襲撃そして
一話が長いです。小説を書く練習をするためなるべく細かくしています。申し訳ないですが、気に入ればお付き合いください。
夢を見ていたと思った。
どこもまで続く広い草原と、薫風が頬をなでていく。
三歳のときに魔法を学び、五歳のときには刀をとり、八歳には大人顔負けな腕前になっていた。
最初の頃は短刀で、多少力がついてからは刀を武器に、いろいろなモノと戦ってきた。戦うことは好きだった。また、刀の腕前も自然とあがってきた。
緩やかに体を伸ばし草を背中で押しつぶし、そのふっくらとした草を感じながら、寝ていても感じる陽光が全身を温め、いろいろな花や草の香りを鼻をくすぐる。
快い眠気におぼろげに思い出す。
今は冬だったはずだが・・・
これは夢なんだ。暖かい布団の中で見ている夢なんだと
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その女性は、絶体絶命の窮地に立っていた。
呼吸は荒くなり、目には疲労が見てとれ、剣を握る手にも足取りにも余裕がなくなっている。
金色の髪は乱れ、日に焼けたバランスのいい体には返り血がついている。
今にも斬られてしまいそうな女性の技量は並々ならぬものだった。
襲撃をしてくる敵は、八人に減ってはいたが最初は十二人で各個撃破、孤軍奮闘で四人ほど倒したがそれなりに手強かった。
襲撃者達は、女性を逃がさぬように牽制しながら、包囲し周りを気にしながら決して気をそらさなかった。一度は包囲を抜けられていたのだから、たいへんなものである。
女性は旅姿だった。バランスのよい体を覆うのは皮の防具と衣服、外套もほどよい程度に使い込まれている。歳は若く、十代後半くらいだ。
その見事なまでの剣の腕と実用一辺倒の衣服からすると冒険者のようだった。
その一人を、卑怯に大勢で取り囲んで殺そうとしている連中はお揃いの防具と衣類でどこかに使える騎士のようであった。
白昼堂々、騎士達が一介のの冒険者に襲いかかったりすることはない。こんな卑怯卑劣な行為に手を染めては、騎士たる物の名誉も誇りも地に落ちるはずだった。
枝街道から追い詰められた女性は、脇の草原へ逃げ込んだ。
囲まれるのを避けるためにはそこへ逃げるほかなかったのだ。鮮やかな黄金色の草むらを地味な色合いの服をきた女性が走る。
「逃がすな!囲め」
数の優勢は圧倒的だった。襲撃者たちは草を蹴散らして進み、たちまちぐるりと包囲してしまった。
ここに至って逃げ切れないと悟った女性は足を止め、刺客達を眺め回した。少しでも息を整えようとする。
ここまで追い詰められながら、女性には同様は見られなかった。落ち着き払っていたが、内心これまでかと思ったに違いない。
構えながら、一人でも道連れにする覚悟で刺客達と相対した、まさにその時。
女性の目の前、草むらの中から、青年がむくりと頭を起こしたのである。
背の高い草むらの中で昼寝でもしていたらしい。
女性は驚いた。
刺客達も驚いた。
一番驚いたのは、草むらの中で眠りこけていたらしい人影である。
十七、十八くらいの青年だった。
身長百八十センチくらいで風変わりな上着と袴に身を包みでいる。
目の前で何が起こっているのか、わからなかったに違いない。草むらに座り込んだまま、あっけにとられた表情で刺客達を見つめている。
「危ない!逃げろ!」
殺されそうになっていた女性が叫んだ。
はたして目撃者を残さず殺そうとしたのか、刺客のリーダーが一人に目配せをした。
片付けろ、という合図だった。
その刺客も頷き返して、まだしゃがみ込んでいる青年に殺気をこめて詰め寄った。
ひとり戦っていた女性は、我が身を省みずにこれを助けようとしたが、刺客達はそうはさせないで横合いから他の物が素早くカバーして行く手を阻んでしまった。
女性が怒号をあげる。
「なんの罪もないものまで 殺す気か!」
この青年が己の犠牲になることへの悲痛な叫びだった。
とても助けられない。
刺客は剣をかざしながら容赦なく青年に襲いかかり、切り伏せた。
