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傭兵団の料理番  作者: 川井 昂
序章・僕と傭兵団
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一、始まりのクリームシチュー・前編

基本的に四コマ小説風に書こうかと。前編はユルく、後編はシリアス、そんな風に書きます。

 僕は料理が好きだ。

 幼い頃、料理を作る母の後ろ姿を見て、美味しい料理で育った僕は、自然と料理に興味を持っていった。

 小学校の三年になってようやく、ちょっとした手伝いをさせてもらえるようになり、中学校になってからは包丁を、高校になったら鍋を握らせてもらった。

 そんな生活をしてたので、高校生の頃には自分で弁当を作るほど上達していた。クラスメイトに弁当の中身を分けることなんて日常茶飯事だった。

 

 なので、高校を卒業して就職して一人暮らしになると、さらに趣味は凝っていく。

 時間にもお金にも余裕ができたから。

 和、洋、中の料理本を買い漁り研究、歴史を勉強して昔の料理を再現したり。

 あまりの没頭ぶりに、建設現場の監督が、


「お前の料理は旨いが、就職先を間違えてるな」


 というほどだった。確かに、何故僕は配管工などやってるのだろうか。

 ただ、母親と父親を心配させまいと無難な就職先を選んだだけ。後悔はない。

 二年過ぎた辺りから、打ち上げは僕が料理を作るようになっていた。社長曰く、


「そこらの料亭より、お前の料理の方が旨いし安い」


 らしい。調理は楽しいので苦ではなかったけども。

 そして二十歳はたちを迎えた買い物の帰り。


 何故か、後ろ手に縄で縛られ、槍と剣を持った男たちに囲まれていた。






「お前は何者だ。何故ここにいる」


 それは僕が知りたいです。

 買い物の帰り、謎の光に巻き込まれたらここにいたんです。

 巻き込まれたときに荷物を落としたみたいで財布も買った食材も、何もない。

 ジーパンと白いTシャツ、それが僕の全財産です。

 HAHAHAHAHA。


「何を笑ってる!」


 おやおや、怒らせたみたいです。

 目の前の人は、僕を鋭い目つきで睨んでいます。

 裸足で逃げ出したい。いや、靴も財産だから捨てるのはマズいか。


「えーっと、僕は朱里しゅりっていいます。ここはどこですか?」

「質問してるのは俺だ。余計なことを言うな」


 ごもっとも。

 回りを見れば、昔の戦争映画に出てくるような薄汚れたテント。

 いつの時代だと突っ込みたくなるような薪に鍋を据えてスープを煮ていたり。

 剣や槍や弓や矢を研いでる人もいて。

 その中で、僕は罪人のごとく捕まってるわけです。


「シュリと言ったな。所属はどこだ。どこの村の人間だ」

「日本の田舎です」

「ニホン……聞いたことないな」

「あの、ここには迷って出ただけで、ここがどこかも分からないのですが」

「黙ってろ」


 僕に人権は無いようです。ギブミー。


「ところで、お腹空いたんですが」

「黙れ、俺達もだ」


 おや、目の前のリーダー的存在の人も腹を空かせているようですね。

 回りを見れば、四人ほど僕を取り囲んでるわけですが、その人たちも空腹のようです。

 どうやら僕は、食事時に来たみたいですね。タイミングが悪いわけだ。


「隊長、どうすんスか?」

「剥ぎ取れるもの、なさそ」

「このまましとくんも無駄やと思うわ」

「ですが、放って置くわけにもいきません。さっさと殺していくさに備えるべきです」


 物騒。どうやら戦争前の食事みたいです。

 そして僕も身ぐるみを剥ぎ取られそうです。


「あの、いいですか」

「なんだ」

「お腹空いたんで、料理させてもらえませんか」

「……お前、料理番だったのか」


 リーダー的存在の大男さん、便宜的にリーダーさんにしましょう。リーダーさんは訝しげな顔です。

 金髪刈り上げ、鋭い目をしたイケメンです。そして筋肉が凄いです。フツメンの僕としては羨ましい。

 そんなイケメンのリーダーさんは全身に鎧を着ていました。映画でしか見たことないよ、そんな鎧?


