に立った。

 二人の姿を見たとき、私は記憶を探って誰かなのかを思い出す。確かこの子たちは、レイとゼロの友達で、最近だとヌルとも仲良くしてくれていた……。


『シファルちゃんと、シューニャちゃん?』

『そうですスィフィル様!』

『なんだか状況がわからないですけど、あちしたちが助けにきたよ!』


 シファルとシューニャは私の前で身構え、シファルは短剣を両手に、シューニャは投げナイフを指に持てるだけ持って構える。

 心強い、この状況で助けが来るとは。


『ここを頼んで良い? 私はヌルを家に送って医者を呼びたいの。助けは呼んでおくし、それが終わったら私も戻ってくるから』

『もちろんです!』

『ヌルに何かするつもりなのが遠くから見えたから、急いできたので!』


 と、二人で了承してくれたので、私は少女に背中を見せて走り出した。


「××××××!! ×××!! ×××ー!!」


 少女が何か叫ぶが、私にはよくわからなかった。

 ともかく、ここは逃げるが勝ちだ。私はヌルの安全を確保するために、走る。


 しかし、あの少女にとってヌルは何なんだ……?

 もしかして、過去の何かを知ってる、と?

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― 新着の感想 ―
[一言] 続きはいつなんだ...!!
[一言] なお叫んでいた言葉はすべて「ハンバーグ!」である
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