いや、正確には切り伏せようとしたのだ。振りかぶった剣が青年の頭に振り下ろされた時には、もうその姿はそこにはなかったのである。
「なにぃぃ!」
刺客達も女性も目を疑った。
「ばかな! どこへ行った!」
青年は地面に腰をおろしていたのだ。逃げるにしても視界の外まで動けるはずがない。
慌てる刺客の頭上で、何かが光った。
おそらくその刺客は自分の身に何が起こったかを察することができず、困惑の表情をしたまま、ぐらりと草むらに倒れ込んだ。倒れた刺客から血があふれ出し、地面を血の色に染めていった。
刺客達は戦うのも忘れて、唖然としてその光景に見入ったのである。
一瞬の動作で刺客の頭上まで飛び上がり、あっという間に返り討ちにした青年は、無造作に片刃の剣をひっさげて立っていた。
片手剣なのか両手剣なのか熟練者でなければできない自然な形であった。
「一人を相手に・・・・・・七人?呆れた話だな。どういう理由があるかしらないが、気に入らないな。おまけに問答無用でおれまで殺そうとしやがって、どういうことだ」
言い放ち、殺されかかったいた女性に振り向き、声をかけた。
「助太刀するぜ」
これには女性のほうが驚いた。ぽかんと青年を見つめてしまう。
青年はそんな女性を尻目に軽い足取りで踏み出していた。敵がいるところをめがけて無造作に近付いて、あっという間に二人を斬り伏せたのである。
恐ろしいほどの腕であった。
信じられないような足の速さであり、身のこなしであった。
女性にとっては突然の援護であったが、安堵するよりも我が目を疑っていたくらいである。
しかし強い。刺客達もさすがに踏みとどまり、数人がかりでこの青年を倒そうと必死になっているのに、倒せない。たった一人で互角に立ち回りを演じていた。
一瞬、あまりのことに今の状況を忘れそうになっていたが、なんとか立ち直り、剣を構え直していた。
「ご助勢、感謝する!」
味方を得た女性の動きもまた、水を得た魚のごとく、縦横に剣をふるった。
青年と女性でたちまち5人ほど斬って倒し、残る二人は仲間を放り捨てて逃げ出していったのである。
九死に一生を得た女性は剣を拭って鞘に収め、息を整えながら、突然の味方を見やった。
ごく普通に見える青年に対して、丁寧に礼を述べた。
「危ないところをすまなかった。礼を言う」
刀を収めた青年はあたりを見回し、首をかしげ女性をじっと見つめて話しかけてきた。
「教えて欲しいんだけど、ここ・・・・・・ どこ? 」
女性は首をかしげた。
ずいぶんと不思議なことを聞くもんだと思った。自分のいる場所がわからず寝ていたらしい。
青年は明らかに困惑していた。いるべきはずのところではなく、まったく違うところに来てしまったそんな感じだ。
無地の淡い藤色の胴着と黒の袴、見慣れない靴。
並外れて整った顔立ちをしていることに驚かされる。黒髪に黒目だが双眼は力強くブラックオパールのようにキラキラしている。
荷物もなく冒険者や狩猟を生業にしているようでもなく、この青年の職業をしばらく考えていた。
青年が首をかしげる。
「助けた代わりと言ってはなんだけど、ここはどこなのか教えてくれないかな? 」
「これは、すまない。そうだな・・・ ニミッツ街道から枝別れした道のリーガンの近くだ 」
「リーガン? 」
青年は驚いた。
どこから来たのか知らないが、服装からしてそう遠方でないことは明らかだった。なのにこのあたりで一番大きな大都市の名前をしらないとは・・・
「リーガンはモンタナの地方都市のひとつだ。国境にも近いから大きな城砦都市だ。このすぐ近くだ」
「モンタナ? アメリカかここは・・・・・・」
今度こそ青年は驚愕の顔つきになった。
「何を寝ぼけたことを言っている! 中央三大国のひとつではないか! 」
今度は女性が驚いて青年の言葉をさえぎった。
「ちょっと待てよ?まさか・・・・・・ まさか、日之本じゃないのか? 」
「なんだ、日之本、というのは? 」
女性は真顔で聞き返した。他の人間よりも多くの地理を頭に入れているはずの女性の人生において、初めて聞く地名だった。