「料理なら一通りできます。殺すなら、せめて料理を作って食べてからにさせてください」


 もちろん死ぬのは嫌です。死にたくありません。僕は死にましぇん!


「面白い」


 ふっ、とリーダーさんが笑いました。ニヒルな笑顔です。イケメンはここでもイケメンか。


「ならば、旨い飯を作ってみろ。それによっては生かしてやる」

「隊長?! 正気か?!」

「戦前だ。こういう趣向で士気を上げるのも悪くない。

不味ければ殺せばいい」


 物騒。某歴史料理漫画のような展開になりました。


 縄を解かれた僕は、鍋とまな板と包丁を貸してもらえました。


「食材はそれだ」


 指を示した先には、乳とバターと小麦粉とニンジンとネギと魚と塩とじゃがいもです。


「他に何かありますか?」

「ない。これでも豪華なんだぞ。いつもは塩とじゃがいものスープだ」


 それはつらい……。想像するだけでげんなりしますね。


「じゃあ、海鮮クリームシチューにしましょうか。海老があれば最高なんですけど。ないので魚のアラで代用しましょ」


 アラを嘗めてはいけません。あれはいい出汁と味を出すのです。


 魚を三枚に卸してさっと炙り、一通り調理して煮込んだ鍋に投入して完成。乳とバターと小麦粉がなかったらアラの汁にでもしましたが、この人たちに馴染みそうもなかったので止めました。

 それに、薪を使った調理方法では細かい火力調整のいる料理はできません。今回は強火でも大丈夫な煮込み系スープしか無理なのです。

 何より薪を使った調理は、現代の僕にはあまりにも馴染みがありません。常に強火を意識することでなんとか作れただけです。


「どうぞ」


 皿によそってリーダーさんに渡します。ちなみに、魚の骨と内臓は処理済みです。

 アラのスープにしましたが、アラの骨がそのまま入ってると困るかなって。


「これは……スープが白いな」

「クリームシチューなんで」

「不味かったら殺すぞ」


 失礼な。材料は限られてましたが良いのが出来たはずです。

 一口、リーダーさんは恐る恐る口にしました。

 少し、止まった。


「ええと?」

「隊長、どしたんスか?」

「……旨い」


 リーダーさんがガツガツとシチューを貪り始めました。


「おい、もっと寄越せ」

「あいあい、たくさん作りましたんで心行くまでどうぞ」

「たくさん? あれだけしか材料がないのにか」

「水とアラと乳を工夫すれば、具は少ないですけど量は作れます。

みなさんお仕事前ですよね? 腹八分目、美味しいもの食べれば力が出るかと」


 リーダーさんは驚いた顔をしました。

 ちなみに、宴会料理で嵩増ししながら味を整えるなど山ほどやりました。


「……なるほど、そこまで計算済みか」


 え? たくさん食べらればいいかなと思っただけですよ?


「お前、どこか行くところはあるか?」

「ないです。帰り道すら分かりません」


 明らかに外国なこの場所。日本にはどうやって帰ればいいのでしょうか。

 リーダーさんはクリームシチューを食べ尽くすと、僕の目を見て言いました。


「行き先に困ってるなら、俺達の部隊に入れ」

「えっ」

「料理番だ。お前の役目は旨い飯を作ることだ。故郷に帰れるまで、ここで飯を作れ」

「いいんですか?」

「俺がいいと言っている」

「ええと、それじゃお願いします」


 こうして僕は、リーダーさんの部隊に入ることになりました。

 

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― 新着の感想 ―
>「お前の料理は旨いが、就職先を間違えてるな」 朱里は全然間違えていませんよ。 だって、 >時間にもお金にも余裕ができたから。  和、洋、中の料理本を買い漁り研究、歴史を勉強して昔の料理を再現した…
[良い点] コミックを読み面白かったのでこちら読ませもらいます。 いつか書籍の方も読みたいです、18巻まであるのか、、、 お店でクリームシチューって食べた事無いな 見たことも無いかも? リーダーさん私…
[良い点] 短い文章と適度な改行で読みやすかったです。 異世界に飛ばされてからの朱里の心情で笑いました。 [一言] 最初は様子見で1話の前編だけ読むつもりでしたが、かなり面白かったで続き読んでい…
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