四十八、君は確かにそこにいた・序
『うーむ、今日も良い天気』
皆様どうも、ヌルです。今日はとても良い天気。太陽が燦々と空に浮かび、雲一つない天気なのです。
今日も僕は家事に専念するために、朝ご飯に使った皿を外で洗っているところでした。
『こういう天気なら、掃除洗濯炊事が全部楽で良いんだけどなぁ』
『おーい、ヌルよ』
後ろから声をかけられ、皿を持ったまま立ち上がり振り向きました。
そこには紫煙を燻らせて近づくノーリ様が。
『どういたしました? ノーリ様』
『おう、今日は“外”から客が来るからよ』
『えっ』
ボくは思わず、ノーリ様の言葉に驚いてしまって、皿を落としてしまいました。
木製の皿なので割れないのではありますが、それでも落としてしまっては汚いので、ボくは慌てて皿を拾い上げて土を払いました。
『珍しいですね。“外”から来るのは“鴉”と呼ばれる人だけだと思ってました』
『外の言葉を通訳して仕事を持ってくる役目を担ってるのが“鴉”だからな。そりゃ、外から来るとなったらここは隠れ里もあって、人が来る事なんて滅多にないからな』
『では何故?』
『儂らは、ただ里内だけで武術の鍛錬を行っているわけではない。信頼できる“外”の達人を招き、その技術を学ぶこともある』
へぇ、つまり外部から師匠を招く感じなのですか。
ボくは顎に手を当てて、思案します。
『“外”からいらっしゃる方なら、“外”に合わせた味付けの料理をお出しして、機嫌を取る必要がございますね』
『良くわかってるな。いつもは別のところのもんが食事の世話をしていたのだが、もう爺さんになっちまったうえに亡くなっちまった。だから、お前に頼みたい』
『ボくに、ですか? そんな光栄な役割を?』
『お前なら信用できる。里長にも、儂の推薦と伝えておこう。お前はこれから、料理を作って用意しておけ』
ふむ、なるほど。料理は作っておいたものを食べてもらう感じか。スープのようなものにしておこうかな。そうすれば、鍋を持って行って食器に盛るだけで良さそうだ。
だけど、気になることがあるのでボくは一応、聞いておくことにしました。
『ちなみに、その人が技術を教え終わった後に殺す、とかそういう物騒なことは……』
『こちらの報酬で満足せず、ここの場所を別の国に漏らそうもんなら殺すわな』
『ひぇ』
マジで殺すって目をしてる!
『まあ、過去に数件あっただけで必ず殺すわけではない。里の場所がわからぬように鴉たちは対策をするし、連れてくるときも帰らせるときも目隠しなどはするだろうよ』
『そうですか』
『じゃあ、頼んだぞ』
そのままノーリ様は、煙草を新しく煙管に用意してから去って行きました。
うーん、これから料理を作っておいて、食べてもらう、か。
『いつ頃その人が来るのかわからないけど、まあ作り置いて時間が経ったら味が染みるような、そんな料理で良いか』
試そうと思ってた料理もあることだし、それを使っておくか。
ボくはその日、とりあえず腸詰め肉とじゃがいもを、自作のスープで煮こんだ料理を使っておきました。
さて、残りの仕事をしておこう。