「やっぱり違うのか? じゃあ、どこだ! 」
「だから、リーガンの近くだ。モンタナのもっとも西側であり、国境の近くだ 」
青年は大きく呻いた。
慌てて体のあちこちを探り始める。最後に両手を上に向けて広げて見せあきれたポーズをした。
「どうなってやがる。いったい 」
青年が何を嘆いているか女性にはわからない。がそれよりも、もっと気がかりなことがあった。
刺客の2人を逃がしてしまっていたのだ。周りに死体がいくつも散乱している。急いで青年に話しかけた。
「ここにいては危ない。お前、行き先は? 」
「行き先? 」
「そうだ。どこのものかは知らんが、さっきの連中が戻ってくれば、必ずお前をも狙うだろう。命を救ってもらったというのに。あいにく何のお礼もできないが、せめてもの気持ちとして、これを受けてくれ 」
女性が懐を探り、金貨一枚を取り出して青年に差し出しが、青年は手を出そうとしない。首をかしげて女性を見つめていた。
「君は? 君の行く先は? 」
「私は・・・・・・ 東へ向かう。 アイオアへな。 行かなければいけない 」
「じゃあ、一緒に行く 」
「おい!危ないぞ 」
「行くあてはないんだ 」
青年はあっさり言った。
「だいたい、あぶない東へ行かなければいけないって、どういうことさ? 」
女性はほとんど呆れて目の前の青年を眺めたのである。
黒い瞳がまっすぐに自分を見つめ返してくる。真摯な光にたじろいだ。
「行く当てはないと? 」
「うん 」
女性は、この相手をどうしたらいいものか、考えあぐねてしまった。
同行することは今回のような危険にさらされることになることは、わかりきっている。
青年が促した。
「早く逃げたほうがよくないか? 」
その言葉に我に返った。
青年の素性も、これからどうするのかということも、とりあえず、全部後回しだ。
「わかった。着いてこい 」
女性と青年は急いで大量殺人死体遺棄現場を立ち去った。
脇街道から離れた野原とはいえ、いつ何時、人に見られるとも限らないのだ。
しかも、女性のほうは返り血が顔にも体にも浴びていて、すさまじい姿であった。
「さっきの連中は、いったいなに? 」
「私も知りたい 」
「生き残りがいたけど、またやってくる? 」
「おそらくな 」
女性は近くに馬を隠していた。
ひらりとまたがり、青年を同乗させようとするが、青年が首をふる。
「いい、走れる 」
「急いで立ち去らねば、命があぶないのに 」
「少なくとも、自分はその馬より早く走れる 」
「あの丘の上の木まで競争してみよう 」
「おい。アホなことを言ってないで・・・・・・ 」
青年がいきなり走り出していた。
「待て 」
女性は手綱を取り、馬の腹を蹴った。
「ばかな・・・・・・ 」
馬は全力疾走中で馬蹄の響きが地を揺らし、激しく土埃を立てる。
その勢いで馬を走らせているのに、前を走る青年にどうしても追いつけない。
小高い丘の上の木がみるみる迫ってくるが青年には追いつけない。
青年はまるで飛翔しているかのように地面をかけている。
「勝ち~♪ 」
女性も続いて馬を止めた。馬の息があがっている。
「お前の足は・・・・・・どういう作りなのだ? 魔法でもかかっているのか?」
「お!ここには魔法があるのか? 」
「あるにはあるが・・・・・・ そんな魔法は知らない 」
青年が丘の向こう側を見てうれしそうに言った。
「小川がある 」
女性も馬をおりた。
全身血まみれ姿である。
女性は手綱を引いて小川まで降り、馬に水を飲ませ、防具をほどいて洗っていた。
膝上まで水があるがそれほど深くはない。
人の気配はない。
「おい・・・・・・ 大胆なやつだな。素っ裸でいては戦えないだろうに 」
女性は身につけた服をも脱いでいく。
「その前に男の前で裸になるな! 」
命をついさきほど狙われていたにしては大胆な行動をとる女性にあきれていた。
幾度も身をすくいあげて顔や体に飛んだ血を洗い流していく。
その姿を青年はチラ見していたのは内緒であるがバレバレであった。
意外とプロポーションはよかった。