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女王様

今回はちょっと長めです。

「なにか来る 」


 ハヤトが身構えた。今までの経験でこの青年の気配を探る感覚が並の人間の比ではないことはわかっていた。

 そこは、ちょっとした林になっていた。

 間には獣道のような細い道が長く伸びている。

 春の日差しが暖かく、小鳥がおしゃべりをしているかのようにさえずり、平和そのものの光景だったが、青年は構えを崩さなかった。

 メレンは黙ってハヤトの後ろに立ち、様子をうかがっていると農民の格好をしているが目つきがやけに鋭く、動作ひとつひとつ洗練されているものたちが8人ほど林の中からでてきた。

 青年は軽く舌打ちをした。


「お前・・・・・・売れっ子すぎだろう。なんかやばそうなやつがでてきたぞ 」


「ハヤト、お前、本当に自覚症状がないのか? 」


「お前・・・・・・おれのせいにするな! いったい何をしたんだ? 一人を襲うにしては念が入りすぎているぞ 」


 二人で会話を交わしている間に、現れた農民の格好をした男達は油断なく二人を見据えている。皆似たような格好だった。

 中から一番目付きが鋭い男が進み出、女性に向かって丁寧に頭をさげた。


「お初にお目にかかります。アイオア女王、グレンビル・メレン・ドッジ・アイオ二ア陛下ですな? 」


 ハヤトは驚きの瞳をメレンに向けたが、言葉には発しないで黙って聞き役を務めるため身を引いた。もっとも後でとっちめてやろうと思っていたが。


「いっそのこと、流浪の女王とでもいったらどうだ? 」


 慇懃な問いかけに対して、皮肉たっぷりにメレンは言い返した。


「ここでお会いできたのは誠に幸運でした。女王には、この先、どうするご所存でございますか? 」


「どうするもこうするもないな。いまはアイオアに戻る 」


 四十くらいのその男は


「それはようござりました。我々もようやく主君にまみえることができました。陛下。あなたさまが国内にお戻りになることを望んでいるものは、案外大勢いるのです。アイオアそのものが、あなたさまのご帰還を望んでおります。国内はバウティスタ侯爵の反女王派が主流に見えますが、反感を買いすぎています 」


「わかったから早く用件を言え 」


「これより、アイオア国の諜報部門はあなた様の傘下に入ります。 命令をお願いします 」


「先におぬしの名前を言わないか 」


 笑いながら男に尋ねる。


「これは失礼を、我が名はフーパー。アイオアの諜報部門の長であります 」


「あー その前にちょっといいか? 」


 ハヤトが口出しをする


「なんでこの女王はフーパーを知らないんだ?おかしいだろう 」


 メレンが


「私が在位したのは一ヶ月だからな。 目まぐるしい状態で面会は、後回しにされたのであろう。 だれの仕業かしらないが・・・・・・ 」


「フーパー、我々はこれよりアイオアに帰還する。帰還にあたりあまり目立ちたくないので連絡役を一人だけ残して他のものはアラモの様子と女王派の人々の様子をさぐってきてくれ 」


「わかりました。そばにこのシュラを残していくのでご自由にお使いください。

 では、ごめん 」


 七人が消えたように見えた。ハヤトは気配で探っていたが、急速に遠ざかっていた。


「で、説明してくれんだろうな・・・・・・ 」


 ジロッとメレンを見ると


「下郎、女王になんと無礼な! 」


 シュラが顔を真っ赤にして怒っている 

 メレンがシュラを制して


「ちょっとそこで話そうか 」


 メレンは深い息を吐き、ハヤトとシュラを誘って、手近な切り株に腰を下ろした。


「とりあえず、君が正義で、問題の侯爵が悪だと仮定しよう。その上で、君が女王なら、どうして自分の国を捨てて逃げ出したの? それに命が危ないとわかっているのに一人で国へ戻ろうなんて馬鹿なことをしようとしたりしてさ 」


