噂話
翌朝は昨晩の雷雨が嘘のように晴れ上がった。
旅人たちは朝早い内に宿を発ち、ニミッツ街道を目的に向かって目指していった。
メレンとハヤトも早くから出発したのだが、ミントが進路を変更した。広い街道から外れ、地元の人間が使っているような小道へと入っていく。
「このままニミッツ街道を使っていると違う方向に向かってしまうから 」
とにかく東へ進めばいいというので、進み続けた。
太陽がちょうど真上になるくらいにまた、街道にでた。宿場町があったので昼食をとるため飯屋に行く。
飯屋のおかみさんに
「おすすめの定食を二つと飲み物も二つ、それと弁当も二つお願いする 」
「なんか贅沢だけどいいのか? 」
ハヤトが聞くと
「ああ、今日の夜には国境を越えられるだろうからその前に美味しい物でも食べて鋭気を養おう。夜は国境に近いからうかつに火をおこせないしな、そのための弁当だ 」
なるほどと思いながらちょうど来た昼食に目を向けた。
食事をしていると隣の席に商人風の男が二人腰を下ろしていた。どうやら商人達でいろいろな話を交換している。
「ところで、アラモはどんな風になりましたか? 」
一人がそんなことをいい、もう一人が
「あきまへん。女王を追い出してから宰相のバウティスタ侯爵の権勢はすごいものですよ 」
「でしょうな・・・・・・ あの方はやり手でいらしゃるから 」
「逆に女王様の味方だった人たちは、登城すらしないで家に閉じこもっているそうですよ 」
「それはまた物騒な話ですな・・・・・・ 」
「それで、先代の王の甥に当たる、ええと、アナ姫のご子息を新しい王にしようと考えているようですね 」
聞いていた旅人が
「まさか、戴冠式を済ませて正式な女王を正当な理由なく王位剥奪はできんでしょう? 」
「まったく正気の沙汰ではありませんな、ですがバウティスタ侯爵が実権を握るためにはそうするほかありませんからな・・・・・・ 」
ハヤトは話自体はよくある話だが女王が生きているところが珍しいなと思いながら聞いていた。ふとメレンを見ると心ここにあらずという感じであった。
「それで、アラモ市民なんですが大多数が女王派なんですよ。バウティスタ侯爵派の貴族達が横柄で評判が悪い悪い。いつ暴動がおきるやら 」
「女王が妾腹の子だから体裁が悪いとか言っていませんでしたか? 」
「風向きが変われば変わるもんだと、バウティスタ侯爵の政策自体は立派な物ですが、取り巻き連中が、王の側近になったかのように勘違いしているようです。その部下達も・・・・・・ また、女王を追い出しのはいいけど思っていたほど見返りがなかった貴族も多いのでね。内心おもしろく思っていない連中も多そうですよ。このままでは導火線に火がついてしまうかもしれませんね 」
「おそろしや、当分、アイオア方面に行かない方がよさそうですね 」
国と関係のない旅人の話は無責任だがおもしろいものであった。
メレンが
「おかみさん、ここにお金をおいておくよ 」
とお金を机の上に置き、弁当をもらって店をでる。
メレンが妙に不機嫌そうに足を運んでいる。
ハヤトがその後をついて行っている。
「なあ 」
「・・・・・・ 」
「アラモに知り合いがいるのか? 」
「ああ、父と母が 」
ハヤトはびっくりして
「メレンは両親を助けに行くのか? 」
「当たり前だ、あんな町に置いておけるか! 」
「簡単に両親を助けだせるのか? おれにはこっちの常識がないからさっぱりわからないんだから。警備体制や都市から自由に移動できるか、そのくらいは最低でもわからないと、助けようにも助け出せないぞ 」
「確かに。その前に国境を突破してアラモにいたるかが問題だな 」
「あとどれくらいなんだ? 」
「国境まで半日、そこからアラモまで一週間の道のりだ。道はいいとしても顔がばれている私が、どうやってアラモの中に入るかが問題だな 」
「顔がばれているのか・・・・・・ 世間では美人は得だというけどこの場合は目立ちすぎで駄目だな 」
「・・・・・・美人か? 」
それには答えず
「両親がどこにいるかはわかっているの? 」
「ああ、リオグランデ城の二の丸の中に家があるのでおそらくそこにいるのだろう。だが、あの城は難攻不落の名城だからな。事がこじれるとえらいことになる 」
「そうか? 案外、難攻不落の名城ってやつはひょんなことから落城することが多いぞ。 まあ、二人くらいなら気づかれないで通れると思うよ 」
「ハヤト。お前、本気でリオグランデ城に忍び込むつもりなのか? 」
「ん?なにか問題か? 」
「バウティスタ侯爵が怖くないのか? 」
「知らない人間だからな 」
あっさり言う、こう言うところは大物だと関心してしまう。
「大国から指名手配されてしまうことになるんだぞ 」
「そうはいってもアイオアのことが全然わからないんだからむやみに怖がってもしょうがないだろう 」
とあっさり言い、メレンの見つめてにこりと笑顔で言った。
「それにさ、この世界に落ちてきたときになんで落ちたんだろうかとおもったんだけど、きっと君のお手伝いをしろっていうことなのかもしれない 」
「だれが君をこの世界に使わしたのか? 」
「こっちの世界の運命の神様かいたずらの神様じゃないの? 」
まったく信じてない口調でハヤトは言った。
「でなければ君が信じている神様でいいんじゃない 」
「私は・・・・・・ どんな神も信じていないな。一応、戦いの神には、戦いの前に勝利を祈るのだが・・・・・・ 」
そうこう話している間にネルソン河の岸まで来た。