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 城の一室に案内され、召使い達の手を借りて衣服を改めた女王は見違える美しく変身した。十八年も田舎暮らしをしてきたわりに、若さに似合わぬ貫禄と美しさを兼ね備えた女王が現れた。

 ハヤトが関心するように言った。


「やっぱりそういう格好をすると、それなりになるもんだな 」


「それなりか? 」


「臣下に傅かれた絵でも想像するとすごい女王様にみえるよ 」


 召使い達は口の効き方をしらない 田舎者と軽蔑のめざしを向けていた。

 シュラは、このやりとりになれたのか、なんの感情もなく側に控えた小姓といった風情でたたずんでいた。

 女王は、笑っていたが


「それはそれは、礼を言わねばならんな 」


 と周りを気にせずに言った。

 そこへ、この城を預かる武将がやってきた。


「これはこれは、女王陛下。ご無事で何よりでございました 」


「おお、おぬしも息災で何よりだ 」


 ブリッジャー伯爵は堂々たる体躯の持ち主であった。

 生きていたことがうれしかったのでろう、大喜びの様子でいろいろとメレンに話しかけ、今までの苦労を思いやり、涙ぐんだ。

 ハヤトに対して奇異の目を向けた。

 ブリッジャー伯爵は首をかしげて、女王に問いかけた。


「陛下、この男は・・・・・・ 」


「ハヤトだ。私の連れだ 」


 一言で説明されて、伯爵は戸惑い顔になった。

 流浪の女王とこの青年の取り合わせがしっくりこなかったのか、しかし、それは後回しにして、二人を晩餐の席へと案内した。

 そこに並んでいたのは、一生懸命に材料を短い間に揃えたのであろう、豪華でも質素でもない食事が並んでいた。

 伯爵が


「この城は最前線であまり高級な食材を揃えることができません。申し訳ないです 」


 メレンが


「突然の来訪でここまでしていただいて感謝する 」


 国王帰還を持ち望んでいた城主だが、極秘を要するとあって華々しい年会などは行えなかった。

 城主をはじめてとする限られものたちが、女王と食事をともにし、リオグランデ城を含む首都アラモの奪回の豊作を密やかに検討しあったのである。

 その席にハヤトは当然のように混ざり込んでいた。

 ここまでくると、さすがに城主のブリッジャー伯爵だけは平然としていたが、他の主要な騎士たちは相変わらず苦い顔である。


「なんといっても裏切った半数の近衛騎士団。この一万が邪魔です。これをどうにかしないことにはリオグランデ城の奪還は無理かと・・・・・・ 」


「このブリガムの戦力を持ってしても一万の近衛騎士団を相手にするのは至難の技です。また、女王派の騎士達はすべてアラモで軟禁生活を強いられています。その方々の家臣達も、主人に万が一のことがあってはと行動をひかえております 」


 女王が


「となると必然、地方の領主たちということになるな 」


「いかにも。どの領主も今のところは表だってバウディスタ侯爵に反旗を翻す心積もりはないようですが、陛下がお戻りになったことを公表すれば、陛下こそが正当なアイオア女王であると明らかにすれば、彼らの考えも変わりましょう 」


「そうか? 私は国を売ろうとした売国奴らしいぞ 」


 この意見に騎士達は熱心に反論した。


「たしかにバウティスタ侯爵はそう主張し、陛下をおとしめようとはかりました。しかし、それが偽りであることは今ではほとんどのものが知っております。ほかでもない現在のバウティスタ派が行っている行為こそが、陛下の潔白を証明しています 」


 ハヤトが関心したように言った。


「状況は君に有利なようだな 」


「そのようだな。少なくとも人々の心証は好転しているようだ 」


「それはなによりだ。これはもう、まっすぐに国王軍を編成して真っ直ぐにアラモにすすむだけで立派な軍隊が出来上がっているんじゃないのか? 」


「私もそれを考えたが。だが、下手に接近するとバウティスタがどんな手段をでてくるかわからん 」


「人質のことか 」


 メレンは難しい顔をして考え込んでいる。

 ハヤトは少し考えてリオグランデ城の作りを尋ねた。


「港からだとちょっと距離はあるが大手門から三の丸、そこは兵舎、馬場、厩舎、食料保存庫などが点在している二の丸には家臣達の屋敷や武器庫、むろん兵舎もある。一の丸は中枢だな執務室、元老院、離宮などある。本丸には王族のための施設がある。宝物庫と後宮もここだな 」


 と一気に教えた。


「そうすると相当な大きさだな? 」


「伊達に大国の首都じゃないってことだ 」


「人の出入りはどうなっている? 一般市民は城の中へ入れるのか? 」


「三の丸あたりなら普通に入れるだろう。二の丸は許可がない限り無理だな 」


「じゃあ、女王派の人々は二の丸の自分の屋敷で監禁されているわけだ 」


「おそらくな 」


 メレンもハヤトも考え込んでしまった。

 下手に攻め込んでいくと、その人達の命にかかわる。かといってこのままにしておくわけにもいかない。

 会話に加わってなかったブリッジャー伯爵も、深刻な事態に難しい顔でいる。


「我々がアラモへの進撃を思いとどまったのも、それが原因でございます。おそらくは、重臣の方々や一般市民を盾にしてくるに相違ありません 」


 別の騎士も


「我々は犠牲を惜しむ物ではありませんが・・・・・・ 」


 ハヤトが


「アラモを取り戻しても首都が半壊、味方全滅では、どうしようもない 」


「なあ、そこの男 」


 副官らしい屈強な騎士が問いただした。


「ん?おれか? おれはハヤトだ。よろしく 」


「ドレンスだ。陛下のおぼしめとおもうからしたがっているが、もう少し口の利き方は、なんとかならんの? 」


「ならないな。おれは家来でもないし 」


「とりあえず、今日は解散しよう。また、明日改めて考えることにしよう 」

 お開きになった。

 ブリッジャー伯爵は、もう無理なのかと、このまま従うしかないのか絶望しかけていたところに、彼女達は現れた。

 しかも状況に絶望していない。今日はぐっすりと寝れそうだ。 

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