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二章 その九

 翌日の、月曜日。

 登校すると、クラスはちょっとした喧騒に包まれていた。

 一人の女子を中心に、それを遠巻きに眺める生徒達で教室は溢れかえっている。

 彼女を一目見た人は「なにあれイメチェン? すげー可愛いじゃん!」とか「うっわ、思った以上に女子力高いなあ」とか「やっぱそうだ、俺は前々から良いと思ってたんだよ!」と口々に語っていた。

 面白いのは、皆が興味津々といった面持ちで人だかりを作っているのに、彼女の周囲一メートルには誰も近寄ろうとはせず、まるでドーナツのようにぽっかりと空間が出来ていることだった。

 件の中心にいる女子というのは、もちろん、そう。

 石井愛歌、その人だった。

 一見すると石井は静かに自分の席に着き、頬杖をつきながら物憂げに窓の外を見下ろしているかのように見えた。

 だけどこの時、俺は直感的に分かってしまった。あれは憂い顔なんかじゃない。不機嫌な時の顔だ。それも結構、爆発寸前なくらいに。

 みんなヤバイぞ、と俺が周囲に注意を喚起しようとするより、一瞬早く。

「テメェら……」

 彼女は暗い表情のまま、勢いよく立ち上がった。途端、ざわめきはぴたりと止まり、皆の顔が青ざめていくのが見てとれた。

 ぎりぎりと首を回し、石井は集まった全員を怪しく光る三白眼で睨みつける。一通り睨みつけたところで大きく息を吸い込み、そして。

「人を見世物に、してんじゃねえぇぇぇ!」

 あっけなく、プッツンした。

 彼女が叫ぶと同時に、集まっていた生徒達はまるで蜘蛛の子を散らすように逃げていく。中には悲鳴をあげる奴さえいた。黒山の人だかりは瞬きの合間に、閑散としたものになっていった。

 それを見た時の俺の気持ちを、どういう風に表現すればいいだろう。

 彼女の目的は、可愛くなって、イケメン彼氏をゲットして、そして河辺をギャフンと言わせること、だったはずだ。

 確かにパッと見て、綺麗にはなった。そりゃあもう、とっても。

 しかしどれだけ外見を磨いたとしても、中身がこれでは、ホイホイといい男がついてくるわけなんて、あるはずがない。

 やっぱり付け焼刃で女子力を上げさせるより先に、内面を更生させる方が先だったか。

 俺は眉間を軽く揉んで、大きくため息を吐く。

 ええと、こういう時のことを、なんと言うのだったっけ。

 ああ、そうだ。

「……骨折り損の、くたびれ儲け?」

 悲しくなるくらい、身も蓋もなかった。

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