 シュラが睨んでいるが口はだしてこなかった。

 メレンが


「仕方がないのさ。ほかに誰も味方をしてくれるものがいなかったからな 」


「そこがおかしいだろう。いくら政権争いに負けたとしても、女王様は女王だ。王座を追われるしたって、お供の人や忠臣がつくものじゃないの?普通なら 」


 シュラは下を向いて表情が読み取れないが、なんとなく恥じているのを感じる


「いかにも、その通りだ。普通なら 」


「あと、確かめておきたいんだが、メレンとバウティスタ侯爵と、正しいのはどっちなんだ? 」


 メレンはあっさり


「世間の評価で圧倒的に正しいのはバウティスタ侯爵、私はどうしようもない売女で国を傾けて他国に売るような女になっているらしい 」


 ハヤトは大きくため息をつきながら、もう少し悔しいとか怒ってくれなければ、無実の罪で国を追われた悲劇の女王というものを実現してくれなくては、どうにもやりにくい。


「なんか変な話だな。おれの女王様のイメージとあまりにかけ離れているんだが 」


 メレンが笑い声を立てる。シュラは睨んでいるがなんとなく納得しているようだ。


「そのとおりだ。食堂の商人達が言っていたが私は王冠には縁がないはずの女性であった。つい一年前まで、ベリー子爵の娘として子爵の領地、ヒールガン大山脈の麓の領主町カドーで過ごしていた。都会とは無縁でな・・・・・・ひなびた田舎だった。そこで自由気ままに野生児のように暮らしていた。 」


 ハヤトが納得したように頷いた。


「どうりで、王宮暮らしではできないはず野宿はするは、うさぎの解体とかできるなんておかしいと思った 」


「カドーでは意外とよくあることだ。それに引き替え王宮は、女王の生活ときたら、バカバカしいくらい無駄だらけ。風呂に入るのに女官だけで二十人が動くんだぞ。食事も厨房から食堂まで運ばれて、毒味をして、私が食べる頃にはすっかり冷え切っておいしいはずのものがちっともおいしくないんだ。どこに行くのも金魚の糞みたいにぞろぞろと護衛やお供のものがついてくる 」


「口の悪い女王さまだ 」


 ハヤトが冷やかした。


「アイオアの国王は代々優秀でな。数々の戦役を重ねた上で経済も発展させてな。特に先代の国王は偉大な国王として名を残している。先代クニール王は交渉で戦いをなるべく避け、経済を発展させたことで名をはせていたんだ。 」


「先代って、メレンの父じゃないの? 」


「私の育ての父は、近衛大隊長を勤め上げて今は引退して領地にひきこもっているベリーだ。一応、私は先代の王の血はひいているようだが、血だけで父と言われてもな。子供ができない父のところに先代が下働きの女官に生ませた私を自分の子供として育てるように言いつかったそうだ。 その事を内緒にしていたのだが、先代の王が亡くなったときの遺言書に名前が載っていて、それで一時、周りが大騒ぎになった 」


「それで、後を継いで女王さまになったわけ? 」


「いや、先代クニール王には、れっきとした王子が二人いた。その当時二十歳のダン王子と十歳のコーニン王子だ。よほどの事がない限り、長男が後を継ぐのが当たり前でダン王子が国王になるはずだった。 」


「それで? 」


「ところがだ。戴冠式を執り行う二月前のことだ、遠乗りの最中に落馬され、首の骨を折られてあっさりと亡くなられた。 」


「ありゃりゃ・・・・・・ 」


「で、コーニン王子だが、まだ若かったが直系男子ということでバウティスタ侯爵が宰相となって内外の問題を引き受けることにきまった。王として政治をとるには十歳は早すぎるし荷が重いからな。これで安心と思ったら、あまり体の強い方ではなかった王子はあっさりと流行病で亡くなられた。 」


「直系の男子はこれで終わりだが王女もまだ二人いた 」


「へー まさかまた死んだの? 」


「ああ、たぶんお互いに毒を盛ってな。 取り巻きの貴族達がたぶん余計な入れ知恵をしたのであろう。 相手が死ねばあなたが女王だとでも言われたんだろう。 」  

「・・・・・・言葉がないな、それは 」


「実際、国民にとっては悪夢のような出来事であった。私も国を憂いていた一人だが遠い、田舎で過ごしていたからな。 」


 シュラも頷いていた。


「先代の弟ぎみもおられたが、先代よりも早くに亡くなられて、その息子も亡くなられていたのでな。娘さんもいたが、ここだけの話だが、騎士と駆け落ちしてな。今では行方知らずだし、直系の女子としては私のほうがまだ跡継ぎとしては順位が高いからな。 で急遽、田舎から呼び出されて女王を演じる羽目になったのさ 」


「それで女王を演じ始めたのか? 」


「それがな、先代の女王の妹ぎみのアナ姫の息子が候補にあがってな。 」


「うん?家臣に下賜された王族は王族のままなのか? 」


「その本人は王族のままだが、その子は王族の権利はない。王位継承権はないことになるな。 」


「で、妾腹だが直系として最後の一人としていやいや、しょうがなく女王になったわけだ。これでもちゃんと戴冠式をすませたぞ 」


「こればかりは適当なのをというわけにもいかないからな。人身御供になったわけだ。ご苦労様 」


「まったくだ。カドー領主町にいたころが懐かしい 」


 ハヤトは下手な慰めなどを口にしてもしょうがないとわかって黙っていた。


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